第36話 住民とのふれあい

 当初、井戸の周りに家を建てるつもりだった。

 室内に井戸があったほうが色々便利だからだ。

 だが、タルホたちに使ってもらうことになった。

 それを考えると、井戸が室外になるように家を建てるしかあるまい。


「まあ、必要ならいつでも井戸は追加で作れるからな」

「りゃっりゃ!」

「がぅ!」


 家の建築に入るとわかっているのか、リアもガウも嬉しそうだ。

 井戸を作るの二十分ほどかかった。次はもっと早くできるだろう。

 家を建ててから、井戸は追加で作ればいい。


「さて、どんな家にしようかな」


 千年前に住んでいた家などを思い出し、頭の中で図面を書いていく。


 錬金術師たるもの、頭の中で完成図を細かく組み立てるのは得意分野である。

 物質を変換させることに比べたら、家の間取りを組み立てるぐらいは簡単だ。


「防犯も大切だな」


 盗賊に狙われても大丈夫なように、魔法防御と物理防御も大切だ。

 そんなことを真剣に考えていると、近くでタルホがじっとこっちを見ていた。


「タルホ、水汲みはいいのか?」

「うん、大丈夫!」


 本当に大丈夫だとは思えない。

 タルホはお使いで水を汲みに来たのだ。

 集落では、タルホの家族がタルホを待っているに違いない。


「家を建て始めるまでしばらくかかるし、今のうちに水を運んでもいいんじゃないか?」

「うーん。そうする!」


 やはりタルホは家を建てるところが見たくて、水汲み任務を放棄していたようだ。

 タルホは急いで自分の桶に水を汲むと走って戻っていった。


 タルホは子供で水は重いというのに、結構速い。

 なかなかの体力だと言えるだろう。


 タルホを見送ってから、俺は地面を調査することにした。

 錬金術の分析術と探索魔法を使って、地中の成分を分析する。

 水脈の位置や、岩盤の位置も大切だ。


 調査している俺をリアとガウが真剣な目で見つめていた。


「家を建てる前にその土地を調べるのはすごく大事なんだ」

「りゃあ」


 リアはガウの頭の上に乗ったまま、羽をバタバタさせている。


「少し地盤が緩いな。錬金術で強化した方がいいかもしれない」


 そして、ガウを見る。

 やはりガウは大きい。家もそれなりの広さが必要だ。


 そんなことを考えていると、集落から人がやって来るのが見えた。

 全員で十人ほど。タルホ以外は全員大人だ。

 タルホと同じ獣人もいるが、ただの人族や少し短めのエルフ耳の者もいる。


 大人たちは俺のところに来ると、丁寧に頭を下げた。

 そして、集団の中で一番年上の粗末な服を着た獣耳の老女が一歩前にでた。


「あの、ルードヴィヒさんですね」

「ああ、そうだ」


 それから丁寧に自己紹介してくれた。

 老女は避難民集落の村長的な人物らしい。


「井戸を使ってもいいとおっしゃられたとタルホが言っているのですが……」

「ああ。よかったら自由に使ってくれ」


 俺がそういうと、大人たちは本当に嬉しそうになる。


「ありがとうございます! すごく助かります」


 口々にお礼を言われた。

 喜んでもらえたようで、俺としても嬉しい。


 住民たちはタルホからリアとガウのことを聞いているのだろう。

 ガウを見て、怯える様子は見せなかった。

 冒険者が稀に従魔を連れていることについては知っているに違いない。


「ところで、この辺りに家を作ろうと思うのだが……迷惑ではなかったか?」


 この辺りの土地は、国王の領土というだけで、それ以外に所有権を持つ者はいない。

 だが、一応先住の人々に敬意を表すべきだと思ったのだ。


 先住の人々ともめるのは俺も本意ではない。

 迷惑なようなら、俺としては場所を移しても構わない。


「是非是非。ご自由にどうぞ」

「我々もルードヴィヒさまのような冒険者の方が近くに住んでいたら安心ですから」


 井戸を作ったためか、さま付けされてしまっている。

 俺は、住民たちにルードと呼んでくれるようお願いしておいた。


「集落の中に井戸が必要ならば、すぐに作るから言ってくれ」

「そんな、そこまでしてもらうわけには!」

「大した手間ではない。すぐに作れるから、遠慮するな」

「ルードさんは凄いんだよ!」


 タルホがあっという間に俺が井戸を作ったことをみんなに語る。

 容易には信じられない。だが実際に昨日までなかった井戸がここにある。

 住民たちはそんなことを考えているのだろう。


「迷惑でないなら、やってみせよう」

「もちろん、迷惑なわけありませんが……」

「どのあたりにあれば使いやすい? 案内してくれ」

「は、はい」


 半信半疑のまま、住民たちは俺を集落の中へと案内してくれた。

 俺が集落の柵の内側へと入ると、住民たちは警戒気味にこちらを見ている。

 いや、警戒というよりも怯えの方が近いかもしれない。


 住民のリーダーの老女が言う。


「不躾な視線を向けてしまい申し訳ありません」

「いや、気にしないでくれ」


 老女はそのまま、俺を集落の中心に連れて行く。

 中心にはちょっとした広間があった。


「ここにあれば、ものすごく便利ではあるのですが……」


 住民のリーダーの老女が遠慮気味に言う。


「任せてくれ」


 俺はさっそく井戸製作に取り掛かる。

 先ほど作った井戸づくりと、方法も材料も全く同じだ。

 だから、十分程度で完成させることができた。

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