第33話 冒険者
不定期にある実際その職についたことのある大人から、その職業について聞く講義が今日行われ、それに冒険者兼村の自警団所属でもあるオロフさんが講義を行っている。
オロフさんは冒険者のときノエルの両親であるデリアさんとイシスさん、僕の両親でアリシア母さんとエドウィン父さんとパーティを組んでいた人でもある。
自警団の仕事と冒険者の仕事について講義を行った後、今は質問を受けそれに答えている。
「オロフさんは今は冒険者の仕事はしていないの?」
「そうだな、自警団の仕事をしているからというのもあるが、この村にはギルドが無いからな」
冒険者ギルドはある程度大きな町になるとあるそうで、ここから1番近いところでも馬車で1日はかかる。
「冒険者のときはどういう仕事をしていたの?」
「色々あるが最初の頃は基本的にソロで依頼をこなしていたな。採取とかが主な仕事だ。ランクが上がると討伐依頼とかが増えてくるが、ランクが高くなるにつれてソロだと厳しい魔物の依頼とかが出てくる。その分報酬はいいのだけどな。その場合は目的が一緒の人達で臨時でパーティを組んで討伐をしたりもしたな」
討伐依頼を臨時の即席でパーティを組むのは、結構大変だな。その人が信頼できる人じゃないとちょっと怖いぞ。
「臨時のパーティって組むの大変そうだなぁ」
「自分で探してもいいが、ギルドが紹介してくれるのが基本だぞ。ギルドがランク管理しているから、達成数や依頼内容も把握しているし、ランクは思ったよりも上がるのが難しいんだ。Fランクは誰でも登録したらなれるし、Eランクはある程度依頼をこなせば上がるランクなんだが、Dランクから難しくなる」
シスターが淹れてくれたお茶を受け取り、飲んでから続きを話す。
「Dランクに上がるには達成数だけじゃダメな感じなことが多い。冒険者仲間ではよくある話なんだが、Dランクに上がった人達の依頼達成数がバラバラなことがよくあるんだ」
なるほど、それで依頼達成数だけじゃないというのがわかるのか。
「まずそこで線引きされて、Dランクに上がった人達からパーティの紹介が依頼内容によってはあったりする。そしてCランクに上がる冒険者はさらに少なくなる。一定の実力が無ければCランクにさえ上がれなくなると思えばいい。冒険者でよく言われるのがCランクに上がれて初めて一流の冒険者と言われるぐらいだ」
冒険者の話は面白いのか、聞いている子供の真剣さがすごいな。質問が絶えないのもそうだが、聞いている子供達の表情が違うからな。
「オロフさんはランクいくつなんですか?」
あ、それ聞いちゃうんだ。なんとなくスルーしてたんだけどなぁ……オロフさんのランクって父さん達のランク聞くと結構高い気がするんだよね。
「俺か?俺はBだ」
「「おぉ~!!」」
やっぱりね。魔法の訓練しだした赤ちゃんの頃とかはあまり意識しなかったけど、3~4歳頃になって魔法も成長し村に行くようになると、両親の実力がだいたいわかってくるようになった。普通の人は僕に教えてくれるように、魔法はそんなに使えないのだ。
そして魔力が強くなってくると、相手の魔素量もなんとなくだけど把握できるようになってくる。剣の達人が相手の実力がなんとなくわかるのと同じなのかな?僕はそっちに弱いからよくわからないけど。
隠匿でもしていない限り、母さんと村に住んでいる人の魔素量が、文字通り桁が違った。まだ母さんにも及ばない僕が見た感じでもそうなのだ、把握できていない部分がまだあるにしても桁が違うのだから、その両親とパーティを組んでいたオロフさんが弱いわけがない。
ちなみに聞いたところによると、僕の両親はギルドランクがB、ノエルの父親であるイシスさんは領地をもらうことになった功績でA、母親であるデリアさんはそもそもAだそうだ。
うん、デリアさんには逆らっちゃダメってことがよくわかるね。
「話がそれたが、ランクが高くなれば実力と他に人間性が重要になってくる。どんなに依頼を達成してもランクが上がらないのは、そこだと思っている。貴族からの依頼とかもあるし、そもそも信頼性がないとギルドも冒険者に高額依頼を出したくない。依頼が達成できない、もしくは達成したとしても依頼主からの評判が悪ければ、ギルド評価が下がるからな」
確かに冒険者ギルドは国が運営しているわけではない。運営をしている側からすれば、信頼できる冒険者に依頼を出したいというのもわかる。
「だから自分がパーティを組むときはギルドにお願いするのが1番確実な方法だ。まぁそれでも用心に越したことはないからな。どこにでも悪い奴というのはいるものだ」
そう言って笑うが、オロフさん笑顔が怖いですよ。女の子は若干引いていることに気付いてほしい。
「他に何か聞きたいことはあるか?」
オロフさんが周りに質問を促すと、もうすぐこの教会を終える11歳に近い男の子が手を上げて質問をする。
「冒険者になる上で必要なことって何ですか?」
「そうだな、まず予め言っておくと冒険者をやった俺が思うことは、他になれる職があるなら、冒険者にならないことだ。それだけ危険が多い。冒険者はFランクは誰でもなれる。つまりいいやつもいれば悪いやつもいるということだ」
質問した男の子以外も真剣に聞いている。ギルドの無いこの村ではそれだけ未知の職業ということだろう。
「依頼達成のために騙してくるやつもいるし、採取物を横取りしようとして脅してくるやつもいる。だからランクが低いやつはソロ、もしくはそういうやつの集まりが多い。ギルド側からすれば低いランクはふるいにかける前の人達のランク帯だ。そこから抜け出すやつのランクを上げていく。だから冒険者は実力も大事だが、情報収集も大事だ。平和に暮らして何でも信用するやつは真っ先にカモにされる。慎重に行動すること、むしろ臆病なくらいがちょうどいい。臆病な態度はいただけないが、何でも疑ってかかることは悪いことじゃない」
冷めたお茶を含み、一息つく。
「俺がランクの低い頃の話だが、採取依頼で森に行こうとしたら、ある男に話しかけられた。違う採取依頼だが同じ場所で取れるからこの依頼も受けないかと。採取に適した群生地を知っているが、今日は違う用事で行けなくなってしまい、しかし依頼期限が今日までで困っていると。依頼達成時の金は一切いらないから、依頼の引継ぎだけして欲しいという話だった。ギルドで依頼の引継ぎをして、採取に向かったがもちろん教えてもらったところに群生地なんかは無く、結局自分の依頼品だけ持ち帰った。後で分かったが、そいつは次の依頼が不達成になるとランクが下がる状態で、依頼のキャンセルもできなくなったとこに、ギルドのシステムである依頼を引き継がせることで、キャンセルを回避したんだな。結局正式に引継ぎが受理されていたから、俺が不達成ってことになりキャンセル料も払うことになった。何日か稼いだ金が全部なくなったさ」
苦笑いしながら話すオロフさんだが、まだランクが低く、依頼料も少ない時期にそれはかなりキツイことだったんじゃないかと思う。聞いていた子供達も驚いたり、悲しんだり、憤慨したりと様々な反応だ。
「困っている人を助けることは、もちろんいいことだ。本当に困ってるときに助けられたら、嬉しいだろう?だが、世の中にはそれに漬け込む悪い奴も少なからずいるってことだ。どの職にもそうだが、気軽に親切心を出すんじゃなくて、それがその人の本当にためになるのか、頼られたとき自分に騙される覚悟はあるのか、そして騙されていないか確認できる余裕はあるか、そういう心の持ちようは大事ってことだ」
そう締めくくるオロフさんは講師としてとてもいい話をしているはずなのだが、俺の方を見ながら、苦笑いをしている。今度は困ったような笑いだ。もちろん僕はちゃんと聞いていたよ?原因は僕の隣なのは言うまでもない。
折角オロフさんが、いい話をしているんだから、僕の肩に寄りかかりながら寝るのはやめようね?ノエル。
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