第23話 魔人
俺が手を離すと、魔人は力尽きたようにひざから崩れ落ちた。
「りゃあ」
リアは俺の肩の上に乗ったまま小さい声で鳴く。
怪我も何もしていない。
「リアは本当に火炎に強いな」
リアは俺と一緒にまともに火炎を食らった。
当然俺はリアをかばおうとした。だが、思いのほか魔人が強かった。
俺の全身が炎に包まれたのは誤算だった。
一瞬ヒヤッとしたが、リアは全く平然としていた。
中々の火力だったのに無傷だった。
「赤ちゃんなのに、リアは凄いな」
「りゃ!」
リアは誇らしげに羽をバタバタさせた。
俺はリアを優しく撫でると、地面に倒れている魔人を見る。
あれほど雷を食らわせたというのに、魔人にはまだ息があった。
「お前。なぜリア……、いやこの竜の子を狙っている?」
「…………何も知らぬようだな」
「だから聞いている」
「……まさか偶然にそのお方に出会ったとでもいうのか」
「そのお方? 竜の子のことか?」
なぜか魔人はリアのことをそのお方と呼んでいる。
もしかしたら、リアの親竜が魔人たちにとって特別な竜なのかもしれない。
道理でリアを傷つけるような攻撃は、魔人は一切してこなかった。
リアには効果のない火炎攻撃と、俺を直接狙う近接攻撃。
攻撃のバリエーションが少ないとは思った。
それもリアを傷つけないようにとしていたと考えれば、納得できる。
それほどまでしてリアに気を使うとは。
それは腑に落ちない。
リアは見た感じ、火竜に見える。
成長した火竜は非常に強力な魔物だ。
知能も人族より高く、魔力は比較にならないほど高い。
その咆哮とブレスは、容易に騎士団を壊滅させるほどだ。
とはいえ、赤ちゃん竜はさほど強くない。成長するにも時間がかかる。
魔人がそこまでして手に入れたい駒とは思えない。
「この竜の子は何者なんだ?」
「……運の悪いことだ」
俺の問いには答えず、魔人はからからと笑う。
俺がリアに偶然出会ったというのは、魔人にとって、この上ない不運ということだろう。
たいていの冒険者に魔人は勝てるのだ。
寄りにも寄って魔人に勝てる冒険者がたまたまリアに出会うなど想定してはいまい。
「竜の子を傷だらけにさせたのはお前らか?」
「…………」
魔人は俺の問いには何も答えない。
だが攻撃する際、リアを傷つけないよう気を使っていたのだ。
リアを傷つけたのは、この魔人ではないのではないかと俺は思う。
とはいえ、リアの味方とも思えないのだが。
「竜の子を攫ってどうするつもりだ?」
「…………」
「竜の子の、親にでも頼まれたのか?」
「……お前は何もわかっていない」
「わかってないから聞いているんだろ――」
言葉の途中で俺は大きく飛び退いた。
――ダァァァァン
その直後、俺の立っていた地面が爆発し大きくえぐれる。
「もう一匹、魔人がいやがったのか」
気配を消した魔人が、直上から俺を目掛けて突っ込んできた。
いや、空から落ちてきたと言った方が正確だろう。
「空から見ていたが、人族風情に何を後れを取っているのだ」
「返す言葉もございませぬ」
どうやら新しい魔人には空から見られていたらしい。
それなのに直前まで俺は気付けなかった。
魔人には羽があるが、空を飛ぶためには魔法を使う。
空を飛ぶ魔法は魔力消費の大きな魔法だ。
そんな魔法を使われていたら、さすがに俺は気付く。
いくら隠ぺい魔法がうまかったとしても、隠れ続けるのは難しい。
俺が気付けなかったということは、つまり相当高いところにいたということだ。
少なくとも高度八千メトル程度まで羽と魔法で飛んでいたのだろう。
そしてそこから一気に急降下してきたということだ。
よほど魔力が高く、肉体も強靭でなければできない芸当だ。
魔人の中でも相当強い部類といえる。
その魔人は俺の方は見ずに、俺が瀕死にした魔人を睨みつけた。
「余計なことをべらべらとしゃべるな」
「もうしわけありませぬ」
「こんな仕事も出来ぬとは、魔人の面汚し――」
――ゴオオオオオ
会話の途中で、俺は魔人二匹を燃え上がらせた。
錬金術で熱を発生させたのだ。
形状変化と形態変化の合わせ技だ。
熱発生は魔力消費も控えめで威力も高い。なかなか戦闘向きの錬金術だ。
「俺を無視するとはいい度胸だ」
最初の魔人は消し炭のようになった。
空から降って来た魔人も焼け焦げている。
だが、死んではいない。
「あれで死なないとは。魔人の割には強いな」
「……舐めるな。人族風情が」
そういうと魔人の焼け焦げた皮膚がバリバリと音を立ててはがれ始める。
はがれた皮膚の中からは健康な皮膚が表れた。
まったくの無傷に見える。
「人族が我を傷つけられるなどと思わぬことだ」
「それは凄い、……というとでも思ったか?」
空から降って来たことには驚いた。
俺の熱攻撃をうけても致命傷ではないことにも驚いた。
だが、さすがに無傷というのは、やりすぎだ。
なにか種があるのは確実だ。
「人族風情には我の偉大さはわからぬようだな」
「……そうかもしれないな」
会話をしながら、俺は周囲を探査魔法で調べていく。
魔人は俺を攻撃せずに会話に付き合っている。
恐らく時間を稼いでいるのだ。
そして俺の熱攻撃をうけても無傷。
つまり、目の前の魔人は影のようなもの。
本体は近くに隠れているのだろう。
そうでなければ、俺と最初の魔人との会話がわかるわけがない。
いくらなんでも八千メトル上空には声は届かないからだ。
遠くに声を届ける魔道具は存在するが、ここにあれば俺は気付く。
「ところで、お前らの目的は何なんだ?」
「それを人族風情が知ってどうする」
「いやなに、俺は好奇心が強くてな……」
魔人とどうでもいい会話をしていると、やっと探査魔法に本体が引っかかった。
魔人は俺のすぐ真後ろ。距離は二メトルだった。
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