第39話 家を建てよう その3

 俺は井戸を台所の壁のすぐ近くに掘る。

 そして魔法と錬金術で何重にも防御を張った。

 敵に井戸から侵入されるわけには行かないからだ。

 だが、防御のあれこれは子供たちが見ても全くわかるまい。


 防御を済ませると、俺は改めて子供たちに言う。


「子供たち。ここからが本番だ。よく見ておいてくれ」


 子供たちは「わかった!」とか「はいせんせー」とか元気に返事してくれた。


「まず貯水タンクを作る」


 俺は屋根裏に貯水タンクを作りはじめる。


 魔法の鞄から原材料をだして錬金術で一気に加工した。

 素材は鉄に適切な分量でミスリルとオリハルコンを少量混ぜ込んだものだ。

 耐錆特化の材料である。

 この素材なら、たとえ塩水を中に入れたとしても錆びることはない。


 それが終わると一気に成形。

 頑丈かつ大きいタンクを屋根裏に取り付ける。

 基本が鉄なので、かなりの重さだ。


「すごい! でっかいなあ!」

「中に水を入れるからさらに重くなるぞ」

「落ちない?」

「そのために厳重に柱も壁も天井も強化している」

「はえー」

「素材の耐荷重をすぐに判断できるようになるまで、真似したらだめだ」

「わかった!」


 元気に返事するタルホの頭を撫でてから、俺は次の作業に入る。

 井戸から貯水タンクにくみ上げるポンプを作るのだ。


 俺がポンプを製作して取り付けると、子供たちの一人が言う。


「村についてるのと違う?」


 避難民の集落は、村とは違う。

 だが、子供たちは村と呼んでいるようだ。


「お、外見は似ているのによく気が付いな」

「えへへ」


 褒めてから、頭を撫でてやる。


 新しく作ったポンプは、集落に取り付けたのと外見は似ている。

 そして集落のポンプと同様、手押しポンプとしても使うことも出来る。

 だが、手押しとしての機能は集落に取り付けた物よりかなり落ちる。

 ポンプ内に小さな装置がついており、その中に魔石と機械が入っているためだ。


「このポンプは、自動で汲み上げる機能がついている」

「そんなことができるの?」

「魔石をコアにすればできる。定期的に魔力の補充をしなければならないが……」


 魔力の結晶である魔石は、適切に利用すれば動力とすることができる。

 だが魔力は無限ではない。


 定期的に魔石を交換するか、魔力をこちらから補充する必要がある。

 そして魔石は安くはない。


 魔力の補充には、魔法の素養が必要である。

 つまり、よほどの大富豪でもない限り、魔石を動力とするには魔法の素養が必要だ。

 だから村に取り付けたポンプは手押しにしたのである。


 俺は実演してみせる。

 ポンプのしたに容器を置くと、手をかざして少しだけ水を汲みあげた。

 バシャバシャと容器の中に水が入る。


「すごいすごい!」

「まあ、かざしているだけのように見えて、魔力で操作しているんだが……」

「そうなんだ! 魔力操作って便利なんだね!」


 子供たちが魔力の重要性に気付いてくれたようなので良かった。


「みんなが錬金術を学ぶなら、近いうちにこのポンプも使えるようになるよ」

「そうなんだ、楽しみだなぁ」

「みんなが魔法を扱えるようになれば、集落のポンプも同じものに変えてもいいな」


 俺はそのままポンプと貯水タンクをパイプでつなげた。

 パイプは壁に沿わせて邪魔にならないようにする。

 埋め込もうかとも思ったのだが、万が一詰まったときのメンテが大変だからやめておく。


「いったん貯水タンクに水を溜めてそこから家の中に流すんだよ」

「へー」


 子供たちは感心してくれている。

 子供たちにも、よく見えるように気を付けながら作業を続ける。

 貯水タンクからパイプを伸ばして、錬金工房や台所、風呂、トイレにつないだ。


「上水が終わったら次は下水だ」

「下水?」

「ああ。汚れた水をそのまま垂れ流すのは良くないからな」


 トイレの汚水や、生活排水の処理は集落のものと同じでいい。

 だが、錬金工房の排水はそうはいかない。特殊な処理が必要になる。


 俺はトイレの地下を掘って、大きな下水槽を設置する。

 掘ってでた土は、とりあえず魔法の鞄に放り込む。後で捨てればいいだろう。


 下水槽の素材自体は上水の貯水槽と同じである。構造もそっくりだ。


「家を建てる前に、先に下水槽を作っておくべきだったな……」


 家を建てることは初めてではない。

 だが、久しぶりすぎてうっかりしていた。


「ここに下水を溜めて、浄化するんだ」

「どうやって、浄化するの?」

「それはだな。買ってきた炭を基本材料にして……」


 炭を非常に細い繊維状へと加工した。

 そこに浄水機能を強化するための触媒としてミスリルを織り込み層状に重ねる。

 さらにスライムを退治したときに得られる粉を混ぜ込む。


 それを下水槽へと設置した。


「水に炭を入れたら、水が黒くならない?」

「大丈夫だ。炭は水を綺麗にする機能があるんだよ」

「へー」


 手間はかかるが、錬金術的には使っているのは、基礎的な形状変化の術理だけ。

 魔力消費は少なくて済む。


「まあ普通の汚水なら、炭とミスリルの浄水設備でいいんだが……」


 ここまでは集落に設置したのと同じだ。

 錬金の排水は特別な処理が必要になる。


「錬金の排水は取り扱いは気を付けなければいけないんだよ」

「ふむふむ」


 俺は錬金工房の地下にもう一つ下水槽を作る。

 そして特別な処理をする機構の製作に取り掛かった。

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