第38話 家を建てよう その2
現代では錬金術師は詐欺師の別名。
偽物の、悪意ある自称錬金術師など沢山いるのだ。
騙されないための手段は必要である。
「そうだな。泥水よりも小便の方がいいかもしれない」
「小便ですか?」
「それと水を混ぜて、何の装置も使わずに分離させればいい」
もし本当に錬金術師で物質移動を正しく使えるならば、分離した後の水を飲めるはずだ。
そんなことを説明しておく。
「それは参考になります!」
「それなら良かった」
俺は説明をしながら、作業に入る。
物質移動と形態変化、形状変化を駆使すれば、家など簡単に建てられる。
ものすごい勢いで土台を作り床を張り、柱と壁を同時に作る。
下から順番に積みあがるようにして、家が出来上がっていく。
屋根を忘れずに取り付けると、次は窓だ。
「窓にはガラスをしっかり入れておこう」
ただのガラスよりも、板ガラスはずっと作るのが難しく高価でもある。
だから、ゴミのガラスを錬金術の形状変化で板ガラスへと変化させる。
ヨハネス商会で、ゴミになった割れたガラスを沢山譲ってもらっておいたのだ。
作った板ガラスを金属製の枠にはめて、レールを付けて開閉も楽にできるようにする。
窓がしっかり出来上がれば、外見は完成だ。
「す、すごい。本当にあっという間にお屋敷ができた」
子供たちも大人たちも感動していた。
ガウがストレスを感じないようにするために、家は広い。
大体六百平方メトルぐらいある。お屋敷と言ってもいい広さだろう。
「まだ完成ではないんだ。強化しないといけないからな」
魔法と錬金術を駆使して壁、屋根、床、窓。すべてを強化する。
これで魔法で攻撃されてもびくともするまい。
タルホたちと引率の大人二人にも自由に家の中に入って作業を見てもらう。
そんなことをしていると、リアが子供たちと仲良くなり始めた。
本当に子供同士は仲良くなるのが早い。
リアは子供たちの肩に乗ったり頭に乗ったりして羽をパタパタさせている。
子供たちもリアのことが可愛いようで、ことあるごとに撫でまわしている。
そしてガウはリアのすぐ近くにそっと付き添う。
リアは群れの子供だから、保護者として守ろうとしているのだろう。
「次は家具の類いを設置して、錬金工房を作ればいいかな」
家具はヨハネス商会で購入済みだ。
それを魔法の鞄から出して配置するだけでいい。
「そのかばん本当にすごいね!」
魔法の鞄から大きなものを出すたびにタルホが感動してくれる。
「おれもそのかばん作りたいなー」
「頑張れ。だが、かなり錬金術を練習しないと魔法の鞄は作れないぞ」
「わかった、頑張る!」
やる気があるようで何よりだ。
俺はタルホの頭を優しく撫でると、錬金術の工房づくりに入る。
工房に必要なのは錬金釜と広い机。それに様々な錬金用の器具である。
薬品保管庫や素材保管庫も大切だ。
そしてなにより防御力も高くなければならない。
万が一、錬金事故で爆発が起こったとき、周囲に被害が及ばないようにするためだ。
それに成果物を奪いに魔人などが来るかもしれない。
「まずは防御だな」
特に厳重な防御を、床、天井、壁、扉に施していく。
ちなみに錬金工房は、家の中心、窓のない部屋である。
「次は机を置いて、釜を作って……」
机は買ったものを置いて、それを魔法と錬金術で強化するだけである。
釜は、素材を加工して作らねばならない。
とはいえ、物質転換をするわけではないので、そう難しいわけではない。
オリハルコンとミスリルに鉛や金、鉄を適量混ぜこみ成形していく。
使う技法は物質変換に形状変化、形態変化である。
釜は直径一メトル、高さ一・三メトルぐらいの大きさだ。
釜を完成させると、次は必要な錬金器具を作っていく。
それも釜と同様に素材から加工して成形していく。
タルホや子供たちはは完成した釜をのぞき込んだり、器具をみたりしている。
「ほえー。これで錬金術をするの?」
「熟練者になると釜も器具も使わなくても錬金はできるが、あったほうが効率がいい」
「そうなんだ!」
「ねえねえ、先生! これで工房は完成なの?」
子供たちの一人が、そんなことを言う。
なぜか俺は先生になっていたらしい。
錬金術の生徒としての自覚が芽生えたのかもしれない。それはいいことだ。
「いや、まだだ。一番大事な水まわりがある」
「水回り? あ! 井戸を掘るの?」
「井戸は掘るが、ここにではないんだ」
そう言ってから俺は台所へと移動する。
リアやガウ、子供も大人もみんなついて来た。
「台所に井戸を掘って、そこから家全体に水を流すんだ」
「へー?」
タルホはよくわかっていないのか、首をかしげていた。
家の中には錬金工房の他に、風呂場、トイレなど、水を使う場所はいくつかある。
そこに水を流すために、仕組みを少し整えねばならない。
「まずは井戸を作る。途中まではさっきと同じだ」
「ふんふん。途中までってことは違うこともするの?」
「ああ、そうだ。見ておいてくれ」
俺がそう言うと、子供たちは真剣な表情でじっとこっちを見つめはじめた。
勉強熱心でよいことである。
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