第19話 収穫祭
村の大部分の占めていた黄金色の小麦畑が収穫を終え、冬の訪れを感じさせる今日。ついに収穫祭の日がやってきた。
妹のシンシアは随分と楽しみにしていたみたいで、数日前からずっとソワソワしていた。昨日もなかなか眠れなかったようで、朝の朝食が出来て起こしにいくまで、1人では起きてこなかった。
まぁでもこれはシンシアだけではない。村の子供達も大人でさえも年に1度の収穫祭、この期間は農作業を終えた大半の村人は仕事を休み、食べて飲んで騒ぐ祝の日なのだ。今年も豊作だったようで、盛り上がりが欠けることなく、準備している間もそこかしこで笑い声が聞こえ、楽しい雰囲気は収穫祭が始まる前から続いていた。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい、エド。気を付けてね」
朝食後、父さんは警備のため、収穫祭の今日も仕事だ。収穫祭が終われば逆にのんびり出来るだろう。
僕達も出掛ける準備をしたあと、ノエルの家へ寄って、4人で収穫祭を回ることになっている。
「お兄ちゃん準備できた?」
「いつでも行けるよ」
「ママは?」
「ちょっと待ってね~」
「早くね!」
シンシアはもう待ちきれないのか、僕とアリシア母さんを急かすように聞いてくる。女性は身支度に時間がかかるのだ。シンシアも今日は人一倍オシャレに気合が入っている。お気に入りの大きな花の髪飾りをつけているためか、テンションが朝から高い。母さんも今日はいつも以上に念入りに僕と同じ銀髪を梳かしながら、鏡を見て化粧をしているようだ。
準備を終え家を出て、ノエルがいるアウルム家へと向かう。道中もテンションが高いシンシアに引っ張られながら、あれが欲しい、これが欲しいと希望を話していた。
アウルム家の館に着くと、カエラさんが出迎え、すぐにノエルも出てきた。恰好はいつも通りだ。さすがノエル、全くぶれない。
遅れて後ろからデリアさんと抱かれたルイスくんが来て、挨拶をする。
「アリシア、ノエルのことよろしくお願いするわ」
「まかせて、お土産何か買ってくるね」
「いい茶葉なんかあったらお願い」
「ノエルお姉ちゃん、その恰好で行くの?」
「うん」
「え~私みたいにオシャレしようよ!」
「興味ない」
「せめて髪型くらい変えたら?お兄ちゃんも喜ぶよ!」
「そうなの?」
なぜこちらに話題を振る。
「人が多いから、動きやすいのでいいんじゃないか」
とりあえず無難に答える。僕にオシャレに関しての正解など出せるわけがない。
「ほら、お兄ちゃんもこう言ってるよ、髪だけでもアップにしようよ」
「わかった」
いや、僕は何も言ってないよ?そう思うも、ノエルはカエラさんを伴って奥に行き、髪型をまとめて来た。ハーフアップの感じに近い。
「どう?」
僕の目を見ながら聞いてくる。僕が提案したわけでもないんだけどな……
「似合ってるよ」
「じゃこれで行く」
僕の答えに満足したのか、頷きながら妹との会話に戻る。そうしてるうちに母親同士の会話も終わったので、デリアさん達に見送られながら、4人で収穫祭が行われている村の広場へと向かった。
村の広場が見えてくると、賑やかな音楽と笑い声などがよく聞こえてきた。いつもの広場にはたくさんの人々が、市には商人が遠方から運んできたであろう、いつもはみない商品などがたくさん並び、食堂では収まりきらないのか、臨時の机や椅子などが店先や、露店近くにも置いており、食事をしてる人が見える。
広場の中心では楽団が演奏し、その横でパフォーマンスを行っている人が見え、終わるとみていた人達からおひねりをもらっているなど、本当にお祭りのようだ。
村の収穫祭にしては規模が大きい気もするが、これはこの国が比較的平和であることと、イシス男爵の知名度もあるだろう。冒険者から貴族になったので、そのサクセスストーリーが民衆に受けているものと思われる。
アリシア母さんに聞くと、あの楽器を演奏している一団も冒険者のときの知り合いみたいだ。護衛任務で何度か顔を会わせたことがあるのだとか。
まだ昼前なので食事ではなく、遠方から来た商品を見たいとのこともあり、4人で食べ物を売っている露店ではない店を見てまわる。
「これなんかノエルお姉ちゃんに似合うんじゃない?」
「2500セント…串焼きが25本食べられるわ」
シンシアがノエルの金髪に合いそうな、ブルーの花をあしらった髪飾りを髪に当てながら勧めるが、金額を見ると串焼きの本数に換算するとこがノエルらしい。
シンシアがチラッと僕の方を見るが、何もできないので目を逸らす。だけどシンシアの視線が僕から離れない。ため息をつきそうになるが、何か言わないとダメらしい。
「色がいいから、ノエルでもシンシアでも合うんじゃないか?」
「そうねぇ、シンシアも髪の色は母さんと違って、亜麻色だからノエルちゃんに近いし似合うものが一緒かもね」
一緒に見ていた母さんも援護をしてくれる。母さんは普通に思っていることを言ってそうだが。母さんに言われたシンシアも、そうかなぁとかつぶやきながら、満更でもない様子で店にある小さな鏡を見ながら、髪飾りを自分の髪に当ててみている。
かれこれ2時間ほど店を見て回っているが、さすがに疲れてきた。自分の見てみたいものを回りたいが、まだ4歳である自分とノエル、2歳のシンシアがいるので、この人が多い中、自分の村とはいえ、単独行動はあまりお勧めできないので、4人一緒に回っているのだ。
それにお腹が空いてきたのであろう、ノエルの言動が全部食事関連にシフトされるのが多いのもそのせいだろう。シンシアはまだ元気だが、たぶん楽しくて疲れを忘れている感じがする。
「そろそろどこか座って食事にしましょう」
母さんもそれに気づいたのだろう、休憩を取るために食堂近くにもあった休憩と露店の食べ物を食べるための、机と椅子がある場所まで行き、ちょうど開いていた2×2で座れる、4人用の椅子に腰かける。
「何か食べたいものがあるかしら?買ってくるわよ」
「私も行く!」
母さんが食べ物を買ってくる提案をすると、シンシアが付いていこうとする。
「シンシアは僕と一緒に待ってよう。母さんにまかせるよ、ノエルも母さんを手伝ってあげて」
「わかった」
僕はシンシアを椅子に座らせ、母さんとノエルに買い物を頼む。シンシアは元気そうだが、まだ2歳だ。ちゃんと休憩を取らせないといけないし、ペースがまだわからないはずだ。
母さんも僕の考えていることがわかっているので、そのままノエルと一緒に露店へ。シンシアは露店に行く2人を見送った後、僕の隣に座る。自分の意見が通らなかったからか、ちょっと不機嫌で頬が膨れている。
「ちゃんと休憩しないと午後までもたないぞ?」
「うん」
自分のためと納得しながらも、感情が追い付いていない顔をしているかな。2歳にしては本当によく気配りができる妹だと思う。
「色々回ったけど、買いたいものは買えたんじゃないか?」
「そうだね、あまり買いすぎるのもよくないよね」
本当によくできた妹だ。とりあえず不機嫌を直してもらうため、午前で買ったものの感想や、午後の予定などを話す。そのうち食べ物を買ってきた2人も帰ってきて、みんなで昼食を取る。
いいものが買えたのか、ノエルは今日1番の笑顔で串焼きを頬張っている。1本300セントもする祭り価格の串焼きだが、通常よりも大きいお肉がついて噛み応えがいいらしい。
いつもとは違う祭りならではの賑やかな雰囲気の中、昼食を堪能しながら、午後の収穫祭へと突入していく。
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