第13話 装備を整えよう

 俺は自室に戻って、装備を整えようと考えていた。

 だが、先ほど俺の診断を受けた護衛が目を輝かせて声をかけて来る。


「ルードさん! その整えるってのは、やっぱり錬金術で装備を作ることですか?」

「いや、店で買った装備を錬金術で強化するんだ。剣や服を一から作るよりも楽だからな」

「へえー、そういうものなんですね」

「ちなみに一から大して手間をかけずに作ったのが、出会った時に俺が着ていた服だ」

「あっ、なるほど……」


 あまりにみすぼらしかった俺の格好を思い出したのだろう。

 

「手間をかければ、ましには出来るが……。専門家の作ったものを強化する方が楽なんだ」


 錬金術でなければ加工の難しい素材などでなければ、買ってきた方が早い。

 それに特に衣服は専門家の作ったものの方が着心地なども良いのだ。


「あの、ルードさん。その強化するところを見せてもらっても?」

「おい、あまり無茶を言うな。ルードさんに迷惑だろう」


 トマソンがすかさずいさめた。


「すみません。変なこと言ってしまって」

「いや、構わない。見てみるか?」


 排他的で秘密主義だったことが、錬金術の衰退を招いた。

 そう俺は考えている。

 興味があるのなら見せてあげたほうがいい。


「いいのですか?」

「ああ、見ても面白くないとは思うが、それでも良ければ見ていってくれ」

「ありがとうございます!」

「……俺もいいか?」「俺も……」

「もちろん構わないさ」


 トマソンとさらにもう一人の護衛も見学を希望してくれた。


 俺は少し考える。

 ヨナの用意してくれた部屋は、一人部屋としては充分に広い。

 だが、男四人には少し狭い。

 それに、特に何か錬金用の設備があるわけではない。


「……折角だしここでやろうか?」

「できるのか?」

「ああ、迷惑でなければだが……」

「もちろん迷惑じゃないさ」


 トマソンがそう言ってくれたので、俺はさっそく装備強化の準備に入る。


「まずは……。魔法の鞄の製作からだな」


 最初に作っておけば、強化した装備などを放り込んだりすることも出来る。


「魔法の鞄?」

「収納魔法の機能を鞄に付与するんだ」

「……錬金術では、そんなことができるのか?」

「錬金術と魔法の複合技だがな」


 俺は買ってきた大きな鞄を談話室の大きなテーブルの上に置く。

 そして、道中集めた薬草や買ってきた素材をテーブルの上に並べた。


「それは?」

「これがケルミ草、これがレルミ草。ポーションの材料にも使える基礎的な薬草だ」


 ケルミ草がヒールポーション、レルミ草がキュアポーションの主原料である。


「それにミスリルとオリハルコン」

「それは俺も知っている。伝説の魔法の武器とかに使われる金属だろう?」

「ああ。まあそうなんだが、なぜかそんなに高くなかった」


 それでも鉄よりは高い。だが、千年前の感覚からいうと数百分の一の値段である。

 錬金術が衰退したせいで、うまく加工することができないのだろう。


 武器防具の店を見て回ったがミスリルやオリハルコンの武器防具はあった。

 だが、鉄や青銅と同じように、そのまま武器にしていただけだった。

 それでは折角のミスリルやオリハルコンも鉄の剣と大差ないものになってしまう。


「オリハルコンもミスリルも、魔法の鞄製作にはほんの少ししか使わない」


 ミスリルとオリハルコンはインゴットから、ほんの少しだけ削って混ぜるのだ。

 そして、次の素材を用意する。


「これはただの水。そして水銀と愚者の金だな」

「ルードさん。愚者の金ってのは、なんだ?」

「黄鉄鉱。硫黄と鉄の化合物だ」


 説明したが、トマソンはよくわかっていないようだ。


「それにしても随分と綺麗な形なんだな。サイコロみたいだ」

「愚者の金は採掘したときから、こういうサイコロ型のこともある」

「へー、すごいもんだな」


 黄鉄鉱は、黄金に見かけが似ている。だから愚者の金と呼ばれることがある。

 それに立方体に近い綺麗な結晶を作るので見ているだけで少し楽しい。


「愚者の金は、そのまま使わず錬金術で少し加工するんだ」


 物質変換で愚者の金から鉄と硫黄を取り出す。

 ぱあっと明るくなって、愚者の金が鉄と硫黄へと分離した。


「おお、錬金術って凄いもんだな」

「まだまだ下準備だよ」


 俺は作った素材を適切な量を混ぜていく。

 たちまち真っ赤なペーストができた。


「綺麗な赤だな」

「綺麗だが体には悪い。口に入れてはだめだ」


 そして俺はそのペーストを使って、鞄に文字と記号を書き込んでいく。


「それは何やってるんだ?」

「錬成陣を描いているんだ。厳密に言えば、錬成陣と魔法陣の複合なのだが」

「魔法陣なら知っているが……錬成陣ってなんだ?」

「錬成陣ってのは――」


 書き留めることで、錬金術の複雑な術式を確実に、かつ速やかに実行するための物だ。

 一連の術式がとても長い場合、途中で少しでも間違えれば失敗してしまう。

 錬成陣を利用すれば、間違いがないかチェックしてから発動させることができる。


「ほー」

「そう言う意味では錬成陣も魔法陣も基本的には同じだ」


 全て頭でやる必要がないので、間違いを減らし複雑な術式も実行できるようになる。


「計算に例えるなら、無詠唱は暗算。詠唱は九九。そして魔法陣は筆算だ」

「ふむ?」


 トマソンたち護衛たちは俺の例えにピンと来ていなさそうだった。

 トマソンたちは商人ではないので計算はあまりなじみがないのかもしれない。


 解説しながら、鞄に錬成陣を描いていく。


「よし。錬成陣の完成だ」


 そして俺は錬成陣を発動させた。

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