第11話 冒険者ギルド

 すわっ新人いびりか!

 そう思って、俺は後ろを振り返る。

 そこには大柄で屈強な男がいた。恐らく戦士系冒険者なのだろう。


「やめとけとは、どういう意味だ?」

「その恰好。最近はやりの南から避難民なんだろう?」

「避難民ではないが……、南から来たってのは、まあそうだ」

「うむ。食うに困って、資格のいらない冒険者になろうってことだろう?」

「まあ、大まかに言えばそんなところだ」

「腕に覚えがないならやめとくべきだ。他に仕事はある。まあ最近は就職難だが……」


 そして俺を上から下に吟味するかのように見た。


「就職難で仕事は選べないが……、すぐに死んでしまう冒険者よりはましってもんだ」

「御忠告はありがたいが……」

「友達が大工の親方をやっているから紹介してやってもいい。見習いの給料は安いが……」


 どうやら、新人いびりに来たわけではないらしい。

 男は本気で俺のことを心配しているようだ。

 俺は粗末で泥だらけの服を着た筋肉のあまりついていない若者だ。


 一目で戦士として鍛えられた体ではないとわかる。

 そして魔導師なら就職には困らないので、ここまで粗末な服を着ているわけがない。


 戦闘技能を持たないのに食うに困って冒険者になろうとしていると判断したのだろう。


「御忠告はありがたいのだが、実は俺は魔導師なんだ」


 俺は魔法も使えるが、本当は錬金術師だ。

 だが、ヨナとトマソンから現在の錬金術師の評判は聞いている。

 当面は魔導師と言うことにしておいた方がいい。そう判断した。


「嘘をついてもすぐばれるが……」

「嘘じゃないさ。安心してくれ」


 俺は右手の人差し指の先に小さな火の玉を灯して見せる。

 男は驚愕し、目を見開いた。

 同時に冒険者ギルドがざわついた。特に魔導師連中の驚きっぷりは凄い。

 魔導師たちが一斉に立ち上がる。魔導師たちの座っていた椅子が大きな音を立てた。


「うお! 無詠唱だと! 凄腕の魔導師だったか」

「すげー。初めて見た!」


 魔導師たちの驚きの声が上がる中、俺は男に向かって笑顔で言う。


「こういうことだから安心してくれ」

「侮っていたようだ。すまない」


 男はしっかりと頭を下げた。

 謝られると恐縮してしまう。


「気にしないでくれ。心配してくれたんだろう。ありがとう」

「そう言ってくれると助かる。優秀な魔導師なら歓迎だ。よろしく頼む」

「ああ、こちらこそ、よろしく頼む」


 そんなことを話している俺たちに向けて魔導師たちがどんどん寄ってくる。


「君凄いな、名前はなんていうんだ? 俺は――」

「私は……」


 五人の魔導師に囲まれて、自己紹介された。


「俺はルードヴィヒ。ルードと呼んでくれ」

「ルード、さっきの無詠唱魔法凄かったな。どこで学んだんだ?」

「どこでっていうのは?」

「学んだ学院はどこなんだってことだ」

「学院ってのはなんだ?」


 俺がそう言うと、魔導師たちは互いに顔を見合わせる。

 だが、すぐに魔導師たちは丁寧に教えてくれた。

 今の時代には魔法の才があるものは、どこかの学院に入って学ぶのが一般的なようだ。


「俺は学院では学んでいないな、というか……」


 千年前から転移してきたなどと言っても、信用されまい。

 だからといって、偽の経歴を作り出すのは大変だ。


「実は記憶がなくてだな」


 俺はヨナたちにしたのと同じ説明をする。


「記憶がないのか?」

「全裸になっていたということは……追いはぎか」


 魔導師たちは俺の説明に納得してくれたようだ。


「南の方は治安が悪いと聞く。追いはぎに襲われるとは運が悪かったな」


 最初に俺に絡んできた男も納得しているようだ。


「そうか。記憶がないのか。大変だな……」

「だから、おか……、いや風変わりな格好をしていたのか」


 他の冒険者たちも納得していた。

 おかしな格好と言おうとして、言い直すあたりなかなかいい奴らなのだろう。


 冒険者たちと少し話した後、俺は冒険者ギルドの受付へと向かう。


「追いはぎですか。大変でしたね。となる当然身分を証明するものも……」

「あ、一応仮身分証はある」


 俺は王都の門で作ってもらった仮身分証を提示する。


「はい、拝見します……。ん? 保証人はヨナ・ヨハネスさんとトマソンさんですか」

「ああ、徘徊してたら偶然出会ってな。紹介状も書いてくれた」


 ヨナとトマソンの書いてくれた紹介状も提示しておく

 それを受付担当者が読んでいく。


「あの……、人食い魔熊を退治したと書いてありますが……」

「ああ、偶然な」


 俺はヨナたちが襲われていたのを助けたという経緯を簡単に説明した。


「それは本当ですか?」

「死骸ならあるから検分してくれ」


 俺は魔熊の頭を収納魔法から取り出した。

 頭だけで一メトル近くある。


「な、ななな、これは」


 受付担当者は腰を抜かした。


「見ての通り、魔熊の頭だが……、そしてこれが毛皮で……」


 俺が続けて毛皮を取り出すと、後ろから肩を叩かれた。


「ルード。見事な頭に毛皮だな。それはこっちに持ってきてくれ」


 そういったのは俺に最初に絡んできた男だ。

 男は腰を抜かしている受付担当者に言う。


「魔熊の処理はこっちに任せろ。ルードのギルドカードの作成準備をしておいてくれ」

「りょ、りょかいです」


 受付担当者は噛んだ。腰を抜かしているせいだろう。


 俺は男の指示の通りに受付から少し離れた場所に魔熊の首を持っていく。


「戦利品はこっちに持ってくるといい。特にその頭みたいな大物はな」

「そうか、以後気を付ける」


 男は魔熊の首を、睨むようにじっと見つめる。


「本当に、……人食い魔熊の頭だな。その毛皮も本物だな……」


 そして俺に向かって頭を下げた。


「ギルドを代表してお礼を言わせてくれ、こいつには何人も冒険者がやられたんだ」

「それは、気にしなくていいのだが……」


 急にギルドを代表されてお礼を言われても戸惑うばかりだ。

 男は俺の戸惑いに気付いたのだろう。ニコッと笑って言った。


「自己紹介がまだだったな。俺はギルバート。ここのギルドマスターをしている」

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