第42話 スタンピードの様子

 ギルバートは魔導師としての俺に期待しているようだ。

 それは仕方ないのないこと。

 ギルバートは俺の錬金術の真価を知らないのだ。


 俺はギルバートに尋ねる。


「協力するのは当然としてだ。どうやって防衛する予定なんだ?」

「王都の城壁を使うしかあるまい」

「まあ、妥当ではあるが……」


 王都の城壁で防衛するとなると避難民の集落は壊滅する。

 その俺の懸念が伝わったのか、ギルバートが言う。


「避難民の者たちには王都の中へ入ってもらうつもりだ」

「命を守るためには当然だな」


 王都の中に入ったとしても、集落の者たちの生活基盤は全て壊滅するのは同じだ。

 俺の家も当然壊れる。作った井戸もそうだ。


 俺の家はともかく、集落の者たちの生活基盤が壊れるのは非常に厳しかろう。


「できれば城壁の外、川の向こう辺りで防衛したいが……」

「俺だって、そうしたいが……難しいだろう?」

「そもそもだ。ドラゴンなどの大型魔獣を含むスタンピードだろう?」

「ああ」

「王都の城壁が、果たして持つのか?」

「……だが、他に手がない」


 ギルバートも王都の城壁なら防げると思っているわけではないようだ。


「ギルバート。偵察に行ってきていいか?」

「もちろん構わないが……二日後の襲来までには戻ってきてくれ」

「当然だ。さっそく準備を始める。偵察を終えたら冒険者ギルドに顔を出そう」


 それからギルバートからスタンピードのわかる限り正確な位置と速さを聞いた。


 そして、俺は王都の中に戻り、ヨハネス商会へと向かう。

 ヨナが出てきて対応してくれた。


「ルードさん、どうしましたか? 建材が不足しましたか?」

「建材ではないが、揃えて欲しいものがあるんだ」


 俺は防衛に必要になるかもしれない物を揃えてくれるように依頼した。

 鉄、ミスリル、オリハルコンなどの金属や木材。

 硫黄や水銀などの錬金素材などだ。


「珍しい物も含まれるが……。二日、いや一日でそろえて欲しい。可能か?」


 二日後にスタンピードが王都に到達するならば、準備も含めて一日前には欲しい。

 それにスタンピードが加速する可能性もある。


「……何とかしてみせましょう」

「ありがとう。すごく助かる」


 ヨナと代金の相談をしてから、ヨハネス商会を後にする。

 そして王都の外へと向かう。


「リアとガウはどうする? ついてくるか?」

「りゃ!」「がう!」

「そうか。じゃあ。行こうか」


 俺はまず肉体強化のポーションを作ることにした。

 肉体強化に限らず、ほとんどのポーションはヒール、キュアポーションの亜種だ。


 ヒールポーションは基本的に身体活動を活発にする。

 それにより治癒能力を向上させて傷を癒すのだ。


 そしてキュアポーションは身体の状態を強制的に平常時に近づける。

 それにより病をいやすのだ。


 ヒールポーションもキュアポーションも、人体の限界を超えて作用する。

 最高級のヒールポーションは切断された手足すらも生やすことができる。

 キュアポーションも致死性の病で瀕死の状態からでも回復できる。


 肉体強化のポーションは、ヒールとキュアの効果を上手に組み合わせることで作るのだ。

 つまり主原料はケルミ草とレルミ草だ。

 ちなみにガウに毎日塗っているお薬の主原料もまたケルミ草とレルミ草である。


「よし、出来た。味も苦くないな。うん」


 完成した身体強化ポーションを俺は飲んでから、ガウの前に置く。


「ガウ。これを飲むといい」

「がう!」


 素直にガウが飲んだことを確認すると、俺は走り出す。

 ポーションで強化されたガウはとても速かった。


 俺はリアを肩に乗せ、ガウと一緒に休みなく南に向かって走る。

 探知魔法でスタンピードの集団を探りながら走った。


 だが探知魔法に引っかからない。


「ギルバートの話から推測するに、そろそろだと思うのだが……」


 俺は高い岩山を一気に登る。ガウも難なくついて来た。

 時刻は未明。まだ日が昇る気配はない。

 月明りと星明り以外に光源はない。


 岩山の頂上から南方を見ると、遠くに何かの大集団が見えた。

 恐らくあれがスタンピードだ。


 だが、土煙に覆われて、よく見えない。探査魔法にも正確に反応しない。

 集団全体に隠ぺいの魔法を使っているに違いない。

 あれだけの規模の集団を隠すとは、大魔法と言っていい。


 ギルバートの情報があまり判然としていなかったのは隠ぺい魔法のせいだろう。

 スタンピードは危険すぎて、近づけない。

 だから正確に調べるには探査魔法に頼ることになる。


「それを防ぐための隠ぺい魔法か……」


 敵は冒険者ギルドが見張っていることは百も承知ということだ。


「探査魔法が使えないのなら、視力を強化するしかないな」


 俺は錬金術で、視力強化の薬を作って飲む。

 土煙でぼやけていた向こうまでくっきり見える。


「随分と数が多いな。大物は……」


 体長十メトル、体高三メトルはある巨大な地竜が一頭いた。


 地竜とは羽のない四足の竜だ。

 強力な角と牙と爪を持ち、その突進を受ければ、城壁は容易く崩れるだろう。

 鱗は堅固で、剣や槍も通さない。


 王都の壁も地竜の突撃を食らえば崩れるだろう。


「これは厄介だな……」 


 俺は思わずつぶやいた。

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