第18話 竜の赤ちゃん

 俺が引き受けたのは街道に出没したゴブリン退治だ。

 滅多に使われない街道を進んでいた商人がゴブリンに襲われたのだそうだ。

 ちなみに荷馬車から荷物を捨てながら逃亡したおかげで、生き延びた。


「そうだな。徒歩で三日ってところか」


 目的地はかなり遠い。そして方角は王都から南である。

 俺が目覚めた場所と比較的近いと言っていい位置だ。

 つまり、旧魔王城跡地に近い。


「普通に歩くとしんどいな。時間もかかりすぎる」


 俺は王都を出ると歩きながら、先日採集した薬草を少し使って錬金薬を調合する。

 作るのは体内の魔力を活性化させ、身体能力を強化する薬だ。


 魔法での身体強化と効果は同じ。だが錬金薬の方が持続時間が長いのだ。

 今回のように長距離を移動する場合、薬の方がずっと良い。


 俺は身体を強化してから、目的地にむかって一気に走る。


「やはり同じ薬を使っても八十歳のころより、身体が軽いな」


 久々に走るととても気持ちが良かった。

 八十歳のころは、いくら魔法で強化しても、ひざや腰が痛かった。

 戦闘時に短い距離を高速移動する以外で走ることは皆無だったのだ。


 馬よりも速く、走り続けて五時間で目的地に到着する。

 街道という話だが、人とすれ違うことは全くなかった。


 元々さびれた街道という話だった。

 加えて、南方は魔王軍の勢力エリアに近い。

 それゆえ人族はほとんど逃げ出しているのだろう。

 商人もヨナのように高い志がなければ、危険すぎるため近づかないのだ。


「さて、ゴブリン退治はさっさと済ませて薬草採集しようか」


 俺はスカウトではなので、足跡や痕跡を調べることは得意ではない。

 それゆえ、周囲を探索魔法で調べていく。

 そして見つけ次第退治していった。

 全部で十五体を倒し、魔石を回収した。


「ゴブリンは魔石以外に価値のある戦利品を取れないからおいしくないな」


 死骸をしっかり燃やしてから、俺は周囲の探索に入る。


「やっぱり、ケルミ草もレルミ草も手つかずだな……」


 俺は順調に採集を続ける。


「材料が徐々に集まってくると、今度は賢者の石を作りたくなるな……」


 賢者の石があれば、大規模な錬金術を少ない魔力で実行できる。


「だが、賢者の石を作るには素材も足りないし……。時間も設備も足りないな……」


 実は賢者の石の素材は、ものすごくレアというわけではない。

 だが、種類が多いうえに品質も非常に高くなければならない。

 少しずつ集めていくしかないだろう。


 設備は少しずつ整えていくしかあるまい。

 広めの家を買って工房に作り替えるのがいい。


 素材集めにも設備投資にも、お金がかかる。

 頑張ってお金を稼ぐのが一番の近道だ。


 そんなことを考えながら採集を続けていると、

「おや?」

 遠くに大きな魔力反応を見つけた。


 俺は魔力反応のもとへと、ゆっくり歩いて向かう。

 そこには大きな岩の陰に隠れるようにして小さな竜がいた。


 大きさは小型犬ぐらい。

 二枚の羽と手足のあるタイプの竜だ。身体の割に尻尾は太い。

 鱗は深紅で、とても綺麗だった。


「……竜の赤ちゃんかな」


 竜はとても魔力の高い種族だ。

 その竜の中でも、深紅の鱗を持つ竜は特に魔力が高い。

 鱗も爪も、そして体内の魔石も非常に貴重な錬金術の材料だ。

 特に赤ちゃんの鱗や内臓などは非常に強力な魔道具の材料となる。


「りゃあああああ!」


 小さな竜は、俺を見るなり懸命に威嚇しはじめた。

 翼をバサバサさせて身体を大きく見せている。

 口を大きく開けて、出もしないブレスを吐く素振りをする。

 なぜか、不自然に右半身を地面につけていた。


 一生懸命な竜には悪いが、赤ちゃん竜に威嚇されても怖くはない。

 むしろ、かわいいと思ってしまった。


 こんなにかわいい竜を錬金術の素材にするなど、とんでもないことだ。


 俺は周囲を改めて魔法を使って探索する。

 親竜の気配は全くない。


「親とはぐれたのか?」


 普通、赤ちゃん竜はある程度大きくなるまで親の巣で育てられる。

 ここはどう見ても竜の巣ではない。そして親竜の痕跡もない。

 そうなると親竜と何らかの理由ではぐれてしまったと考えるのが自然だ。


 親竜とはぐれる場合には、主に二つの理由が考えられる。

 一つは親竜が死んだ場合。

 竜の寿命は果てしなく長い。だが不死ではない。

 冒険者、他の竜、魔物などに倒される、不慮の事故、病気などが死因として考えられる。


 もう一つは卵、もしくは赤ちゃん竜が親元から盗まれた場合だ。


 盗まれた場合、親竜は当然のように怒り狂って追いかける。

 親竜はあかちゃん竜や卵の魔力をはるか遠くからでも感知するのだ。


「盗まれたのなら、この場に放置されているわけがないな」


 となると親竜が死んでいると考えた方がいいだろう。


 野生の竜の子供にはむやみに触れない方がいい。

 だが、親がいないのなら保護しないと死んでしまう。


 俺は赤ちゃん竜の状態を調べることにした。


「キシャアアアアア!」


 俺がゆっくりと手を伸ばすと、激しく威嚇しながら伸ばした手を噛もうとする。


「はいはい。痛いことはしないからね」


 俺は噛めないよう口を押えてから抱き上げる。

 怯えた赤ちゃん竜は大暴れだ。爪でひっかこうともがきまくる。


「む? お前、傷だらけだな」


 それもかすり傷ではない。

 かなり深い傷が右半身を中心にいくつも入っていた。

 これはとても痛かろう。

 それに血もまだ止まっていない。放置しておけば命に係わる。


「キシャキシャアアア!」


 赤ちゃん竜は俺を警戒していた。

 だから不自然に右半身を地面につけていたのだ。

 怪我していることを俺に知られないように必死で隠していたのだろう。


「すぐに治してやるからな」

「キシャアアキシャアア!」

「いじめないから暴れないの」


 俺はポーションで赤ちゃん竜を治療することにした。

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