第29話 冒険者ギルドに戻ろう

 それから衛兵は改めて冒険者ギルドに戻ろうガウを見る。


「それにしても、かばって火傷したのか?」

「ああ、肉を分けてやったら恩義を感じたらしくてな」

「ほう。なかなか立派な狼だ」

「そんな狼を怪我したまま放置できなくてな」

「確かにそうだよな。……そうか、お前は忠義の狼だったのだな」


 そう言いながら、衛兵はいきなりガウの頭を撫でた。

 頭を撫でたのは、ガウを褒めるためというのもあるだろう。

 だが、街の中に入れても大丈夫な大人しい魔狼か調べる意味もあるに違いない。

 だから、いきなり撫でたのだ。


「それにしても大きいな」

「立派だろう」

「それにいきなり撫でられても唸らないし、噛みつかない」

「賢い狼だからな」

「うむ、これなら、王都の中に入っても大丈夫だろう」


 ガウが王都に入る許可が出た。


「その肩に乗っているのは?」

「竜の赤ちゃんだ。傷ついていたのを保護したんだ」

「竜だと? 赤ちゃんとはいえ竜か。果たして大丈夫――」

「りゃあ?」


 衛兵は竜を街に入れるということが不安なようだった。

 だがリアが可愛く首をかしげながら鳴くと衛兵の顔がにやけた。

 リアは可愛いので仕方がない。


「さ、さわっても?」

「リア、大丈夫か?」

「りゃ」

「触ってもいいみたいだ」

「うむ。ではお言葉に甘えて……」


 衛兵はそっとリアに手を伸ばす。

 そしてゆっくりと優しい手つきで頭を撫でた。


「りゃ~」


 衛兵はリアにデレデレである。


「竜に触るのは初めてだが、温かいのだな」

「竜によっても色々違うんだろうがな。リアは温かいな」

「そういうものなのか」


 しばらく、衛兵はリアを撫でていた。

 リアを堪能した後、衛兵が言う。


「うむ。大丈夫だろう」

「りゃあ!」


 やっとリアとガウを連れて王都に入る許可が降りたので王都に入る。

 王都を歩きながら、ガウに注意事項を話しておく。


「ガウ、街中ではよほどのことがない限り、大きな声で吠えたらだめだからな」

「ぁぅ」


 大きな声で吠えるなという俺の指示を守って、ガウは小さな声で鳴く。


「俺以外の人に飛びついたりしても、だめだからな」

「ぁぅ」


 ガウは真面目な顔で尻尾を振っていた。

 王都の中を歩いていくと、好奇心が刺激されるのかきょろきょろしている。


 街の人たちのほとんどはガウを見て少し驚く。

 そしてすぐに距離を取った。

 大きいことと毛が生えていないことで、びっくりしているのだろう。


 一方、俺の肩の上に乗っているリアは、ひしっと俺の顔にしがみつく。

 沢山人がいるので、怖いのかもしれない。


「リア。人間は基本的には怖くはない」

「りゃ」

「だが悪い奴もいるから、知らない人について行ったらダメだ」

「り」


 リアは返事をしながら、俺の服の内側にもぞもぞと入っていった。

 意外とリアはビビリな性格なようだ。

 俺はリアを安心させるために服の上から撫でながら、冒険者ギルドに向かった。



 俺が冒険者ギルドに入ると、ギルド中がざわめいた。

 食事をしていた冒険者たちが集まってくる


「ルードさん。でっかい魔獣ですね。従魔ですか?」

「ああ、そうだ」

「さすがです! どうやって従魔にしたかお話を聞かせてください!」

「先に従魔登録を済ませてから話そう」

「はい! 邪魔してすみません。待ってます!」


 冒険者たちは大人しく自分たちの座っていた席へと戻っていった。

 俺は冒険者たちから離れて受付へと向かう。


「任務達成の報告と、従魔登録を二頭だ」

「……その子は、えっと種族は?」


 毛がはげてしまっているので、受付担当者は魔狼だと思わなかったようだ。


「魔狼だ。ガウと名付けた。毛がないのは怪我をしたからだ」

「魔狼? すごく大きいですね……。本当に魔狼ですか?」

「魔狼だと俺は思う」

「そうですか。突然変異とかかもしれないですね……」


 受付担当者は納得したようだ。

 それから俺の周りをきょろきょろと見る。


「えっと、一頭しか見当たりませんが……」


 受付担当者は服の内側に入っているリアに気づかなかったようだ。


「リア、顔を見せて」

「……りゃ」


 リアが俺の首元から顔をちょこんと出した。

 そしてもぞもぞと出てきて俺の肩の上に上る。


「ひゃあああ」


 それを見て受付担当者は腰を抜かした。


「ド、ドラゴン? ドラゴンを従魔に?」


 その声を聞いて、冒険者たちが再びざわめく。


「ドラゴン?」「え? ほんとに?」

「俺見たことない!」


 冒険者たちが一斉に集まってくる。


「り、りゃ……ぁ」


 もぞもぞとリアが再び服の中に戻っていく。

 びっくりしたのだろう。


「竜は少しびっくりしたみたいだ。あとで紹介するから待ってくれ」

「……ああ、すまない。冷静さをかいていたようだ」


 そんなことを口々に言いながら冒険者たちは自分の席へと戻っていった。


「ギ、ギ、ギルマス! ちょっとどしたらいいですか! ギルマス!」


 混乱気味の受付担当者はギルドマスターのギルバードを呼びはじめた。

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