第50話 魔人対錬金術師 その3

 魔人は口の中で呪文を詠唱している。

 魔力がどんどん魔人の周囲に集まっていく。

 どうやら、高威力の大魔法を使うつもりらしい。


「ガウ、すぐに戻ってこい」

「ガウ!」


 ゴブリンやオークたちと戦っていたガウが俺の元に戻ってくる。

 ちらりとみると、ガウの倒したゴブリンとオークが周囲に転がっていた。

 正確には数えられていないが、五十匹程度は倒している。


 俺は魔人から目を離さずに、ガウの頭を撫でる。


「ガウ。俺の後ろにいなさい」

「がぅ」


 魔人がどれだけ大きな魔法を使うつもりかわからない。

 恐らく魔人はオークやゴブリンなど気にせずにぶっ放すのだろう。

 強いガウでも、巻き込まれたら無事ではすむまい。


 ガウと一緒に逃げるということは出来ない。

 俺が防がなければ王都が吹き飛ぶ可能性がある。


 俺は防御のために錬金術の錬成陣を足で地面に刻んでいく。

 そうこうしている間に、魔人の呪文詠唱が終わったようだ。


「さあ、死ね。ルードヴィヒ。王都ごと吹き飛ばしてやる!」


 まばゆい光。そして圧倒的な熱量。

 巨大な光と熱の束が魔人から放たれる。


 元々強力な魔人が、賢者の石を利用して放った魔法だ。

 弱いわけがない。


 俺は足で刻んだ錬成陣を使って、土の防壁を出現させる。

 自分だけ守ればいいわけではない。王都を守らねばならないのだ。


 魔人の熱線に触れた地面が溶ける。

 俺の作った土の防壁も、地面同様にみるみるうちに溶けていった。

 だから、次々と防壁を作り直さなければならない。


 超高速で防壁を作り続ける。それも王都を守る巨大な防壁をである。

 しかも魔人は熱線を四方八方に拡散させつつ、俺と王都を狙ってくる。

 魔人を囲むように防壁を展開させなければならない。


「下等魔人の魔法でも、賢者の石を使えばそれなりの威力になるようだな」

「粘るではないか! ルードヴィヒ! だがすぐに消し飛ばしてくれる!」


 魔人の攻撃はさらに激しくなった。熱線の温度は上がり、太くなる。

 やはり賢者の石は魔法の触媒としても、ものすごく有用なようだ。


 俺は熱線を防ぎ続ける。

 周囲から物質をかき集め、壊されるはしから壁を作り続ける。


「まだ粘るか! 賢者の石さえなければ、貴様が我に勝てる道理は無し!」

「……一つ、聞きたいんだが」


 俺は勝利を確信している様子の魔人に向けて言う。


「それは俺が作った物なんだが……」

「……何が言いたい?」

「賢者の石の力と錬成の難度を知っていながら、何故なにゆえその作り手を畏れない?」

「はぁ?」


 怪訝そうな表情を魔人は浮かべる。


「お前が真に警戒すべきは賢者の石そのものではなく、その作り手だ」

「なにを……」


 錬金術の物質移動でひそかに地下を移動させていた水の球を熱線の根元にいきなり突っ込む。

 熱線の根元。つまり魔人の目の前、至近距離である。


 壁を作る際に周囲からかき集めた物質の中から水を取り出していたのだ。


 ――ドオオオオォォォォーーーン!


 土が溶けるほどの高温に、水の塊を突っ込んだのだ。

 当然、水は急激に気化して体積を一気に増大する。

 つまり、水は爆発するのだ。


 その爆風に対応しようと、魔人は熱線魔法を解除して障壁を張る。

 魔人は賢者の石を触媒にして肉体強化の魔法を使っている。

 それゆえ超反応で対応してきた。


 それでも、不意を突かれていたため、完全には防ぎきれない。

 大きく体を吹き飛ばされる。魔人の身体は傷だらけになった。

 深く傷ついてはいるが、致命傷ではない。

 それに、まだ賢者の石は魔人の支配下にあり、空中に浮かんだままだ。


「……貴様ぁ」

「賢者の石泥棒は、ゴキブリ並みにしぶといんだな」

「許さぬぞぉぉぉおおお!」


 魔人は大きく咆哮し再度魔法をぶっ放そうとする。

 賢者の石が怪しく光った。


「させると思うか?」


 俺はそういうと、錬成陣を発動させる。

 魔人を中心に半径二十メトルほどの範囲の地面がボウっと光った。


「俺が何も考えずただ防壁を作っていただけだと思っているのか?」


 熱線を防ぐための防壁を作るついでに、地面の下に錬成陣を刻んでおいたのだ。

 錬成陣から、槍や剣、それに鎖が出現する。


 鎖で魔人を拘束し、地面から生える無数の槍と剣が魔人を貫く。


「我が身が滅びようと、き、貴様だけは、貴様だけは殺す!」


 全身を血みどろにして、口から血を吐き出しながら魔人は吠える。

 致命傷だ。だがまだあきらめていないらしい。


 魔人は賢者の石を触媒にして魔法を発動させる。


「もう我が死んでも止まらぬぞ。滅びるがよい」


 魔人が発動させたのは、隕石召喚メテオストライクの魔法だ。

 赤熱した巨大な隕石が、俺ではなく王都へと向かう。


 召喚が済めば、魔人が死に魔力の供給が無くなっても、隕石は自由落下する。

 確かにこれを防ぐのは難しい。


「厄介な真似を」

「……さすがのお前も打つ手はあるまい」

「いや、あるが」


 俺はおもむろに魔人のもとに歩いていく。

 そして、空中に浮かぶ賢者の石を右手で掴んだ。


「返してもらうぞ」

「なぜ掴める? 賢者の石には保護魔法がかかっているはず」

「支配下に置いていたお前が瀕死になったからだよ」


 保護魔法に魔力を供給する余裕がなくなったから、俺でも奪い取れるようになった。


「さて、賢者の石を錬金術師が使ったら何ができるか、冥土の土産に見せてやろう」


 俺ははるか上空にある隕石に右手を向けた。


「少し距離があるか。だがまあ、可能だ」


 距離があるほど、錬金術の効果は弱くなる。

 それを賢者の石で補って、隕石を物質移動と形状変化で粉々に砕く。


 巨大な隕石は大きな岩程度の大きさに、それをさらに砕いて大きめの石程度に。

 そこまで小さくなれば、地表まで到達できずに空中で燃え尽きる。


 夜空に、きれいな流れ星が無数に流れていった。


「りゃあ!」


 ずっと大人しくしていたリアが俺の首元から顔を出す。

 夜空いっぱいの綺麗な流れ星を見て目をキラキラさせていた。


 俺はリアの頭を優しく撫でると、魔人に向けて言う。


「さて、放っておいても死ぬだろうが……とどめが欲しいか?」


 魔人は驚愕の表情で、俺をじっと見つめていた。

 いや、俺ではない。魔人が見つめているのは首元のリアだ。


「ま、魔王様?」


 魔人がリアを見つめたまま、口走った。

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