第15話 おしぇーい!

 訓練モードの設定が届いた。視界の右上、視野だと思っていない位置が活用されている。右端が歯車マーク。その隣にメールマークが点滅している。世界で広く使われている電子式デバイスに合わせているようだ。いつかそっちも見てみたい。

 マークに意識を向けて開く。まだ眉に力が入ってしまう。

 契光刀以外での攻撃は禁止。有効打点はベルトラインより上。疑似痛覚微量。ダメージは計算され、戦闘不能となれば終了。部位によってはダメージ量で疑似的に麻痺する。

 リン少尉との軽い練習に比べてガチだ。

 承諾。


 軽く一礼してから正眼に構える。

 ダイ大佐は俺の様を倣う。うん。プロだ。全く勝てないヤツだ。

 形を作ろう。形にしないと負けても得るものはない。

 完全に気持ちを後ろ向き。切っ先を喉元から胸元狙いへ。とにかく初手。動いた瞬間にガン下がりで。

 はい消えた! きったねー、これ妖術?

 でも想定内。ガン下がりの逆、全速で前にステップ。反転しながら気配を探り、追加で後ろにステップ。

 やや低めに構えていた契光刀が、自動で刀身保護を展開する。斬られていたということ。なんでか無事。わかんない。それでもオレンジの光を見て先に妖気回収できた。防御側有利なのか。

「やるじゃないか」

「やれてないです。ずりーっすよ、妖術ですか?」

「君自身が認識していないだけで、やれているじゃないか。現に防げたのだから。まさか前に出るとはな。後ろに下がるのを抜き胴から背中バッサリの予定が」

「いや自分メッチャ攻めるつもりだったんですが、消えてビックリしましたよ」

「そういうことにしておこう」

 まじめにやれ、ってことですね。

「っしゃああああッ!」

「おおおあッ!」

 過去に見たことのある剣道の映像を解析し、自分のものにしていく。今の俺にはそれができる。これは剣道じゃないが、余計なものを混ぜるべきじゃない。一番純粋な技術に寄せる。

 切っ先を揺らす。付け焼き刃結構。殴り勝つ。

 それと同時に、もういっこ計算。

 さっき消えたのは何だ。妖術なのか。いくら速くても消えないだろ。

〔理性:体表の空気層の成分を利用した光の屈折です。また動作にも空気抵抗がありません〕

 妖術じゃねーか! だがなるほど、不思議な体験もいろいろ納得。道理で異常に速く動けるわけだ。

 にしても『空気層』って寂しいな。これほどの機能に加え、命を守るおいしい空気まで作ってくれるのに。ここはひとつ俺が命名してやろう。そうだな、『エアー・トリートメント・フィールド』とかどうだ。略してATフィ、うん、やっぱ空気層で。

 剣道と違う点の一つが、刀身保護を発生させないように近付きすぎないこと。大佐もそのようにしている。だが、そこが狙い目だ。妖気のチャージに関して、大佐だって普通に制約があるはずだ――

 こっちから当ててしまわないように注意しながら間合いを詰める。

 切っ先を揺らしながら、まるでこっちが押しているかのように振る舞う。

 焦れろ。焦れろ。

 少しずつ下がっていた大佐は、やはり面白くないのか契光刀が上向きになっていく。

 三択。

 今はいい体勢なので打ち込まれても仕切り直せる。

 まさかとは思うが、嫌って構えを変えてくれればかなり有利に攻め切れる。

 そして、本命が来た。

 切っ先が接触、互いに刀身保護が発生。今度は大佐はオレンジを譲らない。

 完璧にイメージ通り。そりゃ五分だと思うよなあ?

 ほんの一瞬の無駄な動きに合わせ、さっきの動きをパクる。右脇へ抜き胴。右を狙うのは癖だ。読みを絞り込めていた上に、自分の感覚が置いていかれるほどの速度で叩き込む。

「おしぇーい!」バイブスぶち上げ。そのまま突進して間合いを取る。勝った。

 振り返る。

 大佐は……右腕をだらりと下げている。

「は、はァ? いや、腕で? いやルールはそうっすけど、マジずるくないっすか?」

「ずるいといえば君も大概だと思うんだが、いやはや大したものだ。油断した。姪が言っていたな。異世界からはチートキャラが来るものだと」

「うわーマジかー……自分、妖気のチャージ速度が半分ってのは公開情報ですが……消費ディスチャージも半分で済むんです」

 リン少尉との練習でのチャージ量の推移。初めて火豚を斬ったとき、なぜ連続で刃が発生したのか。その正体がこれだ。

 チートではないと思うんだけど。守りに入ると厳しいから。しかし悔しい。輪枷りんかのある左を狙うべきだったか。

「ふーむ、これは仕返し、お返しをせねばならんな」

 仕返しって言った。

「見せてあげよう。僕の必殺剣を!」

「いっすから! 大丈夫っすから!」

 ああもう、相手は片腕だ。こっちは盾二枚。だいぶ距離もある。凌げるだろ。

「契光流妖術――【火食かじき】!」

 ガッチガチのガチかよ。本当に必殺剣とか使うなよ。馬鹿なの?

 なんかヤバそうなので一枚目の盾を展開。

 すると目前にダイ大佐が居た。ふざけんな、瞬間移動か!

 俺は盾に背を向け即座に二枚目を展開。どこだどこだ。

「げふ! 結構いてえ!」

 向こうに大佐の背中がある。右脇腹をやられた。もう何も見えなかった。背後から敢えて抜き胴とは、実はよほど悔しかったのか。

 戦闘不能。負けである。

「いいいやったあ!……ふーむ、やはり僕は世界最強のようだね。ではこれで失礼する。励み給えよ」

「お疲れっした! あざした!」

 うっわ、顔ニマニマだよ。親父より年上っぽいんだけど。

 ちっくしょ。世界最強め。いつかぶっ倒す!

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