第44話 戦闘の準備

 ギルバートは非常に暗い表情を浮かべている。

 俺はギルバートの正面に座りながらなるべく明るく言う。


「手がないわけではない」

「ルード。本当か? 何か策があったりするのか?」


 ギルバートは身を乗り出した。そこまで期待されると少し困る。

 俺にも起死回生の作戦があるわけではないのだ。

 だが、何も策がないわけではない。


「まず城壁を強化する。許可が得られればだが……」

「許可は俺がなんとかしよう。だが、強化って、どうするんだ?」

「俺が錬金術師だとは話したな? 錬金術は物質を変化させる術だ」

「ふむ?」

「つまりだ……」


 俺は錬金術を用いれば、城壁を強化することが可能だということを説明した。


「錬金術のことはわかったが……。時間はないが大丈夫なのか?」

「普通の錬金術師なら無理だが、俺なら何とかなる」

「そうか。ならば頼む」

「城壁の他にも……」


 俺は城壁の外側にさらに壁を作ろうと考えていることも伝えた。


「避難民たちは王都の中に入れる予定だが、壁もあったほうがいいだろうな」


 ギルバートは深く頷いている。

 避難民たちの生活基盤が壊れることを、ギルバートも心配してくれたようだ。


「あと錬金術で薬も作ろう。ケルミ草レルミ草は集まっているか?」


 ケルミ草とレルミ草に関しては先日採集依頼を出しておいた。

 自分でも結構集めてあるが、王都中の冒険者に配る量を作るには充分ではない。


「確認してこよう。少し待っていてくれ」

「頼む」


 ギルバートは部屋を出て行ってすぐに戻って来た。


「かなりの量が集まっている。安心してくれ」

「全て受けとろう。それを使ってポーションを大急ぎで作らせてもらう」

「ありがたいが、ルードの体力が持つのか?」

「多少は無理すべき時だろう?」

「それはそうだが……」


 ギルバートは心配してくれているようだ。


「そうだ、ギルバート。スタンピードとの戦いのとき、俺は自由に動きたいんだが」

「かまわないが、何をしたいんだ?」

「なんとかして魔人を討伐したい」

「いやいやソロで魔人は……、いやルードならいけるか。むしろルードにしか出来まい」


 俺が魔人を一人で三匹倒したことを思い出したのだろう。

 否定しかけて途中でギルバートは真顔になった。


「地竜も何とか抑えたいが、千匹の魔物との戦いへの加勢は期待しないでくれ」

「ああ。わかった。雑魚魔物たちとの戦闘は任せてくれ」

「すまないな」

「いや、明らかにルードの負担の方が多いだろう。こちらこそすごく助かる」


 ギルバートとの打ち合わせが終わった後、俺はギルド受付に向かう。

 ケルミ草とレルミ草を受け取るためだ。


 受付に到着する前に、不安そうな冒険者たちに囲まれた。


「ルードさん、スタンピードですよ」

「どうしましょう、ルードさん!」

「まあ、落ち着け」


 冒険者たちを、なだめて俺は受付でケルミ草とレルミ草を受け取る。


「はい、ケルミ草とレルミ草ですね、ご用意できています!」


 そういって受付担当者は大量のケルミ草とレルミ草を渡してくれた。


「お、多いな……」


 俺が想定していた以上に、すごい量だった。

 ケルミ草とレルミ草を採りに実家に帰っていた例の冒険者が得意げに笑う。


「農閑期だったからな! 村のみんな総出で集めたのさ」

「そうなのか、それは助かる」

「こっちこそ買い取ってもらえてすごく助かったよ。村のみんなも大喜びさ!」


 おかげで大量のポーションづくりの目途がついた。

 俺はその場にいる冒険者に向けて言う。


「今から大量の怪我薬と肉体強化のポーションを作る。それがあれば大丈夫だ」

「はい!」「わぅ!」

「ということで、俺は作業に行く。皆も明日に向けてゆっくり休め」

「はい!」「りゃ!」


 なぜか冒険者たちと一緒にガウとリアも返事をしていた。

 冒険者たちのテンションが上がったのを敏感に感じ取ったに違いない。


 俺は冒険者ギルドの建物をでると、そのまま王都の外へと向かう。

 まず最初に城壁の強化にとりかかることにする。


 王都は広い。それを囲む城壁は当然のように長く、そして高い。


「城壁強化は物質変換なんだよな……。魔力持つかね……」


 物質変換は分子構造から変える術式である。魔力消費は高い部類に入る。

 地竜の突撃を防ぐほどの強化を城壁全体に施すのはとてもではないが無理だ。


「せめて一週間、いや三日あれば材料はともかく魔力は持つのだが……」

「りゃあ?」


 心配そうに、服の中から顔だけ出して、リアがこっちを見上げる。

 俺は安心させるためにリアを優しく撫でて言う。


「大丈夫。何とかなるさ」


 俺しかできないことなのだから、頑張るしかない。

 自分のできる最善を尽くすしかない。


 俺は城壁に手を触れて、一気に術式を展開させる。

 壁内部の炭成分と水晶成分を組み合わせて、ものすごく硬い物質へと変換する。

 このままだと脆いので、形態変化も同時に用いて極小の繊維を束ねた構造に変えた。


 一度に変えた範囲は縦横十メトルの範囲である。

 もっと一気に変えることも可能だが、そうすると魔力消費が一気に増加してしまう、


 強化した壁に魔法を加えてさらに強化する。

 城壁全てを同様に強化するのは無理だ。だから南方向だけを強化する。


「……うーむ。やはりこのままだと何度も地竜の突撃を食らえば、崩壊するよな」


 とはいえ、脆くて硬くない今の城壁よりはましだ。

 地竜の突撃も一度だけ、いや数度だけなら何とか防ぐだろう。

 それに魔人の魔法攻撃も数度は防げるに違いない。


 昼前には城壁の強化は完了した。

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