第46話 魔王軍の襲来

「りゃっりゃ! りゃああ」

「はっはっはっはっふ」


 俺はリアにおでこに乗られて、ガウにベロベロと顔を舐められて目を覚ました。


「起こしてくれてありがと」

「りゃあ」「がぅー」


 リアもガウも一仕事終えたような、満足げな表情を浮かべている。

 リアとガウを撫でてから窓の外を見ると昨夜作った壁が目に入る。


「影の感じから判断するに、日の出後二時間ってところかな?」


 俺が偵察時に予測したスタンピードの到着時間は昼頃である。

 当然、もっと早くなる可能性もあるし、遅くなる可能性もある。


「リア、ガウ。まずは朝ご飯を食べよう」

「りゃ!」「がぅー」


 俺はリアとガウと一緒に朝ご飯を食べる。

 それからガウに皮膚のお薬を塗ってマッサージをする。


「ガウ。毛がだいぶ伸びて来たな」

「がぅ」


 ガウは魔力が高いためか、回復力が高く、毛が伸びるのが早いようだ。

 俺の作る薬との相性がいいのかもしれない。


 朝の日課を済ませて、ギルドに顔を出す。

 ギルバートと適当に打ち合わせをするためだ。


 冒険者や騎士たちは王都城壁を利用して千匹の魔物に抵抗するようだ。

 そして俺はガウとリアと一緒に第一防壁へと移動する。


 第一防壁の上にガウとリアと一緒に登って座る。


「ガウ。リア。しばらくゆっくりしてていいよ」

「がう?」


 ガウは首を傾げた。

 リアは朝ご飯を食べてお腹いっぱいになったからか、もう眠っている。


「あと何時間後に、スタンピードが到達するかわからないからね」


 気を張り続けるのは無理というもの。

 見えてからこちらも動き出せばいい。


 そう考えていたのだが……。


「……こないな」

「がうー」


 既に太陽はだいぶ西の方に傾いている。

 あと一時間もすれば、地平線の向こうに沈むだろう。


「りゃりゃ!」

 リアは待っていることに飽きたのか、ガウの背に乗って遊んだりしている。


「このまま来ないならそれに越したことは無いんだが……」


 そう都合よくは進まないだろう。

 俺はガウとリアを撫でて和んでおく。


「俺はガウたちがいるから、いくらでも待てるが……冒険者たちは大変そうだな」


 恐らく王都の城壁でずっと臨戦態勢で待っているのだろう。

 すでに精神的にかなり疲労していてもおかしくない。


「まさか疲れさせる作戦か? ……いや、それはないか」


 魔人どもは人族を舐めている。策を弄したりするとは考えにくい。


 焦っても仕方がない。俺はのんびり待つことにした。



「ガウッ!」

「ありがとう。……完全に寝てた」


 俺はガウにべろべろ舐められて目を覚ました。

 どうやら、昨日、沢山働いたためか疲れていたようだ。


 完全に日は沈んでいた。

 今日は新月。月は夜空に浮かんでいない。

 星明りしかなく、周囲はとても暗かった。


 俺は、胸の上で眠っていたリアを服の中に入れると立ち上がる。


「……さてと」


 俺はガウの頭を撫でる。

 ガウは俺を起す時、強めに吠えた。

 きっと魔物の気配を感じて起こしてくれたに違いない。


 鞄から身体強化能力ポーションを取り出して飲む。


「念のために付与した夜目が利くようになる効果が役に立ったな」


 第一防壁の上から南の方を眺めると、はるか遠くに魔物の群れが見えた。

 見事に統制が取れている。音もなく静かに移動している。

 まるで精鋭の騎士団が夜襲をしかけるときのようだ。


「知能の低いゴブリンどもを、よくもまあ、あそこまで操れるもんだ……」


 魔物の群れを操れるのは、魔人の特殊能力かもしれない。


 魔物たちは俺の予想に反し、こちらの隙をつこうとしている。

 音を消し、夜陰に乗じているということはそういうことだ。


「……油断してくれていないのかよ」


 魔王軍の幹部である炎の魔人を倒したからだろうか。


「やはりスタンピードではなく、魔王軍の侵攻と考えるべきだな」


 俺はガウとリア、そして自分に隠ぺいの魔法をかけた。

 この程度の隠ぺい魔法では、魔人が本気で探したら通用しないだろう。

 だが、魔人以外は地竜を含めて、俺たちの存在には気付くまい。


 それに魔人も第一防壁や落とし穴の方に注目すれば、俺たちのことを見落とす可能性はある。


「ガウ、リア。静かにな」

「がう」「……り」


 ガウは大人しく伏せている。

 リアはうとうとしながら服の中でもぞもぞ動いていた。


 息をひそめて待つこと十分。

 俺たちが潜む第一防壁の手前、五十メトル程度の位置で魔物の群れの先頭が止まった。


 ゴブリンやオークなどで構成された千匹の集団の先頭に巨大な地竜が一体いる。

 そして集団の上空には魔人が浮かんでいた。


 俺の位置から、魔人までは百メトルは距離がある。だが強烈な魔力を感じた。

 確実に炎の魔人よりも強い。


 魔人は地竜の上空まで移動すると口を開く。


「おい。何を止まっている。足を止めるな!」


 魔人の命令がとぶと、千匹の魔物は動き出す。

 第一防壁は目の粗い網のような構造をしている。

 その空いた隙間をゴブリンたちは通っていった。

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