第14話 メルクトス村

 ノエルの提案で僕とノエル、付き添いでカエラさんと一緒にメルクトス村の広場が目的地だ。平原から村へと続く道へ、この道は馬車なども通るため整備されているので広く歩きやすい。


 周囲は平原と畑、そして森。とても空気が綺麗で深呼吸するたびに倦怠感が取れていくようだ。


 畑の多くは麦畑で、もう午後なので畑仕事は終わっているようだ。村人の姿はあまり見ない。


 道の行く先を眺めると民家が立ち並び、密集しているとこが広場があるところで、畑の向こうにも民家がちらほらと見える。


 広場から離れている民家は鶏や羊、牛を育てている家のなのだとカエラさんが教えてくれた。


「こんにちは~!」


 僕とカエラさんが話していると、村人に気づいたノエルが挨拶をしている。


「おう、ノエル嬢ちゃん、こんにちは」

「こんにちは、ノエルちゃん。今日も元気ね」


 ノエルとは面識があるようだ。ノエルは村へ前から来ているみたいだな。人見知りもしないし、見た感じ村人に可愛がられているみたいだ。


「紹介するわ、この子がフィルよ!」


 そう言って我が子を自慢するかのように胸を張る。いや、名前だけ言っても説明不足過ぎるだろ。


「この子がフィルくんですか。可愛い子ですね」

「いつも言ってる子がこの子でしたか、はじめまして」


 え、それで説明が通るの?ノエルはいつもどんな話をしているんだ。まぁ疑問に思っても仕方ないので、とりあえず挨拶をする。


「フィルくんはノエル嬢ちゃんと同じ3歳でしたよね?」

「ノエルちゃんの時も驚きましたけど、フィルくんもしっかりしてますねぇ」


 僕が褒められるとノエルがそうでしょうと言わんばかりのドヤ顔。


「隣のボウズは6歳過ぎても悪ガキで、挨拶も碌にできないやつなのに、本当にえらい違いだな」

「エドウィンさんのお子さんでしょう?しっかりしているのよ」


 知らんうちに父さんの評価があがったけど、悪いことじゃないし、まぁいいだろ。


「今日も広場に行くの。まだやってる?」

「ええ、食料はもう終わってると思いますが、それ以外でしたら」

「わかったわ、ありがとう」


 ノエルがお礼を言って、村人と別れる。ノエルについていき、そのまま村の中心である広場へ到着すると、村人たちが自分達で作ったものを持ち寄ってそれを売るための物を置くスペースがあった。


 昼前には食材なども置かれるらしいのだが、今はもう籠や手作りの木で作った食器などが売られている。


 まぁ売り子である奥さま達が井戸端会議みたいな感じになってるけど。もう忙しい波が過ぎたあとなのだろう。


「これはこれはノエルお嬢様にカエラさん、それと……」


 広場に到着し歩いて品物を見ようとすると、4~50歳だろうか、おじさんが話しかけてきた。


「村長、フィルよ」


 また名前だけで説明を済ますノエル。事前に言っているんだろうけれど、僕も困惑するし、出来ればもうちょっと軽く説明して欲しい。


「ああ、エドウィンさんの。こんにちはフィルくん」

「こんにちは」


 ちゃんと挨拶を返すと笑顔で頷き返してくれる。見た感じいい人そうだ。


「今日はフィルが初めて市に来るから、案内しているのよ」

「そうですか、あともう少しで終わりの時間ですので、それまでゆっくり見て行ってください」

「ええ、ありがとう」


 村長と別れて僕達は売っているものを見ていく。食器類に籠、布などもあるな。品物はあまり残っていないが、昼前に来れば畑で取れた食材や、森で取れた山菜類なども売っているらしい。


 食材で残ってるのは加工されたものか、ソーセージや塩漬けされた肉、ワインなんかもあるな。木の実なども若干残っているがお金を持ってきていないので見るだけにする。買っていってもまだ料理できるわけじゃないからね。


 お金はこの世界では基本硬貨で取引をしている。前に母さんに教えてもらったときは

 最低が10セントで100、500、1000、5000、10000となり、10万セントから銀、100万セントから金、1000万セントが白金で作られる。1万セントまでは全て軽銀で作られているのだが、そこは魔法世界。偽造防止に魔道具が使われているらしく、貨幣製造を魔道具で行い、その作成の魔力紋を判別することで偽造防止をしているそうだ。ちなみにその魔道具もレリック扱いらしく、国で管理されている。製造時国名を入れるのが決まりで、どこの国で作られた硬貨かもわかるらしい。


 そんなことを考えながらノエルを見ると、カエラさんにチーズを買うとねだっていた。チーズは1ホールが大きく、それを切り分けて売っているみたい。お土産かな?


 結局買ってもらったらしく、カエラさんが買い終えるとノエルはその場で一口食べていた。


 いや、食うのかい。お土産じゃなかったのかよ。


 もう一口ねだっていたが、流石に渡さなかったみたい。散々さっき食べただろうに…


 ひと通り見て回る間、ノエルは村人に僕を紹介する。まぁ名前だけだけど。補足は全部カエラさんに任せていたが、父さんの名前はみんな知っているので問題なかったみたいだ。


 そろそろ帰ろうと思ったときに、再び村長がやってきて市の感想を聞いてきた。


「何か欲しいものとかありましたかな?」

「ソーセージとかチーズとか美味しそうでした。今度は食材が多い昼前に見に来たいと思います」

「そうですか。市は3日ごとにやっていますが、2週間1度大きい市を開いていますので、その時に来ていただけると楽しいかもしれませんよ」

「わかりました。その時にまた来てみます」


 地球と見た目も同じ食材も多いが、この世界特有の食材もたくさんあるみたいだし、そういうのを見てみるのも楽しみの1つになりそうだね。


 村長と別れたあと、3人で帰路につく。広場からは僕の家がアウルム家より近いので、2人は僕の家まで送ってくれる。道中は主にチーズの話。カエラさんにノエルがチーズのリクエストをしている。どうやらラクレットのようにチーズを溶かしてパンと一緒に食べたいらしい。地球と違い機材が無くても魔法で炙って食べれるので、魔法世界では逆にお手軽かもしれない。


 ノエルの話を聞いているとお腹が空いてきた。そんなに市にはいなかったつもりだが、時間的には結構経っていたみたい。今日の夕食のことを考えながら、僕の家の前でノエルとカエラさんに別れの挨拶をして、家に入る。


「ただいま~」

「遅い!」


 家に入ると妹のシンシアを抱いたアリシア母さんが仁王立ちしていた。


「遅いってまだ夕食前のはずだけど…」

「それでもいつもより遅いでしょ?何してたの」


 普段だらしない人がきっちりやると褒められるのに…と思いながらも今日はノエルとカエラさんに村の広場でやっていた市に連れて行ってもらったことを話す。


「そう、カエラさんに今度お礼を言っておかないとね」


 1人で行っていないことがわかると母さんも納得してくれたみたいだ。過保護な気もするがそもそもまだ3歳だから、そう考えると当り前の気もするが、この世界だと小さい子供も畑の手伝いとかしてるからなぁ。


「夕食の準備するから、シンシアをお願いね」


 母さんが僕にシンシアを頼むと台所へと向かう。普通3歳児には赤ちゃんを預けないが、そこはもう身体強化魔法を使えるのを知っているので、もう慣れた感覚で僕に預ける。


 シンシアを受け取るとリビングのソファーに座り、シンシアを隣に寝させながら魔法の訓練を行う。光の玉を3つ出し、シンシアの前でクルクル回したり、バラバラに動かしたりして、魔法の訓練とシンシアの世話の2役をこなすのだ。


 シンシアもこの魔法が好きみたいで、手を伸ばして玉を取ろうとする。光の玉なので掴めず通り抜けるのだが、面白いのか笑って楽しそうだ。そのうち台所からいい匂いがしてくる。もうすぐ夕飯だ。


 ちなみに今日の夕飯はシチューでした。ノエルの話でチーズが食べたい気持ちが強かったけど、シチューも濃厚でこれはこれで美味でした。

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