第48話 いざ王都へ

 王都行きが決まってから、準備で慌ただしく過ごしていると、あっという間に出発の日になった。


 今回王都へ同行するのは、招待された貴族であるアウルム家当主のイシスさん。付き添う形で奥さんであるデリアさんと、ノエル。王都へは行くが、晩餐会へは出席はせず、待機する宿で過ごすことになるルイスくんと、カエラさん。料理人であるイバンさんと、カエラさんの母親であるタミルさんは、このお屋敷でお留守番である。


 そしてアウルム家の王都へ行く護衛として、僕の父親でもあるエドウィン父さん、そして元冒険者で同じパーティを組んでいたオロフさんと自警団から数名。王都に実家があるものや、用事があるものを優先して護衛として一緒に行くらしい。


 最後にノエルの専属護衛として僕と、デリアさんの客人待遇でアリシア母さんと妹のシンシア。以上が今回の王都行きのメンバーである。


 出発はアウルム家の玄関前から馬車3台で出発するため、男達や護衛の人は出発の準備、イシスさんはその指揮で女性陣はリビングルームでタミルさんの淹れてくれた紅茶でのんびりしている。


 母さんやシンシアの荷物はもうアウルム家へ来るときに準備し終わったので、後はアウルム家の荷物などを収納し、出発だ。


 僕はもちろん手伝っているよ。ここで女性陣と一緒にお茶を飲んでいられるほど、肝は据わってはいないつもりだ。


「フィルくん、女性陣を呼んできてください。準備が出来ましたよって」


 あらかた準備が整った辺りで、イシスさんが僕に話しかける。


「わかりました」


 僕は軽く埃を払うと、屋敷でお茶を飲んでいる女性陣に、準備ができたことを知らせる。初めての遠出なので、シンシアは結構はしゃいでる感じだな。母さんを連れ出そうと服を引っ張っているのが見える。


 留守番であるタミルさんとイバンさんに見送られながら、一路王都へと出発する。馬車は3台で家族ごとに乗るのかと思ったら、ちょっと違うみたいだ。


 前列にはイシスさん、父さん、オロフさんとカエラさんに女性の護衛1名。中列には僕、母さん、シンシア、ノエル、デリアさんにイシスくん。後列には護衛の休憩するスペースと荷物だ。僕は父さんのところに乗ろうと思ったんだけど、ノエルやシンシアに押し切られた。イシスさんは苦笑してたけど、ダメとは言わなかったな。


 前列と中列の馬車は貴族を乗せるために改造されているのか、それともデリアさん様なのかわからないが、他の馬車より大きく他より中が広い。まぁそれでもイシスくんが小さいとはいえ、6人もいれば若干狭く感じるのだが。


 御者ぎょしゃも護衛の人なので、僕達家族とアウルム家、オロフさんを除くと護衛は6名になる。人数が多いのは王都に用事のあるものや、実家が王都の護衛の人も一緒にいるからだそうだ。御者は父さんやオロフさん、イシスさんやデリアさん、母さんまで出来るらしいからね。さすが元冒険者って感じだよ。


 そういえば母さんのパーティが全員揃うのを見るのは久しぶりな気がする。ノエルの誕生日を祝う時とか、ルイスくんのお祝いとか位だと思うんだけどな。


 馬車が動き出し、村から離れていく様子を窓から眺めながら、シンシアは途中ですれ違う村の人達が、見送ってくれる人に手を振っていた。






 最初はシンシアやルイスくんも初めての馬車、初めての遠出ということで興奮して、はしゃいでいたが、1時間も過ぎたころになると気疲れしたのか、ルイスくんはデリアさんにもたれながら眠り、シンシアはボーっと窓の外の景色を眺めていた。


 母さんとデリアさんは会話を楽しんでいたが、僕はいつも通り本を読み、時間をつぶしていた。ノエルも本を読むのだが、集中力がいつも通り続かないので、いつもは運動をするのだが、馬車に乗っているためできない。


 ノエルの行動パターンは本を読む、飽きる、僕にちょっかいをかける、満足して本を読む、飽きる。たまに御者をしている護衛にやり方を習ったり、シンシアと会話もするが、基本僕にちょっかいをかけることで、暇を解消しているようだ。


 シンシアはノエルほど僕に話しかけてこないが、僕の隣に座っているので、僕の読んでいる本を覗き込んだり、質問してきたりして解消している。


 つまり僕は本にあまり集中できていないってことなのだが、まぁ馬車の中じゃこんなもんだろうな。





 お昼ごろになり、お腹が空いてきたころ、共有で使うような広場に馬車を止め、お昼ご飯の準備をする。共有で綺麗に使っているのか、焚火のあとや、鍋を温めるための石組みなどがそのまま残っているので、それを使い周りから使えそうな焚き木を集めた後、簡単なスープを作る。


 料理が上手な母さんと、アウルム家からカエラさんが料理を作ってくれる。焚火では櫛に肉を刺し塩コショウして焼いているため、いい匂いがする。


 ずっと馬車に揺られてただけだけど、お腹は空いていたみたいだ。肉の焼けた匂いにつられてお腹が鳴った。何で焼いた肉はこんなにいい匂いがするんだろうね。


 昼食の支度が出来たので、みんなに配り主食はパンを食べながら、串焼きとスープというメニューになった。品数は少ないが、外で食べる食事はピクニックみたいで、美味しく感じる。隣で食べているシンシアも、普段しない外での食事で楽しそうだ。


 串焼きを半分ぐらい食べたところで、カエラさんが再度新しく焼いた串焼きを持って来た。それをノエルに渡すと、早速とばかりに串焼きを頬張る。もうおかわりなのね、相変わらずだなノエルは。パンも一緒に食べなさい。パンは串焼きが無い間の箸休めじゃありません。





 昼食が終わり、再度馬車に揺られながら一路王都を目指す。母さんに今日の予定を聞くと、今日は隣の領で付き合いもある、ユノレル領のケプトリアで泊まる手配しているそうなので、そこで1泊するそうだ。


 この手配とかも事前に連絡等をイシスさんがしたんだろうけど、王都で行われる王家主催の晩餐会の連絡が遅れて知らされたため、結構慌ただしくなったみたいだが、ユノレル領の領主は穏やかな人と前にも聞いたことがあったし、今回も急な宿の手配も快く対応してくれたそうだ。


 これがその隣向こうのハーデサルの領主だと、見返りを求めてくるそうだから、困ったものだ。王都への道順では、ハーデサル領は通らないらしいので、本当によかった。


 この後はこの辺りをまとめているアーテッシュ伯爵領でもう2泊し、次の日に王都へ到着。1泊した後は、その日の夜には晩餐会が行われる。本当にギリギリだね。


 アーテッシュ伯爵にも連絡はしているが、返答を待っている時間はなかったため、最悪、宿の手配からになるが、その辺りも使いに出した人に任せてあるそうだ。


 なので、道中で使いの人に会って事情を聞くか、アーテッシュ伯爵領についてからになるそうだが、みんなそんなには慌ててはいない。アウルム家や僕達の両親も、元々冒険者なのだから、野宿も慣れているし、強行軍的な移動もお手の物だという。冒険者をしていた時の方が、もっと大変な移動があったとも言ってたし。


 あと1~2時間で日没になるという頃、ユノレル領へ到着した。ユノレル領主が手配してくれた宿へ泊るそうだ。


 ユノレル領主であるグレアート・ユノレルさんと、奥さんであるマドランダ・ユノレルさんは余裕を見て、王都へもう着いているそうだからね。


 宿へ到着すると、事前にグレアートさんから事情は聞いていたらしく、快く迎えてくれた。結構大人数だから事前に連絡しないと、別々の宿になったりするからね。ユノレル領主には本当に感謝である。


 家族なら家族で、護衛は男性と女性で部屋割りに別れ、宿で出してくれた食事を食べた後、体を綺麗にし、明日に備えて早めの休息を取ることにした。

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