第43話 王都に戻ろう

 地竜の他は、ゴブリンなどの雑魚が中心だ。

 だが、数は多い。全部で千匹はいそうである。


 しかも、ゴブリンの中に、ゴブリンロードなども混じっている。

 少ないが、オークやオーガもいる。


 地竜抜きにしても、精鋭の騎士団を同数ぐらいは動員しないと、止めるのは難しかろう。


 俺は観察を続ける。

 より正確な情報をギルバートに報告するためだ。


「……随分ときっちり王都へと向かっているな」


 明らかにこれはスタンピードを利用した魔王軍の進軍だ。

 少なくともそう考えて動くべきだ。


「……厄介な話だ」


 観察を続けると、一匹の魔人が目に入った。

 大きめの飛膜のある羽を震わせ、魔物の集団、その中央上空を悠々と飛んでいる。


 その翼とこめかみの上から生えた大きめの二本の角を除けば、人間と変わらない。

 身体は細身、金色の綺麗な髪は長く、顔は整っていた。

 身長は二メトル以上あるだろう。

 

 隠ぺいが強力なため、魔法では探知できず、肉眼で見るしかない。


「あいつがこのスタンピードを操っている奴と考えるべきか……」


 その魔人の観察を続けようとしたその時、魔人がはっきりとこっちを見る。

 目が合った。


「……嘘だろ」

 

 魔人と俺との距離は二万メトルはある。

 その上、念のために俺は木々の陰に身を隠しながら見ている。

 しかも夜だ。向こうから、こちらに気づくわけがないのだ。


 目が合ったと感じたのは気のせい。

 そう考えたとき、魔人は俺を見てにやりと微笑んだ。


「……確実にこっちを認識してやがる。思ってたよりやばい魔人だ。ガウ、帰るぞ」

「がぅ」


 俺は大急ぎで王都へと戻る。


「無策でぶつかるのはまずい。対策が必要だ」


 行きよりも急いで走る。

 ガウも息を切らしながら、ついてきてくれた。


 王都には夜明けとほぼ同時に到着した。

 まっすぐ冒険者ギルドに向かう。

 ギルバートは、不在だったため、偵察結果の報告書を作って提出。

 すぐに自宅へと戻って少し寝た。


「りゃ!」

「起こしてくれたのか、ありがとう」


 起きたら眠ってから三時間後だった。

 リアとガウと一緒にご飯を食べながら考える。


「さて……。どうするか」


 王都の壁を強化して、その外側にも壁を作りたい。

 敵は千匹の魔物と、巨大な地竜。加えて強そうな魔人である。

 俺が確認していない敵もいることを前提として対策を考えた方がいい。


「魔物たちは騎士団と冒険者に任せるとして……」


 大量の肉体強化ポーションが必要だ。

 けがを治すためのヒールポーションも、沢山いる。


「地竜は騎士団にも冒険者ギルドにも任せられんよな……」


 何とかして足止めする方法を考えねばなるまい。

 王都の壁に到達されれば、王都の壁を破壊される。

 そうなれば、戦線が崩壊するだろう。


「地竜を足止めしている間に、魔人を倒すことができれば……」


 魔人がスタンピードを操っているならば、魔人を倒せば止まる可能性はある。

 止まるまでは行かなくとも、王都を絶対的な目標とはしなくなるはずだ。

 そうなれば、スタンピードの行き先を王都から、そらすことも可能になる。


「魔人と何とか一対一で戦えれば……」


 何か作戦を考えておかねばなるまい。


 そんなことを考えているうちに、食事は終わる。

 ガウに薬を塗り終えると、俺はヨハネス商会へと向かった。


「お待ちしておりました! ご依頼の品は全部そろえてあります!」


 ヨナは元気にそう言った。だが、目の下にはくまができている。


「すまない。無理をさせた」

「いえいえ。顧客の要望を全力でかなえるのがヨハネス商会ですから」

「助かった。これで、少しはましになりそうだ」


 するとヨナはそっと俺に近づいて耳元で囁く。


「やはり……スタンピード対策に必要な物ですか?」

「……知っていたのか?」


 スタンピードに関することは機密情報だ。

 民が知れば大きな混乱が起こって、被害が拡大することになる。


「はい。商人にとっては情報が命ですから」

「そうか。……ヨナは逃げなくていいのか?」

「私だけ逃げるわけには行きませんから。それにルードさんが動いてくれるのでしょう?」

「全力を尽くすつもりだ」

「なら安心ですね」


 そういって、ヨナは笑った。

 期待に応えるためにも、何とかして王都を守り切りたいものだ。


 ヨナに聞いたところ、トマソンたちは冒険者ギルドに向かったそうだ。

 いつもはヨハネス商会専属で働いているが、緊急時ということで召喚されたらしい。


 俺はヨナにお礼を言って、ヨハネス商会を後にする。

 そして、その足で冒険者ギルドへと向かった。


「おお。ルード! いま会いに行こうとしていたところだ!」


 俺がギルドの建物に入ると同時にギルバートが駆け寄ってくる。


「ルード! とりあえず、こっちに来てくれ」

「わかった」


 ギルバートにギルドマスターの部屋へと連れていかれた。

 皆に聞かせたくない話をしたいのだろう。


 部屋の中に入ると、ギルバートは俺に椅子を勧めながら自分も座る。

 俺が座るのを待たずに、ギルバートは話を始めた。


「報告書を読ませてもらった。魔人が率いる地竜と千匹の魔物……。確かか?」

「この目で確認した」

「そうか。ならば信じるしかあるまい……」


 ギルバートはそういって、頭を抱えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る