第45話 戦闘の準備 その2

 それから、俺は家に帰って、ガウとリアと食事をとった。


 食事が終わると、城壁の外、避難民の集落を守るための壁の作成だ。


「ここが最初の防衛ラインだからな」


 突破されたら集落は踏みつぶされる。

 そして城壁でスタンピードを受けとめることになる。

 そうなれば、城壁はあまり長く持つまい。


「気合を入れて作るか……」


 俺はヨハネス商会で買ってきた金属や炭、ガラスなどを取り出した。

 それを使って、地竜だけを止める防壁を作ることにする。


 作る場所は王都側から見て、川の向こう岸だ。

 いろいろな仕掛けを作るのに、川が邪魔だと考えたためである。


「この壁は第一防壁と名付けよう」


 最初にスタンピードとぶつかる防壁だから、そう名付けた。


 第一防壁はしっかりとした王都城壁とは全く違う構造で作る。


 壁というよりも、大きくて頑丈な網である。

 ゴブリンどころか、オークでも容易く通れる程度の隙間がある。


 硬さは求めない。

 弾性に富み、地竜の突撃をうまく吸収する構造とする。


 防壁を作り始めると、ガウはその隙間に不安を覚えたらしい。


「がうー?」


 何度も隙間をくぐっては、通れることを俺にアピールしてくる。


「ガウ。わざと開けているんだよ。地竜だけを止める網だからね」

「がう?」

「千匹の魔物と地竜、同時に一つの壁で止めるのはきつい」


 千匹の魔物は素通りさせて王都の城壁で冒険者や騎士団に受け止めてもらうのだ。


「ガウ!」

「安心しろ。避難民の集落のことも忘れてない」


 地竜さえ止められれば、後はどうとでもなる。

 高さ十メトル程度の硬い城壁で俺の家と集落を囲んでおく。


「これでゴブリンたちは、集落を迂回するだろ」


 ゴブリンの群れの目的は王都なのだ。

 ならばこれで充分なはずだ。


 集落を囲む防壁は物質移動で作れる。魔力消費はあまりない。


 地竜を止めるための第一防壁は物質移動に物質変化を駆使することになる。

 魔力消費はそれなりに大きい。


「劣化速度は速くてもいいはずだ。一日持てばいいからな」


 それでも城壁強化よりも消費する魔力は大きかった。

 弾性に富む素材を網状にして、突っ込んできた地竜を包み込むように食い止めるのだ。


「……まるで狩り用の罠でも仕掛けているみたいだな」


 地竜用の防壁は南側だけしかふさいでいない。

 迂回することも可能だ。

 とはいえ、さすがに全周に防壁を作るのは魔力的にも時間的にもきつい。


「迂回されたときのことも考えておくか」


 落とし穴も作っておく。

 物質移動だけで済むので、魔力消費は少なくて済む。


「……もしかしたら落とし穴は有効なのではないか?」


 地竜ぐらい重い奴だけ落ちる仕掛けを作ればいい。

 第一防壁の手前に落とし穴を作っておいた。

 穴を深くし、中に巨大な槍を仕掛けておく。


「引っかかってくれればいいんだがな」


 第一防壁に注意をとられて、落とし穴に引っかかってくれたら戦いやすくなる。


 最後に川にわなを仕掛ける。

 第一防壁と王都城壁との間に流れる大きくて太い川を利用しない手はない。


「地竜に第一防壁を突破された際は川を使って……」


 小さなダムを上流に作る。

 決壊させると同時に物質移動の術理で水竜を加速させれば地竜も押し流せるだろう。


「時間稼ぎ程度にしかならないかもだが……ないよりはましだろう」


 全ての仕掛けが完成したころには太陽が沈みかけていた。


「凄く疲れた……」

「がう……」「りゃぁ」

「だが、まだ休むわけには行かない。これからポーションづくりだ」

「ガウ!」「りゃ!」


 俺は自宅の錬金工房へと移動する。

 ガウとリアに夜ご飯を食べさせながら、自分も食べる。


「作った工房がさっそく役に立ったな」


 錬金釜にケルミ草やレルミ草などの材料を入れて一気に作っていく。

 空中で保持して作るよりはずっと楽だ。


 ヒールポーションも肉体強化ポーションも俺にとっては作り慣れたもの。

 目を瞑っていても作れるぐらいだ。


 加えて体力回復ポーションと魔力回復ポーションも作る。

 千匹の魔物と戦い続けるならば、きっと役に立つはずだ。


「……念のために肉体強化ポーションに夜目が利くようになる効果も付加しておくか」


 恐らくスタンピードの襲来は昼頃だろう。

 勝つにしても負けるにしても夜間まで戦闘が長引くことはあるまい。

 あくまでも念のためである。



 充分な数のポーションを作ったころには真夜中になっていた。

 リアは俺の服の中でぐっすりと眠っている。

 ガウも工房の隅で横になっている。


「体力回復ポーション、とりあえず自分で飲んでおこう」


 とても疲れたので、自分で飲む。するとすぐに元気がわいて来た。

 明日、激戦になればみんなも必要になるだろう。


「よく眠れるポーションも作っておこう」


 明日が本番なのだ。疲労はなるべく残したくない。


「体が若返ったおかげでだいぶ無理がきくようになったな……」


 今日一日で、相当な量の魔力と体力を使った。

 千年前の八十歳の身体なら、数日寝込むぐらいの疲労度だ。


「寝る前にポーションだけ冒険者ギルドに届けておくか」


 大量の冒険者と騎士たちに配るのだ。 直前に渡されても手配はできまい。


 俺は冒険者ギルドへと走る。寝ていたガウもついて来た。

 避難民の集落をちらりと確認したが、誰もいないようだった。

 ギルバートが手配して王都の中に入れてくれたのだろう。


 冒険者ギルドに入ると、真夜中だというのに職員が働いていた。

 明日の襲撃に備えて、色々と準備があるに違いない。


「ポーションを作った。冒険者の皆に配ってくれ」

「ありがとうございます! 任せてください!」


 ギルド職員にポーションの用途や効能、使い方などを詳しく説明してから自宅へと戻る。


「体力回復ポーションと魔力回復ポーションを飲んでおくか。あとよく眠れるポーションを……」


 俺は三種のポーションを作って一気に飲むと、ベッドに倒れこむようにして眠りについた。

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