第47話 招待

 今日はめずらしくノエルの家であるアウルム家へ来ている。いつも通り剣の稽古をノエルとして、家で汚れを綺麗にした後、まったりしながらお昼を待つのだが、今日はアリシア母さんがお昼の準備をしていなかった。


「母さん、食堂にでもいくの?」


 準備をしていないので、てっきり外で食べるのかと思ったが、どうやら違ったようだ。


「デリアにみんなでお昼を食べに来なさいって誘われてるのよ。そうよね?ノエルちゃん」


 どうやらデリアさんからノエルへ、そしてそれを母さんにと連絡したらしく、母さんに視線を向けられたノエルは頷いた。


「わかった。もう行くの?」

「そうね、そろそろ準備していきましょうか」


 僕やノエルの支度はパパっと終わるので、母さんとシンシアの準備が整うまで、ノエルと2人でリビングルームで待つ。


 準備が出来たようなので、4人で家を出ると、アウルム家へと向かう。


「そういえば、デリアさんから誘われたって言ったけど、何かあるの?」


 特に何もなくても昼食やお茶会などは、デリアさんと母さんではよくあることなので、疑問もなかったが、今日はノエルからの言伝なので、めずらしいなと思ったのだ。


「特に聞いてないわ」


 ノエルもよくわかってないらしく、そのまま僕は母さんに視線を向ける。母さんなら事前に聞いているかもしれない。


「母さんも思いつかないわねぇ」


 何かあったかしら?という感じで特に思いつくことはないみたいだ。美食家でもあるデリアさんだから、新しい食材が手に入ったとかもありそうだと思ったけど、それなら母さんと話しているだろうし、食事会みたいなことになるなら、当日ではなく事前に知らせるだろうしな。





 そんなことを考えながら、ノエルの家であるアウルム家へ着くと、メイドのカエラさんが出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。さ、どうぞ」


 綺麗なお辞儀をしながら、僕達を出迎えてくれて、そのまま食堂へ案内する。いい匂いが漂っているから、もう食事の準備は出来ているようだ。


 食堂へ着くと、既にデリアさんが着席していて、笑顔で出迎えてくれる。


「いらっしゃい。お腹空いたでしょ?もう準備が出来てるから座っちゃって」


 着ていたコートなどはメイドであるカエラさんと、食堂にいたタミルさんにみんなの分を預ける。


 それぞれ着席すると、出来立てであろうスープなどをみんなの前に配膳はいぜんする。オニオンスープかな?とても美味しそうだ。


 アウルム家へ仕えているイバンさんの料理は美味しいからね。ご馳走になるときはいつも楽しみだ。


 スープが配られ、全員でいただきますをした後、それぞれ談笑しながら、美味しい食事に舌鼓したづつみを打つ。今日のメインはステーキのようだ。メルクトス村で牧畜している牛でめずらしいものでもないが、魔素はある世界で育った牛だけに、魔物ではなくとも普通に焼いただけで美味しい。イバンさんはこれに赤ワインベースのソースと果実ベースのソースが添えられていた。どちらも厚く切られたステーキとよく合う。


 ステーキを堪能たんのうした後には、デザートに飾り切りされたイチゴの様な果物に、練乳に近いシロップをかけて食べた。僕はちょっとだけかけて食べていたが、ノエルの器のイチゴはもう浸っている状態だった。シンシア、真似まねをしてはいけません。





 食事を終えて、みんなでリビングルームへ移動した後、タミルさんやカエラさんの用意してくれた紅茶を飲んで、食休みしていると、デリアさんが話を切り出した。


「今日は急に呼んで悪かったわね」

「いいのよ~でもめずらしいわね?何かあったの?」


 そう事前連絡ぐらいはいつもあるから、今回のはめずらしいことだ。


「ん~あったといえばあったんだけど、普通はアリシア達には関係が無いというと語弊があるかもしれないけど、用事はアウルム家へあったのよ」

「昨日?」

「そう、イシスへ王都から連絡が来てね。王家の第3王女が今年でシンシアちゃんと同じ3歳になるから、その誕生を正式に祝うための晩餐会ばんさんかいが王都で行われるのよ。それでアウルム家も招待状が来たのよね」


 王家の誕生を祝うのが遅いのは、生まれてすぐ発表はしないためだ。なんとなく生まれたことは情報として入るが、赤ちゃんは病気か何かで死んでしまうリスクが高いため、王国として国民ならび諸外国しょがいこくへの不安材料はなるべく公表したくはない。


 3歳という安定期に入ったときに、こうした誕生を祝う晩餐会などを開くのが、昔からの習わしらしい。


「それはめでたい事ね。それで?」


 母さんがデリアさんに続きを促す。まぁここまでは普通の話だ。


「その晩餐会に私やイシスは参加するけど、ルイスはまだ小さいでしょ?だからノエルが参加するのだけど……」


 そう言いながらノエルの方をみんなで見ると、紅茶を飲みながらも明らかにめんどくさいという表情をしていた。なるほど、大体話が分かってきたぞ。


「ノエルがごらんの通りめんどくさがってね。まぁそれでもちゃんと参加はするでしょうけど、ずっと不機嫌でいられるのも困るわけ。そこで、よければアリシア達も一緒に王都へどうかと思ったの。久しぶりでしょ?」


 やっぱりそうなったか。ノエルにはとりあえず僕を付けておけばなんとかなるというのが、もうこの辺りでは常識になってそうだ。


「そうねぇ。フィルやシンシアはどうかしら?王都へ行ってみたい?」


 母さんが僕とシンシアに希望を聞いてくる。この機会に王都へ行くのもありだな。1人で行けるわけじゃないし、アウルム家と一緒なら安全も保障されている。


「僕はいいけど、シンシアは?」

「行ってみた~い!」


 僕とシンシアが同意すると、ノエルは誰でもわかるくらい機嫌がよくなる。それを見てデリアさんが苦笑しているのは、仕方のないことだろう。


「それで王都へはいつ行くのかしら?」

「……一週間後よ」

「それはまた急ね?」

「ええ、どこかの誰かが連絡を遅らせたんでしょ。新興の貴族になったとはいえ、イシスの人気は高いから。足を引っ張りたい古参こさんの貴族でしょうよ」


 なるほど、それで今日は急遽誘われたのか、イシスさんがここにいないのも、その準備や根回しがあるのだろう。護衛の手配や、馬車で行くなら旅支度の手配もあるだろうし、経路の宿の手配、着ていくもの、晩餐会へ持って行くお土産や、第3王女へ渡すプレゼントなどなど、準備はいくらでもある。


「それでめずらしく急に呼ばれたのね。納得だわ」

「ごめんなさいね。この埋め合わせはいつかするわ」

「いいのよ気にしなくて。むしろデリアが頼ってくれて嬉しいわ」

「……ありがとう」


 にこにこ微笑んでデリアさんに答える母さんと、ちょっと照れながらお礼をいうデリアさんというのも、めずらしいな。デリアさんは普段なんでも出来るイメージだけど、冒険者のころは全然イメージが違うというのを聞いたことがあるから、陰で努力しているのだろう。貴族というのも大変だ。


 僕が微笑ましくその様子を見ていたのを、感じ取ったのかどうかは定かではないが、デリアさんが最後に特大の爆弾を投下してきた。


「そうそう、護衛でエドウィンも晩餐会へ出席するけど、ノエルの護衛はフィルくん、お願いね」


 そう言って僕を見ながら、してやったり顔をしているデリアさんと、紅茶を口に含もうとして時間が停止した僕、そして晩餐会へ僕が着いて来ることを殊の外喜んでいるノエルという三者三葉さんしゃさんようの顔色が、リビングルームに蔓延まんえんしたのであった。

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