第13話 3歳

 教会で洗礼の儀式を受けてから半年。言われた言葉を正しく理解し行動できるようになるのが、1歳半~2歳頃と言われているが、この世界は人族の他にも色々な種族がいるため、当てはまるのは人族とそれに近い種族みたい。


 僕は知識というなの経験を生まれたときから行ったので、それに当てはまらないのだが、両親は特に気にすることもなく、むしろアリシア母さんは親馬鹿全開であれもこれもとさせてくれる。


 魔法もその1つだ。5歳頃から始める魔法も既にこの歳でできるようになった。


 そう、ついに魔法を使えるようになったのだ!母さん曰く、早い段階から行ったとしても、やはりこの歳で魔法を使えるのはすごく早いのだという。潜在能力過多で転生したのは伊達ではないということか。


 自分の魔力領域が表層から空間まで干渉できるようになったことで、母さんから魔法を使っていいと許可が下りた。


 まず使ってみたのはライトの魔法。教会でデリアさんが見せてくれた魔法を再現しようと思い、ここから始めた。


 魔法は魔素を操作する力、魔力で現象を起こす際、イメージを明確にすることで発現する。イメージに関しては転生特典というべき地球の知識があるので、割と簡単だった。


 魔法を教えてくれる母さんの前で、蛍光灯をイメージしたライトを最初に使ったときは驚かれたものだ。こちらの世界では光のイメージは火なのでオレンジ色が一般的だ。


 まだ魔力領域が狭いので、浮かべたままにできる範囲は自分の近くだが、それでもライトの色は赤、黄、青の信号機のイメージがあるし、蛍光灯で白、もちろんオレンジもできる。


 イメージ力だけならもう大人顔負けなので、最初見たときの母さんはかなり驚いていた。とりあえずデリアさんの魔法を見てということで誤魔化したけど、自重を忘れてはいけないと再確認した出来事でもある。





 あと近況としては、母さんが第2子を妊娠したことだろう。僕に弟か妹ができる。前世では末っ子だったため、弟か妹と何かしたということがなかったので、生まれてくるのが楽しみである。


 母さんのお腹に耳を近づけてみるが、よくわからない。しかし、お兄ちゃんになるのだから、しっかりとしなければと母さんの負担にならないよう努めるのだが、母さんにはそれが不満らしく、1人で何かやってると母さんからちょっかいをかけてくるので、対応してあげる。


 もうこの考え方が1歳半じゃないなと思いながらも、どうせノエルもこんな感じだろうと開き直っているのが現状だ。


 ノエルとは定期的に会っていたが、母さんが妊娠したことで、アウルム家へお邪魔する機会がだいぶ減った。たまに会うとノエルが不満を漏らすので、会ったときはノエルのしたいことをさせてる。


 同い年だが、狐人族は成長が人族より早く、体も大きくなり、こけやすいけど走れるようになっていた。身体強化魔法も使えるようになったらしく、僕を抱っこして連れまわしたりするのが、最近のお気に入りらしい。


 身体強化魔法は体内魔素を消費することで、肉体を強化する魔法だが、魔素を空気中から取り込む量より多いため、体内魔素を使い過ぎると脱力感が強くなる。


 ライトなどの魔法も体内魔素を起点として、発現するので同じなのだが、身体強化は肉体疲労もあるため、何も考えず遊ぶノエルは全力で遊んだあと、いつもぐったりしたまま、動けないでいる。そしてそのまま僕をほっといて爆睡するのだ。


 本当に自由だな……


 ノエル曰く、前世と違い肉体疲労が心地いいらしい。もうそれ脳筋の考え方な気がするよ?


 色々なことが出来るようになったが、それでもまだ2歳にもなっていない子供。1人で外の世界を見れるわけでもなく、家の中と庭、たまにいくアウルム家が今の行動範囲だ。大きくなったノエルもそれは同じで、やることは終始魔法の訓練しかない。


 それでも前世ではなかった魔法だ。訓練も楽しいのでそんなに不満はなかった。それに今度は前世と違い忙しさとは無縁の人生を謳歌したいのだ。魔法さえあればそれができると信じ、さらに魔法の訓練に夢中になるのであった。






 それから1年半の月日が経ち、僕ことフィルは3歳になった。


 ノエルの1歳半のころにやっと追い付いた感じだが、体も大きくなり、走れるようにもなった。


 魔法訓練も順調で、最近は体内魔素を使い切る時間が長くなってきたぐらいだ。魔法を使えば使うほど、使い切ったあと魔素を吸収することで耐性が上がり、体内蓄積できる魔素量が増えるし、魔力も強くなる。


 訓練の場所が家では満足にできなくなり、母さんに近くの平原に1人でも行っていいか相談した。


 最初は反対されたが、珍しく父さんが母さんを説得し、渋々だが了承した。母さんも生まれた僕の妹がいるので、そっちに構ってもいいのだが、僕が手がかからず育ってしまったためか、相変わらず妹と一緒に構いたがるのだ。まぁそれも愛情表現の1つなので、嬉しくないわけではないのだが。


 そうそう、僕の妹が無事生まれたのを報告しておこう。名前はシンシア。目元などは母さんに似て、髪色は父さんに似た茶色を薄くして、光沢のある亜麻色といった感じだ。父さん顔は強面だからな、そっちに似なくて父さん自身ホッとしてるみたいだ。


 今のところ見た感じ普通の人族と同じで、僕とは違い夜泣きなど手間がかかっているようだが、それが普通だし母さんは別にそれを苦としておらず、可愛い妹の世話が楽しいようだ。


 妹に掛かり切りになっていることもあり、僕が1人でいるのを渋っていたのもあるみたいだが、そこはちゃんと説明して父さんの後押しもあり、近くの草原へ行く許可をもらえたのだ。遠出しない、夕食前には帰ってくるなど、条件を付けられたが。


 そしていまその家から歩いて10分ほどにある平原で、魔素を使い切ったあとの脱力感を感じながら、横になり流れる雲を見ている。


 心地よい風とひだまりのような暖かい日差し、美味しい空気と遠くで聞こえる鳥の声。癒しだ、癒し空間がここにある。もうこのまま眠ってしまいたいくらいだ。


「フィル~~~~~!」


 寝転がっている僕に遠くから大声で呼ぶノエルの声。この間ノエルに会ったときに魔法の訓練をここでしているのを言ったので来たのだろう。アウルム家は丘の上にあり、この平原はむしろアウルム家に近い。家からここの平原が見えるといっても、米粒のような僕をよく見つけるものだ。


 起き上がり声をした方を見ると、こちらに来るノエルとその後ろをついてくるカエラさん。手にはバスケットを持っている。


 ノエルも3歳になったが、見た目は人族の5歳くらい。身長は1mをこえて、まだ1mをこえていない僕との身長差は10cmくらいある。


 髪も伸びてデリアさんのようなサラサラの金髪が腰くらいまで伸び、活発なノエルらしく半袖短パンで動きやすそうな靴を履いている。一応貴族令嬢のはずなのだが…


「フィル、魔法訓練は終わった?お茶にしましょ」


 そう言いながらカエラさんが敷物を広げ、そこにバスケットから出したサンドイッチやクッキーなど、大量に並べ魔法でお湯を出しお茶を入れる。ノエルは見ているだけだ。そこは貴族令嬢らしいんだよなぁ。


 しかし1~2時間すると夕食なのに、この大量の食べ物。ノエルの食べる量がまた増えている気がする。アウルム家では日常なのだろうカエラさんが特に疑問なくお世話をしているのが、そう思わせる。本当にお金に余裕がある家に生まれてなかったら、食費がえらいことになってそうだよ……


 夕食を食べられないと母さんが心配するので、僕はクッキーとお茶をもらいながら、いつも通りノエルの質問に答える。体内魔素を使い切る時間が長くなってきたことを話すと隣のカエラさんが驚いていたが、ノエルは気にした風もなく、身体強化魔法を進めてくる。それはノエルが得意なだけでしょうに。


「フィルは1人で村に行けないでしょ、一緒に行きましょ」

「そうだけど、行って何をするの?」

「そこは行ってから考えるのよ!」


 自慢気に胸を張るノエル。今魔素を使い切って倦怠感があるのに……


「今魔素を使い終わって休んでるんだけど……」

「そんなの歩いているうちに回復するわ!」


 どうしても行きたいらしい。隣のカエラさんが申し訳なさそうに頭を下げている。もうこうなったら言うこと聞かないし、反対しても不貞腐れて逆にめんどくさくなるので、素直に従うことにする。


 カエラさんが片付け終わったあと、3人で村へ歩き出す。村へ行くのは1歳の教会以来でもあるので、ノエルほどではないがどんなものがあるのか少し楽しみだ。

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