第19話 猪狩り

 さっそく錬金術によるポーション製造に入る。

 ケルミ草を沢山採集していてよかった。材料は充分ある。


 だが、赤ちゃん竜を抱きかかえながらの錬成は少し大変だ。

 だからといって、地面に置けば全力で逃げだすだろう。

 下手に暴れさせると、傷口が開いてしまう。


 俺は少し考えて魔法の鞄から包帯を取り出すと、くるくると赤ちゃん竜をくるむ。

 抵抗して暴れたが、魔法も使って身体を拘束しながら、うまくくるんだ。

 包帯の強化も忘れてはいけない。

 赤ちゃんとはいえ、竜が必死に暴れたら包帯ぐらい簡単に破いてしまうからだ。


 赤ちゃん竜をくるみ終えると、俺は優しく抱きしめる。


「はいはい、大人しくしなさい」

「キシャアア!」


 赤ちゃん竜はまだ暴れようとしていたが、強化包帯でくるまれているので暴れられない。


「こんなときのためにある程度ポーションを作り置きしておくべきだった……」


 そうつぶやいてふと気づく。

 薬を入れるための容器すら買っていなかった。


「……つい、うっかりしていた」


 千年前は、多めに作って容器に入れておいたものだ。

 液体のままでも魔法の鞄に収納することは可能だ。

 だが、取り出す際に液体のままで出てくるので、魔法で制御する必要がある。

 それは非常に面倒くさい。


 容器がない今は、必要な量だけ作り、そのまま使う方がいいだろう。


 俺は必要な分だけポーションを作って、魔法で空中にふよふよと浮かせておく。


 容器もなにも使わず空中で錬成するので少し時間がかかった。

 具体的には、ポーション完成までに五分もかかった。


「……さて、今からポーションをかけるからな」

「…………」

「少ししみるけど我慢しなさい」

「…………」


 五分の間に赤ちゃん竜は大人しくなっていた。

 暴れても逃げられないと観念したのかもしれない。


 俺は竜の赤ちゃんをくるんでいた包帯をときながら、傷口にポーションをかける。

 すると、見る見るうちに傷が癒えていく。


「よし、全快だな」

「……りゃあ」


 くるんでいた包帯をほどいたのに、赤ちゃん竜は暴れなかった。

 逃げようともしない。


 俺は念のために赤ちゃん竜を診察をする。

 毒に侵されているわけでも、病気になっているわけでもなかった。

 健康そのものだ。


「もう大丈夫だよ」

「りゃあぁ」


 赤ちゃん竜は、静かに鳴くと俺の右手をぺろぺろと舐めてきた。


 俺は右手を舐めさせたまま、左手で竜の子を撫でる。


「お礼を言ってくれているのかな?」

「りゃあああー」


 しばらく撫でた後、俺は赤ちゃん竜に向かって言う。


「さて、俺はもう行くよ。お前はどうする?」


 可愛いので一緒に行きたいが、赤ちゃんとはいえ、あくまでも野生の竜。

 人と一緒に行動したくないかもしれない。


「りゃあ」


 だが、竜は両手で、一生懸命俺の右手に抱きついた。

 その仕草は、この上なく可愛い。


「じゃあ、一緒に行こうか」


 俺は竜を肩に乗せて歩き始める。


「りゃああ」


 竜はとても嬉しそうに俺の頬に顔をすりすりとする。

 ものすごく懐いてくれたようだ。


 親と離れて寂しくて、心細かったのかもしれない。

 傷だらけだったことから判断するに魔物に襲われたのかもしれない。


「そうだ、名前があったほうがいいな」

「りゃあ?」


 俺は真面目に考える。

 赤くて綺麗でとても小さな竜だ。


「うーん。リアでどうかな」


 由来はりゃあという鳴き声からだ。


「りゃあ!」


 竜の子は機嫌よく嬉しそうに鳴く。

 単純すぎるかもと思ったがが、気に入ってくれたようでよかった。


「じゃあ、お前はこれからはリアだ」

「りゃっりゃ!」

「ちなみに俺はルードヴィヒと言う。よろしくな」

「りゃあ」


 改めて自己紹介した後、俺は薬草採集しながら歩いていく。

 すると遠くに大きな魔猪がみえた。


 体重は普通の牛の三倍ぐらいありそうだ。

 まだかなり遠くにいるので、魔猪は俺たちに気づいていない。


「リア、お腹空いた? 俺はかなり空腹だ」


 俺は朝ご飯は食べた。

 だが五時間走り続けてゴブリン退治をしたのだ。

 それからは何も食べずに薬草採集をしていた。


「……りゃあ」


 リアは自分のお腹を両手で抑える。

 そのとき、リアのお腹が「ぐぅーっ」と鳴った。


 リアは赤ちゃんなので、食事の必要回数は多いはずだ。

 その上、怪我もしていたので、沢山食べた方がいい。


「じゃあ、あの魔猪を狩って食べよう」

「りゃあ!」


 リアは嬉しそうに鳴いて尻尾を振った。

 完全に懐いてくれている。とても嬉しい気持ちになった。


 それにしても、

「冒険に必要なものを買い揃えたつもりだったが、非常食も買い忘れていた」

「りゃあ?」

「うっかりが過ぎるな……」


 王都に帰ったら、もう一度装備を点検し、必要なものをしっかり揃えるべきだろう。


 そんなことを考えながら、俺は魔猪との距離を詰める。


「リア。静かにしてなさい」

「…………」


 魔猪ぐらいならば錬金術を使うまでもない。

 遠距離から眉間に魔法で作った氷の槍を撃ち込んで一撃で倒す。


「よし、苦しませずにやれたな」

「りゃ?」

「倒せるなら、一撃で。それが狩りの獲物に対する礼儀だからね」


 赤ちゃん竜のリアに狩りの心得を語りながら小走りで魔猪のもとへと向かった

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