第48話 魔人対錬金術師

 俺は満面の笑みを浮かべて言う。


「もしかして、雷が気にいりました?」

「きさ……ま……」

「言っていただけたら、雷ぐらいいくらでも流して差し上げたのにー」


 激高して襲い掛かってくることを期待して煽ってみた。

 だが、魔人は意外と冷静だった。

 すぐに立ち上がると、後方に飛び退る。


「なぜ、生きている?」

「……え? まさかと思いますが、今の魔法ごときで殺すつもりだったんですか?」


 俺は見下した目で魔人を見る。


「もしかして、お前、雑魚か?」

「きさまあああああああああああ!!」


 魔人は表情を変えて、俺に向かって襲い掛かって来た。

 激高させることに成功できたようだ。


 ガウを狙われたり、空を飛び俺をスルーして王都に向かわれたら困ったところだ。


「ふざけやがってえええええ!!」


 魔人は一気に間合いを詰めると、その手に持った剣をふるう。 

 さすがに速い。並みの魔物とは違う。


 俺が後ろに跳んでかわすと、魔人は魔法で追撃してきた。

 威力は控えめ。速度重視の魔力弾だ。


 俺は大気中の水を操り、氷の障壁を作って魔力弾を全て防ぎきる。

 水を集めて、氷へと変化させるのだ。

 物質移動に形態変化。

 魔力消費の少ない錬金術だが、素早く実行するのはそれなりに難しい。


 さらに来るであろう追撃に身構えていると、追撃が来ない。

 なぜか魔人が硬直してこちらを見ていた。


「……貴様、錬金術師か?」

「その通りだ」

「錬金術師と戦うのは数百年ぶりだ。いまだに生き残っていたとはな……」

「懐かしいか? それは良かった。存分に懐かしめ」


 ばれたのなら、どんどん使わなければ損である。

 俺は魔法の鞄から水銀を取り出して周囲にばらまく。


「お前……何を……」


 口で説明してやる義理はない。

 俺は錬金術で水銀を地面を滑らせ、魔人に近づけ鋭利な形に変えた。

 いってみれば、水銀の槍である。


「猪口才な!」


 魔人が水銀の槍を魔法障壁で防いだ。

 そして俺を目掛けて走り出し間合いを詰めようとする。

 俺はその背を目掛けてさらに槍を繰り出していく。


 水銀の槍の連撃を、魔人は魔法障壁を繰り出しつつ、剣をふるって砕いて防ぐ。

 砕かれても、すぐに再生させられるのが液体である水銀のいいところだ。


「このような攻撃が! 我に通じると思って!」


 水銀の槍を砕きながら、俺に突っ込んでくる。

 俺は魔人の足を水銀で捕まえた。一瞬魔人はつんのめりかける。


「下等生物が! 舐めるな!」


 魔人は全身から炎を発した。

 身体を炎に変換したのではなく、炎魔法を繰り出したのだ。


 水銀の沸点は鉄や銅などの金属に比べて圧倒的に低い。

 みるみるうちに蒸発していく。


「小賢しい錬金術師が!」


 魔人は超高速で間合いを詰めてくる。

 そして剣をふるう。岩だろうが容易く斬りおとすほどの鋭い斬撃。


「いい斬撃だ」


 俺は剣を右手でつかむ。

 右手の表面を錬金術で硬化させたオリハルコンで保護したのだ。


「なん……だと……」


 魔人は錬金術にそんな術理があるとは知らなかったに違いない。

 なぜ剣が手でつかまれたのか分からない。そんな驚愕の表情を浮かべていた。


「貴様、一体、何者なんだ……?」


 唖然としている、その魔人の表情が俺には不満だ。

 本当の錬金術師を知っているならば、この程度で驚かれては困る。

 この魔人は、往年の錬金術を知っているのではないのか?


「お前らは、錬金術の、いや人間の恐ろしさを忘れてしまったようだな」

「貴様は何を言って……」

「存分に思い出せ」


 俺は右手で握ったままの剣を錬金術で変形させる。

 形態変化の術理。魔力消費は少なめの技だ。

 とはいえ、魔法や錬金術で強化された剣なので、少し形態変化させるのは難しい。

 だが、俺ぐらいの実力の錬金術師ならば、問題ない。


 魔人の剣はくにゃりと曲がり、直後、魔人を突き刺そうと一気に伸びる。


「ひっ」


 魔人は自分の剣から手を離して、後ろに跳んだ。

 俺はぐにゃぐにゃと触手のように動ごめく剣を魔人に見せつけながら言う。


「剣を忘れているぞ」


 剣を数十の小さな金属の鋭利な刃へと替えた。

 それを一気に魔人目掛けて高速で飛ばす。


「ちぃ!」


 魔人はさらに俺から距離を取る。

 だが、刃の方が魔人より速い。加えて俺は刃の軌道を変えて魔人を追わせる。


「死ねぇ!」


 苦し紛れに魔人は攻撃に転じた。

 巨大な火炎を俺に向けて放ってきた。


 俺は火炎を防ぐために、錬金術の術理である物質移動で空気の流れを操る。

 空気の壁に当たって、炎を周囲へと拡散させる。炎は俺に到達しない。

 代わりに周囲を歩いて進軍していたゴブリンたちが数十匹焼け死んだ。


 ガウは炎を器用に避けている。やはり敏捷度がかなり高い。


「おいおい、お前の部下たちが可哀そうだろう?」


 その直後、俺の操る金属片が魔人に降り注いだ。

 そして、着弾と同時に金属片を爆発させる。


 ――ドドドドドドドォオオオーーン


 いくつもの爆発音が重なって、大きく響く。

 同時に爆風が一気に拡散する。

 木々やゴブリンやオークたちの集団が薙ぎ払われた。


「倒せたゴブリンは数十匹程度か。いまいちな火力だ」


 俺がぼやくと、血みどろの魔人が呻く。


「貴様ぁ……、いったい何をした……」

「だから錬金術だって言ってるだろう?」

「…………その風貌、まさか忌まわしいルードヴィヒか」


 魔人は俺の顔を睨みつけながらそう言った。

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