第41話 ギルバートの依頼

「ここにルードヴィヒという冒険者はいないか?」

「客は俺に用があるようだ」


 その声は、冒険者ギルドのマスター、ギルバートのものだった。

 ヨハネス商会に伝言を頼んでおいたので、俺の居場所を知ったのだろう。


 俺はすぐに集落の入り口へと向かう。


「ヨハネス商会に聞いた。あの屋敷がルードの新しい住み家か?」

「ああ、そうだ。ガウがいるから狭い家に住むわけにはゆくまい」

「確かに運動量が多そうだものな」


 そういって、ギルバートはガウの頭をワシワシと撫でる。

 それから、集落の皆を見る。


「交流中のところ邪魔して悪かったな。緊急の要件なんだ」

「ああ。少し待ってくれ」


 俺は集落の皆にお礼を述べて、急用ができたことを伝えて中座することをお詫びする。

 集落のみんなは快く俺を送り出してくれた。


「みな、楽しんでいたところを、邪魔してすまないな」


 ギルバートも集落の皆に謝り、持参してきた酒を渡していた。

 用意のいいことだ。


 それから俺とギルバート、ガウ、リアで俺の家へと歩いていく。


「それにしてもでかい屋敷だな。貴族の屋敷より立派なんじゃないか?」

「土地代がかかってないからな」

「いや、それより、どうやって建てたんだ? 数時間しかたってないぞ?」

「……実は隠していたんだがな」


 俺は錬金術師であることをギルバートに伝えた。


「錬金術師っていうと、詐欺師のことだろう?」

「現在ではそうだな。だが俺は伝説の時代の技術を持つ本物の錬金術師だ」

「俄かには信じがたいが……」


 そういいながら、ギルバートは俺の屋敷を見る。


「魔法薬といい、この屋敷といい、魔導師では難しいことをやっているのは確かだな」

「本物の凄腕の錬金術師ならば、このようなことも出来る」

「……まあ、呼び名はともかく、ルードが魔導師の規格に収まらないことなのは間違いない」


 そして少しギルバートは考えた。


「呼び方よりも、ルードが凄いことができるって事実の方が俺にもギルドにも大切だ」

「今はそれでいい」


 俺が技術を広めてから錬金術の名を広めても遅くはない。

 むしろ、技術さえ広まるならば、錬金術という呼び名でなくてもいいぐらいだ。


「で、凄腕の錬金術師の俺に、緊急の用件ってのはなんだ?」

「ああ。南方で魔物のスタンピードが確認された」


 スタンピードとは集団暴走のことである。

 大量の魔物が暴走し、すべてを破壊しながら進撃していく。

 その進路上にあるものは、堅固な城塞だろうと破壊されかねない。


「南方、ってことは魔王軍の領域か?」

「そうだな。非常に近い」

「噴火でも起きたのか?」

「噴火は確認されていない。要因は調査中だ。まだわからん」


 スタンピード発生の要因は様々だ。

 噴火や地震などの自然災害が要因となることもある。

 人為的に引き起こされることもある。

 魔物同士の争いがきっかけがもとになることもある。


「緊急の要件というのは、スタンピードで被害を受けた魔王軍に攻め込むってことか?」


 王国としては、千載一遇のチャンスと言えるだろう。

 それで戦力をかき集めていて、俺に声がかかった。


 そう考えたのだが、

「そうだったら、いいんだがな」

「ん? 違うのか?」

「発生地点は南方だが、スタンビートの向かっている先はここだ。王都なんだ」

「なんだと? 詳しく説明してくれ」

「魔王軍対策のために、優秀な冒険者たちが国に雇われていることは話したな」

「ああ」


 彼らの任務の一つに南方の情勢偵察がある。

 たくさんの優秀な冒険者から、同時にスタンピート発生の報が入ったらしい。


「優秀な冒険者たちが沢山いるのに、要因がわからん。つまりだ」

「魔王軍が意図的に発生させたと考えるべきか?」


 俺がそう言うと、ギルバートは深く頷いた。

 自然発生したスタンピードなら、まっすぐ王都に向かうというのは考えにくい。


「誰が何の意図で発生させたかはともかくだ。俺たちは王都を守らねばならん」

「途中にある村は?」

「幸か不幸か、王都より南方の地域は人族はほとんどいない」


 魔王軍を恐れてどんどん避難してきている。

 それゆえ、避難誘導はさほど難しくないようだ。

 加えて、一直線に王都に向かっているため進路も予測しやすい。

 冒険者を派遣し、順調に避難は進んでいるとのことだ。


「いつごろ、王都に到達予定なんだ?」

「二日後だ」

「規模は?」

「不確定な要素は多いのだが、数百体規模と考えた方がいいだろう」

「構成は?」

「これも不確定要素が多いが、ドラゴンらしき影を見たというものもいる」

「……それはきついな」

「ああ、可能なら王都から人を避難させたいぐらいだ」


 だが、人口の多い王都から民を避難させるのは、さすがに現実的ではない。


「腹立たしいことに貴族連中は、ひそかに逃げ出しているがな」

「まあ、そんなもんだろう」

「で、本題だが優秀な魔導師でもあるルードに王都防衛に手を貸してもらいたい」

「わかった。協力しよう」


 俺が快諾すると、ギルバートは少しだけ微笑んだ。

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