第37話 家を建てよう

 井戸が完成したのを見て、タルホが自慢げに言う、


「な? 言っただろ? ルードさんは凄いんだ!」

「な、なっ……」

「本当にあっという間でした……」


 老女や他の大人たちは腰を抜かしていた。


「自由に使ってほしい。不具合があればいつでも言ってくれ」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「ありがたい、ありがたい」


 そして、住民たちは俺を拝むようにしてお礼を言う。


「大した手間じゃない。気にしないでくれ」

「ルードさんは偉大な魔導師だったのですね……」

「俺が今行ったことの中には、魔法で出来ることもあるができないこともある」

「……といいますと?」

「俺は魔導師ではなく、錬金術師なんだ。詐欺師ではない本物のな」

「……本物の錬金術師」

「ああ。詐欺師の奴らと違って、本当に効果のある薬も作るし、井戸も作る」


 本物の錬金術師という言葉に、大人たちは少し戸惑っているようだった。

 実際に十分程度で井戸を作って見せられたのだ。

 嘘とは思えない。


 だが、常識的に考えて錬金術師は詐欺師の別名。

 これまでの常識と、目の前の現実との差異に混乱しているのだろう。


 井戸を作ったら、忘れずに確認しなければならないことがある。


「ちなみにトイレや生活排水はどうしているんだ?」

「それはですね……」


 トイレは村のはずれに小屋を作り、穴を掘ってその中にしているようだ。

 生活排水は村の周囲にぶちまけているとのことだ。

 小さな集落なのでそれでもやっていけるのだろう。


「なるほど。トイレと下水路を作っても?」


 トイレの場所から井戸の距離はそれなりにあるので、大丈夫だとは思う。

 だが、念のために処置をしておくべきだろう。


「下水路? とおっしゃいますと?」


 長はよくわかっていなさそうだ。

 だから丁寧に説明する。


「そこまでしていただくわけには!」

「ついでだ。それに近所のよしみ。気にしないでくれ」


 集落のためだけというわけではない。

 俺は集落の近くに住むのだ。

 下水をきちんとしないと、悪臭や虫、病気の発生などなど様々な問題につながる。


 そういうことも村人に説明する。


「そうだったのですね……」

「だから自分のためでもあるんだ。気にしないでくれ」

「本当にありがとうございます」


 俺はまずは村のトイレをきちんと作る。

 そして排水路を作って、村の外の地下に作った下水槽につなげる。


 もちろん。水漏れが絶対にないように金属加工した管を使うことも忘れない。

 銅と鉄の合金に、ごく少量のミスリルを混ぜるととてもいい管になる。


 各家庭の排水の捨て場も集落に五か所作った。

 それも管で下水槽につなげた。


 下水槽には浄化装置とろ過装置を設置して、飲めるぐらい綺麗にする。

 それを川へと流すのだ。


「よし、これで大丈夫だ」


 多少、雨が降っても汚水があふれることはあるまい。

 川が氾濫したら、また別の対策が必要になるのだが、それはまた今度だ。


 下水処理も終わったことを報告すると、村人たちが凄く感謝してくれた。

 子供たちも小屋から出てくると、俺を取り囲んだ。


「錬金術ってすげーーー」

「ねえねえ、お兄さん、錬金術っておれにも出来る?」


 タルホを含めて、子供たちは五人いた。

 獣人も短めのエルフ耳の子供もいる。ドワーフらしき子供もいた。

 年齢は五歳か十歳程度だ。タルホは子供たちの中では年長な方である。


「錬金術の習得は努力次第だな」


 もちろん才能も関係ある。

 だが、ほとんどの場合、才能が関係してくるのは上級になってからだ。

 初級から中級の錬金術師には才能がなくてもなれる。


「がんばればできるってこと?」

「教えて教えて!」

「こら! ルードさんにご迷惑だろう!」


 大人の一人がたしなめる。

 だが、俺としては錬金術に興味を持ってくれる者がいることは非常にありがたい。


「いや、迷惑ではない。暇なときでよいなら教えよう」

「やったー」

「だが、今は家を作らないといけないから、また今度な」

「わかった!」


 そして、俺は住民に挨拶すると、家を作りにもどることにした。


「俺は自分の小屋づくりに戻るよ」

「お忙しいのにありがとうございます。手伝えることがあればいつでも言ってください」

「ああ、手が必要な時は遠慮なく声をかけさせてもらう」


 俺が集落を出ると、タルホや子供たちがついて来た。

 大人も二人ついて来た。きっと保護者だろう


「家作るとこみせて―」

「ご迷惑ならおっしゃってください」

「いや、全く迷惑ではない。好きなだけ見ていってくれ」

「やったー」

「ありがとうございます」



 集落から百メトルの位置まで歩くと、建築を開始する。

 設計図は集落の井戸を作りながら、頭の中に書いておいたのだ。


 書いておいたと言っても、一から作ったわけではない。

 千年前に住んでいた家。訪れた家や屋敷、城などの一部の構造を切り貼りしただけだ。


「まずは地盤の強化だ」


 子供たちとリアとガウが見ているので作業内容を口に出す。

 見てもわからないだろうが、錬金術の雰囲気だけでも感じてくれれば充分である。


「川が近いだけあって、地盤は緩めだからな」


 物質変換で一気に固めてもいいのだが、賢者の石がない今は魔力を節約したい。

 俺は魔法の鞄から、ヨハネス商会から買ってきたセメントを取り出す。

 材料さえあれば、形態変化が使えるからだ。


 それを土に混ぜ込んで、一気に固める。

 混ぜ込むのは物質移動、固めるのは形態変化である。

 どちらも、物質変換よりはるかに消費魔力は少なくて済む。


 真剣な表情で見ていたタルホが尋ねてくる。


「いまのでじばん? とかいうのが固まったの?」

「そうだ。地盤って言うのは、まあ地面のことだ」


 そして子供たちに地盤を固める重要性も説明する。

 すると、子供たちは実際に地面を触り始める。リアも一緒に触っていた。


「さてさて。次は一気に建築していくよ」


 俺は魔法の鞄から建材を出していく。

 木材、石材、金属材が山のように積みあがる。


「そのかばん凄いね」

「これも錬金術で作った」

「す、すげーーー!」

「錬金術って本当にすごいんだね!」


 子供たちがあまりにも素直に目を輝かせているので少し不安になって来た。


「錬金術は凄いが、自称錬金術師も多いから気を付けるんだ」

「そうなの?」

「少なくとも俺は自分以外の錬金術師に会ったことは無い」

「そうなのかー」


 子供たちは真面目な顔でうんうんと頷いている。

 その隣でガウの背中に乗ったリアもうんうんと頷いていた。


 大人の一人が真剣な表情で近づいて来る。


「あの、ルードさん。一つお聞きしても?」

「何でも聞いてくれ」

「本物と偽物を見分ける方法ってあるのでしょうか? 我々は素人なので……」


 それはもっともな心配である。


「錬金術師を名乗るものが現れたら、何でもいいので泥水を用意してくれ」

「泥水ですか」

「それを何の装置も使わずに、水とそれ以外に分けることが出来たらそいつは本物だ」

「そんなことができるのですか?」

「錬金術の基礎中の基礎。物質移動だからな。できない奴は錬金術師とは言えない」


 俺がそう言うと大人たちは安心したようだった。

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