第46話 あんたの仕業か?
陰陽師、
博打で身を持ち崩し、扱う術も外法ゆえ、同業からも疎まれる老いぼれであった。
逃避行の末に辿り着いたのは、人里離れた山奥の朽ちた神社。地脈の乱れを気に入り、彼はそこを終の棲家とした。
彼の得意とする術は【
扱い易い低木に五芒星を刻み、火を焚いて弱らせる。そこへ憑依させるかのように獣を直接召喚するのだ。枝葉を掻き集め幹をぱんぱんに膨らませながらも低木では依代が足りず、獣は全身を砕かれながら断末魔の叫び声を上げる。
穏やかな余生を送っていたある夜。
術の最中、
ところが、それは獣ではなかった。満月に煌めく、銀髪の少年だったのだ。
木から生まれた木太郎とでも名付けようか――子を成さなかった博打好きの老人は、人生の最後で大当たりを引いたことに喜んだ。
それが
☆
ただでさえ混乱しているのに、無造作に送り付けられた情報が現在の情報とごちゃ混ぜになって思考が進まない。
「契戒流妖術――【
〔知性:警告。禁術です――現在の処理能力では介入できません〕
「まったく、妖術師としては無能だったな。術の原理を明かせずして『師』は名乗れん。こちらでいう【
組み合わせ……歪な妖馬を思い起こす。
「まさか、妖獣は自然発生じゃないってことか鵺羽木太郎!」
「フルネームで呼ぶな。自然発生が何を意味するかはわからんが、妖獣に限らず進化というものが個体の意志で成されるとは思うまいな。例えば蛾のおどろおどろしい紋様は、自らそうなっていくようにデザインした結果か? 美しく洗練された紋様が偶然に発生し淘汰された結果だとでも? 否。敵が敵をより強くなるようデザインしてしまうのだ。疑心暗鬼は本当に鬼を生み出す。妖術の根源だな――さあ、俺のデザインをよく見ておけ」
首の辺りが黒ずむ。
「ここだ」
ベルトコンベアで運ばれてきた材料が処理されるように、あっさりと首は刎ねられた。
「顕現できなくなった馬頭は不可視の首となる。首だけでなく神経が不可視になっているようでな、反応速度は通常の生物の比ではない。さっきの様子を見ると、速すぎるのも考えもののようだが」
だめだこいつ、人間を実験動物としか見ていない。
「いやあんたの神経のほうが不可視だわ。マジ反応に困るわ」
「だが本人は幸せだろう。反応にタイムラグがないんだぞ。想像できるか?」
「――あー、よく寝た。会長、おはようございます」
顔色こそ悪いが、
体の構成は女と同様の
宙に浮く首に話し掛ける。
「お、お元気ですか?」
「なんだそりゃ。元気も元気、こりゃとんでもねーぞ
シャドーボクシングの真似事を始める。素人だが、速度はやはり人間ではない。
「思うように動く……違うな、思ったときにはその通りになってる。頭は考えるだけでいい。ゲームより凄いぞこれ!」
「そうだろうそうだろう。脳は単に計算器として扱うから楽なのだ」
「ふざけんな。なに良いことしたみたいな顔してんだ。あんまりだよ、こんなのってないよ!」
「個々の生死など問うておる場合ではないのだがな……それも人間の」
〔感性:貴様が言ったことだろう。敵が敵を強くするのだと。これでは弱肉強食より酷い〕
なんだよ感性、こっち戻ってから喋らんから置いてきちゃったかと思ったよ。
あれ……いま俺、なんか喋った?
「おお……おお、わかりますぞ、御大将! でかしたぞ
「はあ? なに意味わかんねーことを。てかなんでそこで母ちゃんが出てくんだよ」
「うおーすっげー、馬並みってこのことか!」
「はいはいデカいデカい、いま大事な話してっから黙って?」
「すっご~い、ヤってみる?」
「それってもはや自然な交尾ってか黙って?」
〔感性:さて、いろいろ勉強になった。戻るぞ。このタイミングを逃すと次の転移は数日先になる。あまり時間を与えたくない〕
まさか、異世界転移ってあんたの仕業か?
〔感性:……戻れば、私は拘束されるだろう。ネム大尉を頼れ〕
「あー、ちっといいすか、自分、急なんすけど、戻ることになりました。
「元気ビンビンだよ。
「これから
「っさいわ」
〔感性:跳べ!〕
アレか、テレビで編集するアレか。
とうっ!
☆
目の前に中尉が居たので抱きつこうとしたら無理だった。
両腕が無かったので。
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