第46話 冬到来

 秋の雰囲気や余韻よいんがまだ消え切らずに残っている秋の末、残秋ざんしゅう。木の葉を吹き散らす強くて冷たい木枯こがらしが吹く、今日この頃。


 難しい言葉を並べてみたが、結局のところ冬に近づくにつれて、寒くなってきたということを言いたいだけだ。


 最初寒いなと感じたころは、魔法で部屋を暖かくして、魔法をやめても、すぐ気温が変わることが無いので良かった。だが、それも冬が近づいてくると、そろそろ常時発動で部屋の中の気温を上げないと、すぐ下がってしまう状態になった。


 家であれば普通に暖炉があるのだが、僕達が作った丸太小屋には、そんなものはない。そもそも必要ないと思っていたし、魔道具作成については今は基礎きそを習得して、魔力や魔素操作をもっと訓練してからでも、遅くはないと思ったからだ。


 しかしノエルが、ロッキングチェアを思いのほか気に入ってしまい、冬でも丸太小屋で過ごせるようにならないのと聞いてきた。


 いや、正確には「近頃寒いわね」から「フィル、部屋温めて」となり、「寒くなってるわよ」「そろそろ魔法だけじゃダメかしら」「冬でも丸太小屋で過ごしたくない?」みたいな感じだったけど……


 とりあえず暖める方法を考えよう。1つは部屋を暖める魔道具を作るか買ってきて使うこと。これは部屋の大きさ的に、今持ってる魔石や魔鉱石では作った場合、十分な効果を発揮はっきしない気がする。まだ作るのにも慣れてないし。


 買ってくるのが現実的だけど、魔石を何回か交換しないといけないから、結構出費がかさむんじゃないだろうか。


 2つ目はまだたくさん余っている木材を燃やして、暖める方法だが、それなら暖炉を作れって話で、部屋の中で物を燃やして、空気を入れ替えするところがないのは怖い。


 この2つの方法がダメとなると、根本的に部屋全体を暖める方法は無理があるので、方向性を変えよう。ノエルには悪いが、ロッキングチェアを諦めてもらうしかないが、そこは出来てから言い訳するか……





 まず部屋の一画いっかくに小上がりになるように、スペースを作る。外の作業は寒いので、魔法で自分の周囲の温度を調整しながら、魔法で木材を適度な長さにり出していく。このくらいの同時魔法発動なら今更お手の物だ。練習でもやってるしね。


 伐り出した木を丸太小屋の中に持ちこみ、組み立て、小上がりなので靴を脱いで使うため、表面はフローリングの様に綺麗にして、この前も使った蜜蝋みつろうワックスをかける。


 次に正方形になるように板を2枚作り、1つにはそれに4本の棒を足になるように組み立てれる形にする。これでしまう時分解したらスペースを取らないだろう。まぁマジックゲートにしまえば分解する必要もないけど、部屋に置いておくだろうしこの方式にしよう。


 もうノエルも何を作るか分かったようで、頷いていたので、これに使う布団を買ってきてもらう。その間に僕は暖めるための魔道具を作成する。


 布団の中で使うので、安全性を考慮こうりょして発熱するタイプではなく、ヒーターのような暖かな風が出るものでいいだろ。しかし直接肌に風が当たると乾燥して良くないので、布団の中の空気を暖めるだけにする。


 魔石に魔鉱石で魔導回路を繋げ、空気を暖める機能だけを付けてる。これだけなら魔石もそんな等級が高いものじゃなくても、稼働するだろう。テストは必要だが。


 魔道具を作っている間に、ノエルが布団を買ってきたようだが、後ろに何故かシンシアもついてきていた。どうしてそんな状況になったかわからないけど、僕は魔道具作成の方に集中する。


 僕が集中しているので、特に話しかけることもなく、2人で机と椅子を出して、クッキーとお茶を用意し、お茶会みたいなものが始まった。いや、ここじゃなく家でしたら良くない?


 チラチラ気にしながらも、机に取り付ける魔道具は完成したので、小上がりに実際に組み立てる方の机板を置き、魔道具を固定する。固定した後に足を組み立て、机を完成させたら、それにノエルが買ってきた布団を被せ、その上に同じ大きさの机を乗せて、炬燵こたつの完成だ。


 炬燵に入って、魔道具を起動させる。風は感じないし、等級の低い魔石と魔鉱石なので、数分時間はかかるだろうが、暖かくなるのを待つ。


 炬燵に入っている僕をノエルとシンシアがずっと見つめているが、まだだよ。ちゃんと動くか確かめてからね。


 数分後、ちゃんと炬燵の中が温まってきたのがわかる。布団をまくって確認したけど、問題はなさそうだ。後は使ってみて、魔石がどのくらい持つかと魔道具が起動し続けるかかな。


 ノエルとシンシアに完成したことを話すと、早速とばかりにクッキーとお茶を片付け、靴を脱いだ後、小上がりに上がって、炬燵に入って来る。ノエルは炬燵を知っているだろうが、シンシアは炬燵というものが、どういうものか知らないので、ノエルに教えてもらいながらだが。


 僕の対面にノエルが、間にシンシアが炬燵の中に入り、温まる。最初は足元だけ暖かいことに疑問符を浮かべてたシンシアだが、時間が経つにつれその良さに気づいたようで、ノエルと一緒にぬくぬくとしながら、今度は炬燵でお茶会がスタートした。まぁいいけどね。






 その後おしゃべりしながら時々魔道具を確認し、動作について問題ないことを確認できたので、炬燵から出て後片付けをした後、ノエルと別れすぐ隣の家に帰る。結局あの後何もしなかったけど、そういうのんびりした日もあっていいだろう。


 家でシンシアの相手をしながら、夕食が出来るのを待っていると、父さんが帰ってきた。仕事の汚れを落とし、みんな席に着くと夕食が始まる。


 父さんは寡黙かもくなので、仕事のことに関して特に家で話すことはあまりない。何か事件があれば話すが連絡事項に近い。魔物が出たから何日はどこどこに近づくなとかね。


 よく話しているのがシンシアと母さんで、それを聞いているのが父さんも楽しいみたいだ。


「そういえば、買い物途中でノエルちゃんに会ったけど、何で布団を買ってたの?」


 母さんが僕にノエルのことについて聞いてきた。ノエルがシンシアと一緒に帰ってきたのは、母さんとシンシアが買い物途中でノエルに会ったからか。


「ほら、最近寒くなってきたから、魔法で部屋を暖めてたんだけど、魔道具作成とかに集中すると、部屋を暖めている魔法まで気が回らなくて」


 それから今日作った魔道具の仕組みと、それを使った炬燵のことを家族に話す。まぁ説明だけ聞いても、それがいいのかどうかは使ってみないとわからないって感じだよね。母さんも父さんも僕から説明された机に布団を被せて、その中に温まる魔道具を設置したイメージは出来てるだろうけど、それなら部屋を暖めた方がいいと思うのではないだろうか。


 僕の作った魔道具の説明を聞き終えても、それほど興味を示さなかった両親に対して、実際使ったシンシアから援護が入る。


「お兄ちゃんが作ったこたつ?はすごいんだよ!あのぬくぬくって感じがいいの!」


 まぁ確かにクッキーで小腹が満たされた2人は、最後辺りはだらけていたね。もう蜜柑みかんさえあれば、あれはもう正月の風景そのものだよ。


「今度ママも試して、絶対気に入るから!」

「そうなの、わかったわ」


 シンシアの熱弁ねつべん、をあらあらという表情で微笑んでいた母さんと、そんなシンシアのはしゃぎっぷりをのんびり見ている父さんが印象的いんしょうてきな夕食になった。


 次の日、いつも通り午前は剣の稽古、午後は魔法と終えてから、いつもの丸太小屋で僕は本を読みながら、ノエルは自分の家から持って来たお菓子を食べながら、炬燵でまったり過ごしていると、シンシアに連れられた母さんが来て、一緒に炬燵に入り、その良さをシンシアと一緒にその日の夕食で、父さんに話していたのは余談である。

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