第12話 1歳

 アウルム家に1週間ほどお世話になったときから、約7ヶ月が過ぎた。僕がこの世界に生まれてから約1年が経った。


 その間もアウルム家との交流はあり、2週間に1~2回はノエルと顔を合わせる日が続いた。ノエルが僕に会いたいとデリアさんに言っていたのもあるだろうが、デリアさんとアリシア母さんはとても仲がいいから、定期的にお茶会を開くのでその時に僕もノエルと遊ぶ感じになっている。


 僕も生まれてから10ヶ月も経てば1人で歩けるようになったので、ノエルと一緒にアウルム家を探検したりもした。貴族の家らしく蔵書も多かったので、見たかったのだが、ノエルが嫌いらしく動く遊びに引っ張られる。なので、母さんに頼んでデリアさんに読みたい本を帰るとき借りたりしながら見るしかなかった。


 その蔵書の中で興味があったのは、やはり魔法の本と魔道具の本だ。魔法の本には定番の生活に役立つ魔法や、攻撃魔法、防御魔法など簡単なものが記載されていた。魔法は個人のイメージに左右されるので、秘匿魔法も多いそうなのだが、現象が起こったときの見た目から判断されることが多い。


 面白かったのは同じ現象なのに魔法の名前が違ったりしたのだ。ファイヤーボールとフレイムボール、フレイムの方が威力が強そうな名前だが、個人のイメージと魔力に依存するので、同じ現象になったりするのだそうだ。


 魔法も無詠唱でもできるそうだが、言葉に出すことでイメージの明確化と言葉に魔力を乗せることで、イメージの簡略化にも役立つらしい。冒険者の場合は連携のために声に出すことが多いそうだ。


 次に魔道具の本なのだが、これが難しい内容だった。魔道具のそもそもの発端はダンジョンや遺跡なので稀に発見されるレリックを再現しようとしたのが始まりらしい。


 その中でも異質なのがファンタジーではお馴染みの魔法の袋だ。実際の容量よりも多く物が入る魔法の袋だが、ダンジョン産の物に関してはいまだにどういう原理なのかわからず完全再現されてはいないらしい。


 比較的簡単といわれているのが、家でも使っている灯の魔道具だ。これは魔石と呼ばれる魔物が心臓の他に持っている魔素を自身のエネルギーへ変換する役割があると考えられている石で、これを使い魔道具単体で魔法を発動させるように作ったのが魔道具である。


 魔石からエネルギーを魔導回路と呼ばれる回路をつなぎ、発現する。魔導回路は魔鉱石と呼ばれる魔素を含んだ鉱石を精錬し、不純物を取り出した魔素金属を魔力でどのような現象を発動させるかイメージしながら金属中の魔素に働きかけ、魔導回路を作成し、それを守るための外側、つまりランプなどだとカバーを付けてやれば完成となる。


 イメージ的には錬金術に近いのかもしれない。魔法の袋の完全再現はたぶん袋の拡張イメージだけだと成功しないのだろう。


 2次元は1次元つまり線をある方向へ並べたものであり、3次元は2次元つまり面のある方向への集合体であるから、4次元は3次元つまり立方の集合体であると考えた場合、4次元は時間軸へ方向として取れば3次元対象の物が収納されても、収納した時間が次収納する時間と違うため、結局同じ時間に収納さえしなければいくらでも入るのではないかと思う。


 このイメージを明確にし、魔力で魔導回路を繋ぐとどうなるかなど実験してみたい気もするが、かなりの魔力が求められそうだし、実際成功するかも定かではない。空間干渉を魔素エネルギーで補う感じなのだから本当に作れるのかが微妙なところだが、実際にレリックとして魔法の袋はこの世界に存在しているのだから、1度でいいから実際に現物を見てみたい。


 そんな夢広がる魔法世界なので、魔法の訓練には力を入れている。毎日欠かさず魔素を感じる訓練を母さんに頼んでやってもらい、感覚をつかめるようイメージを欠かさない。


 ノエルとも相談しながらやるのだが、ちょっとやると集中力が切れるのか、すぐ違うことをしたがる。本人はすぐに出来るようになるから大丈夫と言って、布で作ったボールでキャッチボールをしたり、僕が歩けるようになるとあちこちに連れまわすことが楽しいらしい。


 そんな日々を過ごし、歩けるようになって1ヶ月、アウルム家へお泊りしたときから6ヶ月経ったころついに1人で魔素操作が出来るようになった。


 大喜びで母さんに報告し、目の前で母さんが僕にしてくれたように魔素渡しをやってみせ、出来ていると太鼓判をもらったので、ノエルへ意気揚々と報告したら、1週間前にノエルも出来るようになったと言われ、結構本気で落ち込んだ。


 母さんはそんな僕の心情をわかっているのか、その日はずっと僕を抱っこしていた気がする。


 魔素操作が出来るようになったので、すぐに魔法かと思ったが、まだ魔力渡しが出来るだけで、体外魔素と空気中の魔素を操作できるようにならないと、身体強化魔法しかできないので、赤ちゃんの体でも身体強化魔法は禁止されているため、まだ魔素操作の訓練が続きそうだ。


 魔素操作の訓練をすることで魔力が強くなるので、魔法が出来るようになっても欠かさないようにしないといけない。魔法を使うことでも強化できるが、瞑想みたいに体内、表層、魔力領域を魔力操作を行い魔力量と質を高めるのだ。






 そして今日は今年で約1歳となる赤ちゃんを集めて教会での催しが行われる。午前10時頃に村にある教会へ赤ちゃんとその親が集まり、シスターの言葉を聞きながら女神様に無事生まれてくれたことへの感謝を祈るのだ。


 この教会はトラフィルリア王国の国教でもある創造神である女神エーナを信仰している。ノエルから聞いたこの世界の名前と同じだね。


 教理つまり宗教の信仰内容についての教えは、悪いことはしてはいけないなど、人が生きていく上で最低限守らなくてはいけないものが多い。教義は教理に関して教会会議で定められたという意味での公的・法的な意味合いが強い内容だが、比較的緩く、誰にでも自由な信仰が認められている。信者の寄付金や国の補助金などの使い道は孤児院経営が主で、他に冠婚葬祭などの業務を執り行うことをしているそうだ。


 そんな教会に去年生まれた赤ちゃんが僕達を含め4人集まっている。うち2人はいつもと知らない場所に来ているためか、ずっと泣いているのだが、まぁあれが普通の赤ちゃんだよね。


 母親があやしているのだが、なかなか泣き止まず困っているところへデリアさんが泣いている赤ちゃんを抱いている母親のところに行き、少し話したあと魔法を使った。


 赤、黄、青、緑、白の光の玉を出し、赤ちゃんの前でクルクル回したのだ。それを見た赤ちゃんはそれに夢中になったのか、泣き止みそれを掴もうと手を伸ばしている。それを見た母親達もホッとしてデリアさんにお礼を言っていた。


 魔法と言ってもてもいろいろな使い道があるのだと再認識した出来事だった。


 祈りのあとシスターが赤ちゃん1人1人に洗礼のための祈りを捧げて解散となった。もうお昼なので、村唯一の食堂で早めの食事を取ろうということになり、アウルム家両親と僕の両親、もう2家族の両親を誘い、食事となった。


 貴族といっても新興で、最近貴族になったばかりのアウルム家に公的な場ではともかく、こういった場所で恭しくされるのも困ると、イシス男爵自ら場を和ませ、そのあとは和気あいあいとした食事となった。


 話題にでるのは先ほどのデリアさんの魔法への感謝と、赤ちゃんのこと。ノエルと僕は泣きもせず大人しいので、2人の両親から褒められると母さんとイシスさんは親馬鹿なので、ノエルのここが可愛いとか、僕の目元が自分そっくりなのだと可愛いを連呼する。デリアさんはこんな食堂でも優雅に食事をし、父さんは相変わらず寡黙だ。話すのは主に母さんとイシスさん。


 もう1歳になるので、離乳食から幼児食に変わっている僕とノエルはキノコと野菜を炒めたものとパンに煮詰めた果実を塗ったものをどちらも食べやすい大きさに切ってくれて食べている。


 2人赤ちゃんは野菜が嫌いなのか、果実を塗ったパンを主に食べていた。果実が美味しいのだろうな、果実そのものの糖分が多い気がする。


 キノコも採取してきたものだろうか、濃厚で美味しい。まぁ赤ちゃんだとキノコは癖が強いのかもね。ノエルはここでもおかわりを要求してたけど、2人の両親が驚いているよ。


 簡易な食事会も終わり、両親共々挨拶したあと家に帰る。道すがら初めてよく見る村の様子を眺めていると日本とは家の造りが違うので、ここは地球とは違う、異世界にいるんだと改めて実感するのであった。

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