第30話 従魔登録
するとギルマスのギルバートが、奥からゆっくりやって来た。
「ん? どうした?」
「あの、あのル、ルードさんが、あの! り、りゅが!」
ギルバートは混乱して噛みまくっている受付担当者を見て苦笑いする。
そして、俺に直接聞いた方が早いと思ったのだろう。
「ルード、無事に戻って来たか。ずいぶんと早かったな」
「そうか? それほど早くないと思うが……」
「一週間はかかると思っていたぞ。赤字覚悟で馬でも借りたのか?」
「ああ、そうか」
元々俺が受けたクエストは街道に出没したゴブリン退治だ。
そして、そのゴブリンが出没した場所に向かうには、徒歩で片道三日かかる距離だ。
「馬は借りてない。肉体を強化して高速で走っただけだ」
「それは凄いな。流石はルードと言ったところか」
それを聞いていた、ギルドの中にいた魔導師が二人立ち上がって走ってくる。
「つまり、それは肉体強化の魔法ってことですか?」
「まあ、そんな感じだ」
本当は錬金薬だが説明するのが少し複雑だったので、適当に流すことにした。
錬金薬と魔法の肉体強化と持続時間以外の効果は同じ。
もちろん魔法の熟練度や薬の出来によって、効果は大きく違うのだが。
「ルードさんは肉体強化の魔法使えるんですか?」
「どうやるんですか! 教えてください」
俺は当然魔法での肉体強化も当然使える。
錬金薬を作るよりずっと簡単だ。
「……もしかして肉体強化の魔法を使えないのか?」
「はい。宮廷魔導師とかなら……使えるかもですけど……」
肉体強化の魔法は、さほど難しい魔法ではない。
千年前においては肉体強化の魔法は熟練冒険者魔導師の基本技能だった。
肉体を強化をしなければ、前衛も後衛も強敵と戦うことは難しい。
「そういうことなら。肉体強化の魔法は後で教えよう」
「ありがとうございます!」
「従魔登録と任務達成報告を済ませたら、そっちに行こう」
「はい!」
魔導師二人は元気に自分の席に戻って来た。
冒険者たちは何かあるたびに走ってくる。
もしかしたら俺が何を話しているのか、何をしているのかに注目しているのかもしれない。
戻っていく魔導師を、見送ってギルバートが言う。
「色々とありがとう。ルードは何でも教えてくれるのだな」
「俺が教えないせいで若者が死んだら寝覚めが悪いだろう?」
「ルードも充分若者だがな」
そういえば、肉体は二十歳前後になっていたのだった。
つい高齢者の感覚で接してしまう。
「ルード。で、何があった? 受付が混乱しているようだが」
「従魔登録二頭とクエスト報告をしたいだけなんだが……」
「二頭か。一頭はその魔狼だな?」
「ガウと名付けた。クエスト終えた後、色々あって仲間にしたんだ」
ギルバートは、標準よりずっと大きく、毛もはげているガウを一目で魔狼だと見抜いた。
さすがは熟練の冒険者である。
「色々か。……従魔登録には、その従魔以上の冒険者の力量が必要なのだが……」
「不足か?」
「一般的には、冒険者ランクで判断するからな」
どうやら魔獣の討伐ランクより冒険者ランクが高くないと従魔登録は認められないらしい。
「魔狼の討伐ランクはいくつなんだ?」
「群れならA。はぐれならBだな。ガウは特に立派だからはぐれでもAかもしれないな」
俺の冒険者ランクはF。登録は難しいのかもしれない。
だが、俺はガウとは一緒に暮らすことに決めたのだ。
従魔登録が認められなければ、王都の外に住むしかない。
「そこをなんとかならんか? ガウは身を挺して俺をかばってくれたんだ」
ガウは不安そうに俺の方を見上げている。
吠えないように指示したので、無言のままだ。
「従魔が暴れたときに制圧できる力量が求められるから、こういうシステムなんだ」
「それはわかるが……」
合理的なシステムだとは思う。
ギルバートはにこりと笑うと、いきなりガウの頭を上からワシワシと撫でた。
ガウは大人しく撫でられている。
「ふむ。怯えもしなければ、威嚇もしないか」
慣れないイヌ科を撫でる際は、ゆっくりと下から手を伸ばすのが基本だ。
ギルバートはあえて乱暴にふるまうことで、ガウの反応を見たのだろう。
歴戦の戦士であるギルバートならガウが噛もうとしても対処できる。
だが街の中でギルバートと同じことを子供がやって、噛みつかれたら取り返しがつかない。
城門の衛兵もいきなりガウのことを撫でた。
それと同じく、ギルバートもガウの性格をチェックしようとしたのだ。
ギルバートはガウの全身をひとしきり撫でると満足そうにうなずいた。
「うん、充分だ。安心しろ、俺が特別推薦しよう」
「いいのか?」
「この魔狼、ガウが大人しくて賢いということが分かったからな」
「助かる」
「それにルードが規格外の魔導師なのは皆知っている」
そしてギルバートは周囲の冒険者を見る。
すると冒険者たちが笑顔で言う。
「文句言う奴は冒険者ギルドにはいねーよ」
「ああ、ルードさんの実力がF程度じゃないってことはみな知ってるからな」
「文句言ってきたやつがいたら、決闘でねじ伏せてやればいいさ」
俺はみんなに頭を下げた。
「ありがとう。助かる」
「くーん」
ガウも嬉しそうに尻尾を振った。
「で、二頭という話だったが……。もう一頭は?」
「リア。出てきなさい」
そういうと、リアがもぞもぞと服の中で動いた。
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