第22話 襲撃者
俺はとっさに空気中の水分を凍らせて壁を作り火炎球を防ぐ。
そうしながら火炎球が飛んできた方向を見る。
最初、リアの親竜かと思った。
リアは赤い鱗を持っている。恐らく火竜の赤ちゃんである。
だからリアの親の火竜がリアを取り返しに来たのかと思ったのだ。
それならば、寂しいが返さなければならない。
そう思ったのだが、そこいたのは竜ではなかった。
人型で身長は二メトル以上ある。頭からは大きな角が生えていた。
背中からコウモリのような被膜のある黒くて大きな羽が生えている。
手足は、体に比して一般的な人族よりもずっと長い。爪も鋭く長かった。
そして、地面から〇・五メートル当たりの位置を浮かんでいる。
人型の魔獣である魔人だ。
魔人は強い。
知能が高く、魔力は人族よりも圧倒的に高い。
そして身体能力も人族の比ではない。
人族と魔人は、狼と魔狼ぐらい違うのだ。
「……魔人が俺に何か用か?」
「……その竜の子を渡せ」
俺はリアをちらりと見る。
「キシャアアアア!」
俺の肩の上に乗っているリアは一生懸命威嚇している。
怯えて震えながら、俺の頭にヒシっと抱きつく。
どうやら、リアの知り合いの魔人というわけではなさそうだ。
「理由を聞いても?」
「………………」
「お前ら自称魔王軍の奴らか?」
ここは魔王軍の本拠地に近い南方地域だ。
そして魔王軍副総裁は数多くの魔人を配下にしているという。
そこからの推測だ。
「だったらなんだというのだ?」
明言はしていないが、自分が魔王軍の一員であることを肯定している。
「魔王軍の奴らが、何故竜の子を欲しがる」
「…………」
その問いには答えず、魔人は無言のまま俺に襲い掛かってくる。
「理由は教えてくれないのかよ」
所属は教えても理由は教えられないらしい。
魔人の鋭い爪を俺はかわす。
魔人にとっては人族は劣等種族。ただの雑魚。
理由を説明するより、俺を殺してリアを攫う方が簡単だと考えたのかもしれない。
「お前は理由を説明する手間を惜しんだことを後悔することになるだろう」
そんなことを言いながら、俺は魔力を体内に一気に巡らせて身体能力を強化する。
そこに魔人の鋭い爪が襲い掛かる。
俺が後ろに小さく跳んでかわすと、魔人が口を開けた。
――パウッパウッパウッ
魔人の口から強力な魔力弾が、超高速で三発連続で撃ちだされた。
「器用だな、おい!」
俺は右手を魔力で覆って、魔力弾をはじいていく。
三発目をはじいたとき、俺の直上から巨大な火炎球が降って来た。
魔力弾はおとり。こっちが本命だ。
火炎球の直径は五メトルほど。高温すぎて白熱している。
錬金術で氷の壁を作っても一瞬で溶けるだろう。
土の壁ですら溶かしかねない。
「厄介なことを!」
俺は大きく後ろに跳んでかわしたが、魔人が俺の退き足について来た。
そして右手を思いっきり振るう。鋼鉄すら切り裂きそうな鋭い爪だ。
俺は左足で魔人の右手を蹴り上げて軌道をずらす。
魔人の連続攻撃は止まらない。
左手に持った剣で逆袈裟に斬りかかってきた。
これも鋼鉄すら斬り落としそうな斬撃である。
俺は辛うじて身をよじって、斬撃をかわす。
同時に再び魔人の口から魔力弾。
即座に左手ではじく。だが、その俺の左手首を、魔人が右手でつかんだ。
「捕まえた」
魔人が口をゆっくりと動かして、にたりと笑う。
俺の手を掴んだまま、魔人は口から強烈な火炎ブレスを吐き出した。
超至近距離からの火炎ブレス。避けようがない。
俺はまともに火炎ブレスを浴びた。
「……他愛無い」
「何の話だ?」
「なに……? まともに食らったはずだ! なぜ無傷なのだ」
「この程度の攻撃で殺せると勘違いされていることが驚きだよ」
魔人はひきつった顔でたて続けに火炎ブレスを口から吐く。
俺は錬金術で体の周囲に強固な空気の壁を作る。
ただの空気の壁ではない。魔力を練りこんだ空気の壁だ。
この程度の火炎ブレスなら難なく防ぐ。だが複雑な術式だ。
今俺の手元には「賢者の石」がないので、錬成式を頭の中で組み立てるのに少しかかった。
「久しぶりだから、手間取ったな。練習しなければなるまい」
千年前、俺は「賢者の石」に頼り切っていたのかもしれない。
賢者の石なしで錬成式を頭の中で組み立てる練習をやりなおした方がいいだろう。
「……
「何をわけのわからぬことを!」
俺の左手を掴んだままの魔人が、剣を振りかぶる。
「ハアアアアアァァァ! 死ねえええええ!」
魔人渾身の唐竹割り。
俺はその剣を右手でつかむ。
「……少し修練に付き合ってくれ」
俺は右手で剣を掴む。左手首は魔人に掴まれたまま、錬成式を組み立てる。
そして、右手から左手に向けて
「ギアヤアアアアアアアア!」
「うん。まあまあかな」
雷は錬金術の物質変換で発生させることができるのだ。
物質変換自体は錬金術の中でも難度は高い。
だが物質の構成要素の一つを操るだけでよいので物質変換の中では比較的簡単だ。
難度は難しすぎず簡単すぎない。
だから、修練には最適である。
「もう少し威力を高めて、さらに速く組み立てたいな」
「ギアアアアアア!」
「うん。もう少しだな」
「ギアアアアアアアアアア!」
何度も何度も雷を流して練習する。
雷の威力と、錬成式の組み立ての速さに満足したころ。
魔人の全身は、プスプスと煙を出しつつ黒焦げになっていた。
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