第49話 王都
ユノレル領を出発した後も順調に進め、次の日にはアーテッシュ伯爵領へ。伯爵領だけあって、この領地は広いので2泊した後は、いよいよ王都である。
お昼を過ぎたころに遠くの方で人工物が見える様になってきた。この様な大きな城壁に囲まれた場所を見るのは、初めてなので、シンシアと一緒にちょっとはしゃいでしまった。
さらに近づくと王都へ入るための入り口に、人や馬車の列が出来ていて、空港の入国審査を思い出した。
僕達はそこへは並ばず、もう1つの入り口である貴族用の方へ行く。イシスさんが貴族の証である男爵の身分を表す章みたいなのを門番に見せると、他の人数を確認した後は、それですぐに門をくぐることができた。これが貴族特権というものか。
貴族用の門をくぐると、王都の街並みが広がっていて、写真で見るようなヨーロッパの古い街並みに、今生活している人達がいるのは、なかなか新鮮な感覚ではないだろうか。
基本は石造りの建物が多く、火事のとき周りに被害が出ないようでもあるが、これだけ人がいるなら、木材は燃料になっているのかもしれない。
「お兄ちゃん、村と全然違うね」
「そうだね」
シンシアも同じような感想のようだ。メルクトス村は西の森が近いから、基本は木造建築が多いからね。
街並みを見ながら、馬車はどこか目的地があるように進んでいる。
「母さん、もう泊まるとこって決まってるの?」
「ええ、私達が冒険者のころよく利用していた宿よ。連絡したけど大丈夫だったのよね?」
アリシア母さんがデリアさんへ確認を取る。
「宿の空きはあったそうよ。あそこへ泊るのも久しぶりね」
「そうね、おかみさんは元気かしら」
「元気らしいわよ、それこそあり余っているんじゃないかしら」
「それもそうね」
母さんとデリアさんは、思い出を懐かしむように宿の人について話している。冒険者のころよく使っていたみたいだし、かなり親しいのだろう。
馬車は街中を進み、王都が初めてなので街並みを見てるだけでも楽しかったので、感覚的に宿にはすぐついてしまった。時間があれば王都を観光したいな。
「ここがそうよ、懐かしいわ」
「そうね」
母さんとデリアさんが懐かしむように、馬車の泊まった前にある宿を見る。
すると宿から1人の人が出てきた。恰幅のいい女性で、母さんとデリアさんを見つけると、笑顔で手を広げて挨拶してきた。
「デリアにアリシア、よく来たね!本当に久しぶりだよ!」
「ベルナさん、今回はお世話になります」
「お久しぶりです。ベルナさん」
デリアさんと母さんが挨拶して、女性から抱擁を受けていた。この人が先ほど言っていた人だろう。ベルナンダさんというらしい。明るい活発な人のようだ。
ひとしきり挨拶した後は僕達の紹介だ。ベルナンダさんに自分の子供達を顔見せできるのは嬉しいのだろう。デリアさんも母さんも昔馴染みに会うように、それぞれ紹介している。
「長女のノエルと長男のルイスね。もうすぐ6歳と2歳よ」
「長男のフィルと長女のシンシアよ。ノエルと同じ年で、シンシアは2つ下ね」
「会わなくなってからもうそんなに経つのね。こんにちは、ベルナンダよ。ベルナって読んでね」
「こんにちは、ベルナさんお世話になります」
「こんにちはー!」
僕が代表して挨拶し、それにみんなが続く。シンシアも若干人見知りする方ではあるのだが、ベルナさんの雰囲気と母さんと親しい感じがしているので、すぐに打ち解けた感じだ。
そのまま宿の中へ案内され、一通り宿の使い方の説明を受けた後、僕は荷物の運搬を手伝い、女性陣はベルナさんに案内され、食事する場所でお茶を出しながら、久しぶりの王都の話や村での生活など、これまで会えなかった期間の話で盛り上がっているようだ。
「王都は相変わらずだよ、今回デリア達が来た件で王都に人が集まっているせいで、景気がよくなってるくらいかね」
「そうなの。でも変わっていなくて安心したわ。メルクトス村に移ってから子供も出来たし、冒険者のときみたいに遠出することもなくなったから」
「そうね。それが悪いってことじゃないけど、冒険者ギルドもないから、若干情報は疎くなっちゃうのは仕方ないね」
「村の方はどうなんだい?」
「西の森があるおかげで、冒険者は年々増えているわ。冒険者ギルドの誘致出来るように、イシスが頑張っているみたいだけど、冒険者だけ増えても宿や食堂、武器屋なんかもそうね、商業施設を開いてくれる人が増えないと、冒険者ギルドの誘致も難しいわ」
確かに村の人達に必要な施設以上の供給が無いと、冒険者や商人などの他領地から来る人達を受け入れることは難しいか。
荷物の整理も終わり、明日の夜には晩餐会へ出席することになるので、事前に知り合いに挨拶周りをするイシスさんと、父さんほか護衛2名ほど宿を出て行く。
デリアさんや母さん達は、自分たちとノエルのドレスや装飾品選びのため、王都の店を回る。僕は荷物持ちとして、シンシアはドレスと装飾品で初王都を回るので、ワクワクしていたけど、ノエルはついていきたくなさそうだったが、明日が終われば自由だ、がんばれ。
ルイスくんは宿でカエラさんとお留守番だ。ついて来てもよかったけど、晩餐会が終わってからゆっくりということになった。
宿とデリアさん達についていく護衛を分け、早速出掛ける。ドレスについても馴染みというか、貴族になったときにお世話になった店があるそうなので、まずはそこに向かうみたいだ。
女性陣がお店でドレスなどについて買い物をしている間、僕は付近の店の様子を見る。
この辺りは貴族がよく来るからなのが、表通りの喧騒とは違い、比較的落ち着いている。近場の店のショーウィンドウを見ると値段が一桁違うので、庶民はあまり来ないのだろう。
そんな中に歴史を感じる古びた店があった。看板には骨董店と書かれていて、中は薄暗い。日焼け防止なのか、温度調節のためか、開けるドアもそれなりに重く、やっと入って中を見ると、煌びやかな装飾箱もあれば、土色の壺、ガラスで出来たグラスなど、種類問わず色々置かれていた。
こういうのは買うより見て回るのは楽しそうだと思い、時間つぶしに丁度いいので見学する。
色々見ていると、店の奥から人の気配がこちらへ来る。腰の曲がった髭の長いおじいちゃんが、僕を見つけると微笑みながら、話しかけて来る。
「ほっほ、珍しいのう。こんな小さなお客さんは」
「こんにちは」
「はい、こんにちは。一人で来たのかね?」
「いえ、向かいの店にいる家族達と一緒に」
「向かいの店は今はドレスの仕立て屋だったのう。そら男の子には退屈じゃろうて」
「はは」
まぁ確かに。そこにいるとどれがいいとか聞かれてくるけど、僕はセンスがいいとは思わないしね。最近ではシンシアにそういうのは任せてしまっている。
「何か面白いものはあったかい?」
「そうですね…あれは何の本ですか?」
僕が指さしたのは、背表紙が陽で焼けている古びた本だ。
「ほっほ、本が好きなのかい?」
そう聞きながら、僕が指さした本を取って、カウンターに置いてくれる。椅子を僕用と自分用を出して、座るよう促してくれる。
「そうですね、よく読む方だと思います」
「そうかい。これは昔の植物に関する図鑑だのう。印刷技術が発展していないときは、全部手書きじゃったから、こういう図鑑の類は貴重なんじゃ」
そう言って、本を開いて見せてくれる。中には植物の名前と挿絵が書かれているようだ。時代が古いようなので、所々わからない文脈が出てくるが、辛うじて読めるくらいか。
「綺麗ですね」
「そうじゃの。こういうのは挿絵を描く専門の絵師がいたもんじゃから、誰が書いたかで値段も変わって、面白いものよ」
そういいながら、お茶を淹れてくれたのにお礼を言って、本の内容などについて語り合うのだった。
まったり異世界生活~潜在能力過多なのでスローライフは異世界でお願いします~ 遣都 @Sorella
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