第51話 魔人対錬金術師。その後
リアは魔人を見て首をかしげる。
「りゃ?」
「なぜ、貴様如きが魔王様と……」
魔人は恨みのこもった目で俺を睨みつける。
「傷ついているところを俺が保護した。というか、リアが魔王だと?」
「魔王様、今すぐに悪名高きルードヴィヒの手からお救い……」
そう言って魔人はリアに向けて手を伸ばす。
だが、そこまでだった。その体勢のまま、魔人は息絶えた。
「こいつ。……死ぬ前に気になる事を言い残しやがって」
魔人にはリアと魔王の話を聞きたかったのだが、もう遅い。
「りゃあ?」
リアはきょとんとして可愛く首をかしげている。
確かにリアは、魔王と同じ深紅の竜だ。
それに俺と同時期に転生していたとしたら……。
年齢から考えて、俺は二十年ぐらい前に転生しているはずだ。
寿命が長い分、成長が遅いリアは赤ちゃんぐらいになるのかもしれない。
もっとも転生だとしたら、俺に現世の二十年の記憶がない理由がわからない。
だから俺は転移だと考えている。
そして、転移だとしたら、俺は若返ったことになる。
ならば、魔王も若返っていても何もおかしくない。
百二十歳がおよそ二十歳へ。つまり百歳ほど若返っているのだ。
比率で言えば、六分の一だ。
魔王が百年、もしくは六分の一ほど若返れば赤ちゃんになる可能性はある。
とはいえ、死に際、意識が朦朧としていたせいで、魔人が見間違えただけかもしれない。
何しろ深紅の竜だ。死に際の魔人が誤解しても何もおかしくはない。
「りゃっりゃ?」
「リアは気にしなくていいからな」
そう言って、俺はリアを撫でる。
ガウも俺の足に体をこすりつけて来たので、一緒に撫でておく。
「ガウも頑張ったな」
周囲を見回す。
数百体のゴブリンやオークの死体が転がっていた。
全て俺やガウが直接手を下したわけではない。
大半は魔人の攻撃に巻き込まれたのだ。
防ぎ方を工夫して、ゴブリンたちを巻き込むようにしてはいたのだが。
「さて、地竜はどうなったか?」
地竜は地中の檻の中でモゾモゾ動いていた。
「ぐるるるる」
地竜は大人しくなっている。魔人の支配が解けたのだろう。
檻は頑丈。地竜は傷だらけだ。そして全身に槍が突き刺さっている。
「槍を抜く。少し痛いぞ。我慢しろ」
俺は槍を錬金術で移動させ、地竜からすべて抜く。
「GRRAAAAA!」
痛みで地竜は咆哮した。
だが、すべて抜き終わると、ぐったりした様子で大人しくなる。
少しかわいそうになったので、檻の外からヒールポーションをかけてやった。
見る見るうちに傷がふさがる。
「ぐる?」
地竜は「どうして?」と言いたげな表情で、檻の中からこちらを見上げていた。
「お互い魔人に迷惑したな」
「ぐるぅ」
このまま放置したら、地竜は討伐対象となり檻の中にいるまま殺されてしまうのだろう。
そう考えると、地竜がかわいそうな気になってくる。
地竜は魔人に強制的に支配されていただけなのだ。
俺は檻を解放した。
びっくりした表情を浮かべた後、地竜は地上へと穴から這い出てくる。
「故郷に帰りなさい。王都に向かう、もしくは人と戦うつもりなら俺が相手をしよう」
「ごるるる」
地竜は暴れず、喉を鳴らしながら、俺に頭をこすりつける。
どうやらなついてくれたようだ。
「なんだ、俺と一緒に来るか?」
「ぐる」
「あとで従魔として登録してあげよう」
俺は地竜の頭を撫でてあげた。
「さて俺は王都城壁へと向かう。地竜は疲れただろう。待っていなさい」
今頃、数百体のゴブリンやオークたちと冒険者や騎士が戦っているはずだ。
ゴブリンやオークの魔石などの戦利品は後で回収すればいい。
つい地竜解放に五分ぐらいかけてしまった。
戦闘が続いていることを考えれば、地竜解放は後回しにすべきだった。
だが、痛がっている地竜を見て放置できなかったのだ。
俺は手早く魔人の戦利品だけを回収して、ガウと一緒に王都の城壁へと走る。
「ぐるるぐるるぐるる」
鳴きながら、地竜が走ってついて来る。
背中に乗ってほしそうな気配を感じたので、俺はぴょんと地竜の背に飛び乗った。
疲れているガウを振り切り、地竜は一気に加速する。
身体強化した俺より走るのは速い。
「お前速いな」
「グルル!」
地竜はとても嬉しそうに鳴く。
川を渡ると、すぐに王都の城壁で戦う冒険者と騎士が見えた。
城壁の上から弓を放ち、登ろうとしているオークやゴブリンを倒していた。
魔人の王都攻略は地竜を使った城壁破壊ありきの作戦だった。
城壁をまともに使えるならば、負ける要素はない。
それでもゴブリンもオークも数が多い。
百匹程度倒しているが、まだ四百匹以上が城壁に群がっている。
「地竜、薙ぎ払うぞ」
「グル!」
地竜はゴブリンとオークの群れに一気に突っ込む。
体長十メトルもある巨大地竜だ。
走るだけゴブリンもオークも吹き飛ばされていく。
「ち、地竜だ!」
「ルードさんがやられちゃったの?」
そんな声が城壁の上から響く。
冒険者たちは地竜が城壁を破壊しに来たと思ったのだろう。
夜目が利く薬を飲んでいるとはいえ、今は月のない夜。
巨大な地竜の上に俺が乗っていることには気付いていないのだ。
大量の矢が俺と地竜目掛けて降り注いできた。
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