第10話 王都

 王都の近くに来たと言っても、まだ王都が遠くに見えただけである。

 俺が王都を遠くから眺めていると、トマソンが言う


「ルードさんは、王都についたらどうするんだい?」

「そうだなぁ……」

「ルードさん。ヨハネス商会で専属護衛として働きませんか? 給料はたくさん出しますよ!」


 お金のない俺にとっては、ヨナの提案はありがたい。

 だが、護衛として働いていては錬金術を広めることは出来ない。


「俺は錬金術師として店を開きたいんだ」

「……それはいばらの道ですよ」

「やはり、そうか」


 ヨナが丁寧に説明してくれる

 薬販売店は薬師ギルドの管轄だ。つまり開業するには薬師ギルドに入るしかない。

 そして、薬師ギルドに入るには、ベテランの薬師に弟子入りする必要がある。


「弟子入りが必須なのか?」

「薬販売店が増えすぎると、薬師の皆さんの生活が厳しくなりますから」


 薬師が増えすぎないよう抑制するための仕組みなのだろう。


「なるほどな。薬販売店を構えずに薬を売るのは違法なのか?」

「違法ではないですけど……」


 店を構えず、路上で、例えば屋台などで販売することは別に違法ではないらしい。

 もちろん違法薬物を売った場合は、当然即捕まる。


「ただ……、店を構えない薬販売業者を信用する人はいません」

「それは……そうか。そうだよな」


 怪しすぎる。

 俺も客の立場なら信用するまい。


「そうか、どうしようかな……」


 薬を使ってもらえさえすれば、効果の高さには気付いてもらえるはずなのだ。

 この時代について説明を受けた際に、ヨナたちが持っている薬も見せてもらった。

 それはちゃんとした、真面目な薬ではあった。

 気休め以上の効果はあるだろう。

 だが、俺の作る錬金薬と比べたら、効果は雲泥の差である。


「薬師に弟子入りするしかないか……」

「それも……問題がありまして」

「どういうことだ?」

「薬師は錬金術師が特に嫌いですから……」


 薬師が弟子に採ることは無いらしい。

 そして薬師が錬金術に手を出したことがばれたら即座に破門とのことだ。

 当然薬師ギルドからも除名される。


「詐欺師どもが錬金術師を名乗っている現状では当然か」

「……はい。本物の錬金術師であるルードさんには口惜しいことだとは思いますが……」


 ヨハネス商会に俺の薬を取り扱ってもらうのも難しいらしい。

 錬金術を取り扱うということは、商会の信用を毀損する行為となってしまうのだ。

 それほど、錬金術が胡散臭い、詐欺的なものとみなされているということである。


「……本当に申し訳ないのですが」

「いや、気にしないでくれ。ヨナさんも従業員の生活を守らないといけないからな」

「ルードさんは命の恩人なのに……。お力になれず申し訳ないです」


 ヨナはその代わり素材はなるべく安く売ってくれると言ってくれた。

 それだけでもとても助かる。


 そのとき、黙って聞いていたトマソンが言う。


「ルードさん。それなら冒険者になるのはどうだい?」

「冒険者?」

「ルードさんなら、すぐに高名な冒険者になれるだろう? そうなれば信用も得られるし」

「確かにそうかもしれないな」

「冒険者なら怪我も多い。そのときなら、薬も使ってもらえる機会もあるだろうしな」


 まずは錬金術の知名度を上げ、よいものだと知らせなければなるまい。

 冒険者になることは、錬金術で魔王を倒すという目的を果たすにもいいだろう。



 そんなことを話している間に、王都の門に到着していた。

 俺は通行証も身分証もないので、ヨナに保証人になってもらい仮身分証を発行してもらう。

 そして冒険者ギルドの前を通ったときに降ろしてもらう。


「俺はヨハネス商会かこの辺りにいる、いつでも来てくれ」

「ヨハネス商会の位置は地図のこの辺りです。ぜひ来てくださいね」

「ありがとう」

「そうだ。ルードさん。宿が決まっていないならヨハネス商会に泊まりに来てください」

「いいのか?」

「もちろんです! それにこれは単純な善意だけではないですから遠慮しないでください」

「というと?」

「本物の錬金術師であるルードさんに色々とご相談したいこともあると思うので……」

「そうか。錬金術師として頼ってもらえるのは嬉しいよ」


 そして、ヨナからは護衛の依頼料を払ってもらえた。

 金額は二十万ゴルド。

 ヨナに教わった貨幣価値によると成人男性が一か月くらせる額だったはずだ。

 一晩の護衛依頼の達成報酬としては、かなり高額と言えるだろう。


「こんなにもらっていいのか?」

「当然です! 遠慮なさらないでください」

「ありがとう。助かる」


 余裕が出来たら、ヨナとトマソンたちには借りを返さねばなるまい。


 俺はヨナたちの荷馬車が角を曲がって見えなくなる前で見送った。

 それから冒険者ギルドに入ることにする。


 冒険者ギルドの建物は三階建ての大きなものだ。

 扉を開けて中に入ると、正面奥の左側にギルド受付があった。

 そして、右手の方は酒も出す食堂兼酒場のようになっているようだ。

 冒険者たちが情報交換しながらご飯を食べたり酒を飲んだりするのだろう。


 俺は興味深くて、ギルドの中を見回した。

 すると食堂エリアにいた冒険者たちが、全員じっと俺を見つめていることに気が付いた。

 恐らく俺の服装のせいだろう。泥で汚した木の皮の服は目立っても仕方がない。


 俺は気にせず、入会手続きをするためにギルド受付へと向かう。

 手続きの方法はトマソンから聞いている。

 それに冒険者ギルドの一員でもあるトマソンからも紹介状を書いてもらった。

 何の問題もないはずだ。


 俺が窓口に近づくと、

「ご、ご依頼ですか?」

 ギルドの受付担当者が顔をひきつらせながら言う。


 受付担当者は若い女性だ。新人なのかもしれない。

 茶色い髪を後ろでポニーテールにくくっている。


「いや、冒険者になりにきた」


 俺がそう言った瞬間、

「お前が冒険者だって? やめとけやめとけ!」

 野太い声が後ろから投げかけられた。

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