第11話 討伐隊
「今回はゴブリンの巣討伐に新人教育を兼ねてだったわよね、どうだったの?」
デリアさんがイシスさんに今回の討伐隊について質問する。
「概ね問題はなかったよ。個人の戦い方についてはエドウィンにまかせてあるけど、全体統制はちゃんと取れてたかな。僕から見て問題はなかったけどエドウィンはどうだった?」
「まだ甘いところはあるが、問題ない」
「そう、ならよかったわ。他の領主のところは?」
「北に隣接するケプトリア村のユノレル領主はいい人だったね。穏やかな感じの人だったよ。その北にいるセンテテル村のハーデサル領主はちょっと微妙かも」
「センテテル村っていうとここから100kmちょっと離れた場所の村だったわね。隣接していないだけでもありがたいわ。どういう人だったの?」
「典型的な貴族って感じで、お金にがめつい感じかな。今回の討伐隊に関しての費用は三等分で決まっていたのに、あとから食費をケチったり、隊の装備もあまりいいものじゃなかったな」
「あまりお付き合いしたくない人ね」
イシスさんの話をデリアさんの言葉に皆頷く。聞いていてみんな苦笑いだ。装備をケチるって命にかかわるものだろうに、今回の討伐が新人教育のこともあり、簡単な部類だとしても、そういうことを平気でやるのが領主だと、何かあったとき対応できなくなりそうだ。
「そうだね。ここだけの話、今回の討伐隊を組む理由になった、ゴブリン被害も最初はセンテテル村のハーデサル領でだったんだ。村に被害があったとき自領で対応しなくて放置していたらしい。だから村長が冒険者に依頼を出していたみたいだけど、ゴブリンだけだとお金にはあまりならないから、散発的な討伐だけで巣は放置だったみたいだね。そのまま巣が拡大して領主が動いたころにはもう対応できなくて、巣がある森に隣接してるうちとユノレル領に話が来たってわけ」
完全にその領主の不手際じゃないか。
「それで何で費用が三等分なのよ、むしろハーデサル領が多めに負担しなきゃいけないじゃない」
母さんが不愉快ですって顔を隠すこともなく意見する。確かにその通りだ。
「それがハーデサル領主が先にここら一帯を統括しているアーテッシュ伯爵に既に根回ししていたんだ。自分のところの被害はぼかして、西の森に大きなゴブリンの巣が発見されたが規模が大きいため、対応を相談したいって」
うわぁ……すごい厚顔な人だな。そういうとこが貴族らしいって意味なのかも。
「それでアーテッシュ伯爵はそれを了承したの?」
「するしかないんじゃないかな。結局もう被害は出てるわけだし、対応するしかないわけで、冒険者で名が売れた僕に白羽の矢が立って、地理的に僕のとこだけで対応するのもおかしいから、間にユノレル領主が立ってって感じだね」
「あきれて何も言えないわね」
全くその通りだ。
「アーテッシュ伯爵も今回のことはどういう経緯か調べて、ハーデサル領がやらかしたのは知ってるから、部隊教育の一環としてハーデサル領主からもお金と兵を出させて、三等分だけど恩だけは売っておけって感じかな。うちは新興貴族だからね」
なるほど、うちで何かあったときの対応に、前はこういうことがあったのだから今回は協力してくれますよね、と理由を作るのか。
「どうせアーテッシュ伯爵だって今回の口利きで、ハーデサル領主からお金貰ってるんでしょ。全体でみれば割に合わないわよ」
「そこは仕方ないよ」
デリアさんの言い分にイシスさんは理解を示すものの苦笑するしかない。結局対応しなかった方がハーデサル領主は損してる気もするが、そういうことでもないのだろう。貴族とはお金のかかるものだというし、やっぱりあまりいいイメージはないな。
「まぁ今回は隣のユノレル領主と親交を交わせただけでもよしとするよ。人柄もよかったし、今回割を食ったのもうちとユノレル領主だからね」
「確かにそうね。隣がいい人だと安心するわ」
それは確かに。ユノレル領ケプトリア村はここから50kmくらいらしいので、馬車だと1日で着ける距離にある。領地でみると北にあるお隣さんだし、仲良くするに越したことはない。
「討伐隊の指揮はユノレル領主の賛成もあって、エドウィンが指揮することになったから、ゴブリンの巣討伐自体は問題なく終えることができたよ」
「え、指揮でもハーデサル領主が何か言ってきたの?」
「王都の学校出身だとか言って自分が指揮した方がいいとか、もっともらしいことを言ってたけど、どういう指揮かいいか意見を聞いてみたら、討伐日程を早めて食費なんかを浮かそうとしたみたいだね」
「あきれた」
話を聞いたデリアさんと母さんは開いた口が塞がらないというような状況だ。話を聞いているだけでも精神的に疲れる人だったみたいだな。
「結局指揮全権はこちらで握り、予定通りの工程を終えて帰還できたから、ホッとしたよ。とりあえず詳細は明日にでもまとめて、終わったら休暇にでもしよう」
「そうね、2~3日ゆっくりするといいわ」
そう締めくくり場が和み、食事をしながら談笑する。最初は簡単な討伐とか聞いたけど、思ったよりも大変な工程だったみたいだ。魔法覚えることが今は優先だけど、将来どんな職に着くのかも考えないといけないね。出来れば前世のように忙しい日々ではなく、のんびりした生活を送りたいものだ。
そんなことを考えながら、離乳食を食べ終え母さんの食事の邪魔にならないようおとなしくしていたら、話が子供の話題になる。
「いない間の1週間はどうだったの?子供達は仲良くできたのかな」
イシスさんが自分の娘を見ながら、デリアさんに聞いてくる。ノエルはカエラさんからおかわりを受け取っていた。
……ノエルさん、またおかわりしてるんですか?
「ノエルとフィルくんは仲良しよ。初日から仲良くしていたわ」
「ええ、ノエルちゃんがフィルを見てくれるから、助かりました」
母さんがノエルを褒めると、さっきまで食事に夢中だったのに今はやめてドヤ顔をしている。赤ちゃんだからドヤ顔も微笑ましいが、そんな顔をするほど助けられたのか甚だ疑問だ。
「それはよかった。環境が変わると泣いて寝れないとか、体調が悪くなったりとか心配だったけど、特になかったのかい?」
「ノエルもそうだけど、フィルくんも私達の言っていることは理解できているわ。ちゃんと言葉にしてくれるから、そういうことはなかったわ」
それを聞くとイシスさんも驚いて僕を見る。
「ノエルも成長が早いと思ったけど、フィルくんもか。ノエルは狐人族だからと思ったけど、フィルくんは人族だよね?」
「ええ、言葉は理解できているけど、まだノエルちゃんみたいに1人で歩けたり、座ったりというのはできないですよ」
母さんが僕の頭を撫でながら、イシスさんに答える。やっぱり種族で成長が違うのかな。外に出れるようになるとまた違った種族が見れるかもしれない、今後が楽しみだ。
「言葉が理解できるだけでもすごいよ。2人とも成長が楽しみだね」
「ええ、ここ1週間は魔法を使えるように、魔素操作の訓練もしていたのよ」
デリアさんはそう言いながら、イシスさんにいない間何があったのか1週間の出来事などを母さんと一緒に話した。最初は驚いたもののノエルの成長が嬉しいのか終始にこにこ聞いている。父さんは相変わらずだが、視線をよこすあたり、聞いているみたいだ。
「1週間で魔素操作はできないのは当たり前だけど、もう感じることができるのかい?本当にノエルもそうだが、フィルくんも優秀だな」
「ええ、ノエルもフィルくんのことが気に入ってるし、将来ノエルをお嫁さんにしてくれないかしら」
デリアさんが笑いながらだいぶ先の未来の話をする。母さんもノエルちゃんは可愛いからよかったわね~なんて言っているが、まだ5ヶ月の赤ちゃんになにを言っているのだろうか。
「ノエルはそう簡単に嫁にはやらんぞ」
最後の最後でイシスさんの親バカが発揮されて、夕食は終始和やかに終わったのであった。
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