第14話 魔法の鞄と防具

 錬成陣が光り輝き、次に鞄全体が輝く。

 そして輝きはゆっくりとおさまった。


「……どうなったんだ? ルードさん」

「成功だ。鞄の外見は小さくなったが、内容量は格段に増えている」


 俺は自分の収納魔法に入れておいた素材などを取り出して鞄の中へと入れていく。

 採集しまくった薬草に加えて、街で買ったものも鞄へと移す。


「……随分と収納魔法に入れてたんだな。魔力は大丈夫だったのか?」

「もちろん収納魔法にものを入れている間は魔力は使う。だから鞄から作ったんだ」

「普通の魔導師ならそれだけの量をいれたら、すぐ魔力切れになると思うが……」

「さすがにそんなことは無いだろう」


 トマソンは魔導師ではないので、あまり知らないのだろう。

 もしトマソンの言う通りなら、現代は魔導師のレベルも相当低いことになってしまう。


 そして俺は次の付与に入る。

 付与の対象は服と防具。剣と短剣である。

 魔法の鞄と違い、ただの付与ならば俺にとっては簡単である。

 錬成陣を描くまでもない。


「一番難しいのはもう済ませたから、ちゃっちゃと終わらせよう」


 まずは防具だ。

 革の鎧を軽くして耐久性を上げると同時に物理防御と魔法防御も上げておく。

 使うのは主に物質変換の術理だ。


「ただでさえ軽い革の鎧が、さらに軽くなったな。凄いもんだ」

「防御力も並みの金属鎧よりもずっと高い。剣でも簡単には斬れないようになっている」

「凄いもんだなぁ」


 続けて、服と靴を錬金術で強化する。

 服も耐久性を上げなければならない。

 それに物理防御と魔法防御の向上。そこまでは防具と同じだ。

 だが、服と靴は快適性も上げなければならない。


 夏なので服は通気性を上げて涼しくする。そして濡れてもすぐ乾くようにした。

 靴も通気性は大事だ。そして防水性もとても大事だ。

 冬用、もしくは非常用に、防寒性能の高い衣服と靴も作っておく。

 作ったものの効果は、丁寧に一つずつトマソンたちに説明していった。


「この服も靴もいい感じだな。軽いし、頑丈。いいことづくめだ」

「俺はこの靴が特にいいともいますよ。靴が濡れると体力一気に持っていかれますし」


 感心してみているトマソンたちに俺は言う。


「鎧の防御性能を確かめたい。この革の鎧を思いっきり剣で斬ってみてくれないか」

「いや、折角の鎧が斬れてしまったらどうする」

「そう簡単に斬れるようなら、やり直しだ」

「だが、いいのか?」

「戦闘中に敵に鎧ごと斬られたらシャレにならないからな。そうならないためのテストだ」

「それは、確かにそうだな……」


 トマソンは納得してくれた。


「だが、俺は並みの金属鎧ぐらいなら斬り落とせるぞ? いいのか?」

「そのぐらいじゃないとテストにならん。思いっきりやってくれ」

「……わかった。ルードさんがそういうなら。恨みっこなしだ」

「当然だ」


 トマソンが腰の剣をすらりと抜いた。

 トマソンは一流のベテラン冒険者。その剣も鋼鉄製のなかなかな業物だった。

 その剣を上段に構える。


「ではいくぞ」

「ああ。思いっきりやってくれ」

「はあああああああ!」


 気合一閃。力強くトマソンは剣を振り下ろす。

 見事な剣筋だ。


 ――ガィィンキィィィン


 剣が革の鎧にあたったとは思えない音が鳴る。


 俺の革の鎧にトマソンの剣が当たって、壊れたのはトマソンの剣だった。

 刃の中ほどからぽっきりと折れて破片が談話室の扉の方へと飛んでいった。

 間の悪いことにちょうどその扉が開かれる。

 俺はすかさず高速で移動して、俺て飛んだ刃を手でつかむ。


 眼前で止まった剣の破片を見て、

「わっ!」

 扉を開けた人物は、悲鳴に近い声を上げた。


「驚かせてすまない」

「い、いえ」


 談話室の扉を開いたのは、ヨナだった。

 俺たちの様子を見に来たのだろう。


 被害が出なくてみんな胸をなでおろす。

 そしてほっとしたトマソンは、じっと自分の折れた剣を見る。


「折れたか……。俺の剣が……」


 トマソンはかなりショックを受けているようだった。


「すまない。俺も剣の方が折れるとは思わなかった」

「まだまだ、腕が未熟だったようだ」

「いや、そうではない」


 俺は鎧は壊れないし、剣も折れないと思っていた。

 俺の革の鎧は衝撃を吸収するようになっている。 


 そしてトマソンの剣の質は相当高い。

 剣が折れるほどの剣速をトマソンが出せるとは思わなかったのだ。


 それを俺は正直にトマソンに説明する。


「侮っていた、すまない。剣は弁償させてくれ」

「それは大丈夫なのだが……。ルードさんに剣の腕を褒められると嬉しいものだな」


 そんなことを話していると、ヨナが言う。


「みなさん何をなさっているのです?」

「ああ、装備を整えていたんだ」


 俺はヨナに作った魔法の鞄と、防具と衣服や靴の説明だ。


「なるほど。錬金術で。これがその魔法の鞄ですか?」


 ヨナが一番興味を示したのは魔法の鞄だった。

 商売人としては一番気になるのは当然だ。


「これは凄いですね。商売の仕方が変わりそうです」


 やはり魔法の鞄の技術は現代には伝わっていないようだった。

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