第42話 久しぶりの教会

 小屋建築に一旦区切りをつけたので、今日は久しぶりに教会の方へ顔を出してみた。


 教会に到着してシスターに挨拶した後、同じ時期に教会に通うようになったアランとオリガにも挨拶をする。


「おうフィル!久しぶりじゃないか!」

「こんにちは、ノエルちゃん、フィルくん」


 2人が座っていた場所の開いていた席に座り、最近のことを聞く。こちらは特に変わりはないようだが、アランは剣がオリガは魔法が上達したとのことで、あとで見て欲しいとお願いされた。


「2人は最近何してたの?」

「小屋を作ってたよ。家だと何かするにも狭いからさ」

「すごいな!秘密基地みたいなもんじゃん!」

「いや、庭にあるから秘密でも何でもないんだけど」


 アランが興奮するが、そんな大層なものでもない気がする。まぁこの歳の子供の反応はこれが普通なのかな。


「今日終わったら見に行ってもいいよな?」

「うん、だけど本当にまだ何も無いよ?」


 とりあえず言い訳してみたが、どうしても見たいというので、教会終わりで4人で、僕達の作った小屋を見に行くことになった。


 教会が終わり僕の家に行く前に、オリガとアランの家に寄って、使った荷物を置くのと、僕の家に遊びに行くことを伝えてから向かう。


 アランはいいが、オリガは家が食堂を経営しているから、いつもは教会終わりで手伝いをしているので、親に伝えておくことは大事だ。






 僕の家に到着し、母さんとシンシアに迎えられ、まずはお客様ということで、母さんからお茶やお菓子の歓迎を受ける。この辺りは前にも来たことがあるので、慣れたもんだ。むしろアランはこれが目的な気がしなくもないけどな。母さんの手作りクッキーは美味しいって前に遊びに来たとき、翌日の教会で絶賛してたもんな。


 一息ついたので当初の目的である作った小屋を見に行く。


「そういえば、どこに建てたんだ?」

「いや、家に来た時に見えたでしょ?」

「ん?小屋なんかなかっただろ?」


 家を出ながらアランが小屋を見ていないというので、実際に見せるため案内すると、アランとオリガに紹介した途端に固まった。


「ね?これ来た時見えたでしょ?」

「……いや、そういう意味じゃねぇよ!小屋で説明すんなよ!もうこれ家だろうがっ!」


 オリガも首をコクコク振りながら同意を示す。


「でも家ほど大きく無いし、中も簡素だからさ、小屋って説明しかできないんだけど…」

「そもそもフィルの家が大きいんだよ!それと比べるからダメなんだ!」

「フィルくんはノエルちゃんで隠れてるけど、やっぱりちょっと規格外よ?私達の年齢で家を建てる人なんていないのよ?」


 ……なんか家を説明するはずが、僕がおかしいことを責められた。解せぬ。あとノエルはなんで喜んでるのかな?え、褒められてる?どの辺りが褒められているのか僕には謎なんだけど。


 その後も、とりあえず丸太小屋(もう小屋で押し通した)の外観や内装を紹介しながら、木を伐り出して作ったと言えばおかしいと言われ、土台や壁と屋根を作った工程は魔法のすごさより呆れられることが目立ち、板ガラスは買ったんだよと説明しても、結局窓とドアを作ったのなら、全部作ったのと同じだと責められた。解せぬ。


 僕が少々落ち込んでいるのを他所に、ノエルは機嫌が良くなっていくが、それは無視して、再度家に戻る。






 母さんの淹れてくれた紅茶で気分を立て直しながら、あの小屋(家じゃない)をどうするのかとアランが聞いてきたので、説明する。


「まだ内装が何もないから、机と椅子を作って色々作業出来るようにはするつもり。後は物を置いておける棚とかかな」

「内装も作るのか、かなり凝ってるなぁ」

「作るのって楽しいじゃないか。それに作ればお金かからないし」

「それはフィルだけだろ。森いって原木取ってくるなんて、それを仕事にしてる大人もいるんだからさ」

「そうね、でもそれが出来るならフィルくんはもう将来職業に困ることはないわね」

「作るのは楽しいけど、木工職人にはならないかなぁ」

「何かなりたいのがあるのか?」

「ん~今のところは冒険者になるつもりだけど、気になるのは魔道具制作かなぁ」

「冒険者はわかるけど、魔道具職人になるのは大変って聞くぜ?」

「そうね、お金もかかるし、魔道具制作自体が難しいのよね?」

「うん、魔道具制作は魔法の威力、つまり魔力よりも魔素操作が重要になるからね。こう魔法の扱いが上手い人がなるイメージかな」


 そう言いながらビー玉くらいの光の玉を5色出しながら、円を描くように回す。シンシアはこの魔法を見ると、ことのほか喜ぶ。たぶんシンシアが小さいころは、これであやしていたのを覚えているのかもしれない。


「フィルがやると簡単そうに見えるのに、ほとんどの人がそれ出来ないんだよなぁ」

「そうね、調子がいいときでも同じ色の光の玉が2つ出たらいい方だわ」

「俺なんて2つすら出したことないぜ?」


 そう言いながら、2人は光の玉を詠唱しながら出してみるけど、1つの玉で良く練習する魔道具で出した玉と同じだ。


「これは本当に練習するしかないからねぇ」


 生まれたころから練習しているし、魔法訓練は病気の時以外は欠かしたことは無い。


「ノエルちゃんも出来るの?」


 クッキーを食べていたノエルに、オリガが聞く。


「ええ、フィルほど上手くはないけど」


 そう言いながら、指先を前に立て、無詠唱で光の玉を出す。僕と同じ5色の光の玉を出して円状に回転させる。


「こんな感じね。さすがに集中しないと難しいわ」

「それでも出来るのはすごいよ」


 オリガに褒められてノエルもちょっと嬉しそうだ。アランはまだ集中して出しているが、光の玉1個のまま変わることは無い。魔法は何事も継続的な練習が必要だ。それにアランはそもそも直感的なタイプだからなぁ、ノエルと同じく身体強化魔法とかの方が得意そうだし。


「ノエルちゃんはデリア様に教えてもらっていたの?」

「ええ、ママは魔法が得意でよくフィルと一緒に習っていたわ」

「フィルくんもかぁ、それなら上手いのも納得だよ。やっぱり上手い人に教えてもらうと違うのかなぁ」

「ちょっとはあるかもしれないけど、それが全てではないわ。練習するきっかけが早いだけで、魔法が上手くなるのは本人の意思が必要よ。魔法の魔素量、魔力、魔素操作は全部継続練習しないければ鍛えれないわ。私もフィルも1日も魔法練習を欠かしたことは無いもの」

「え?1日も?」

「ええ。魔素量と魔力は魔法を使えば使うほど増えるし、魔素操作は技術だから訓練よね」

「そうなんだ。教会ではそこまで教えてくれなかった気がする」


 自分の魔素を自然に感じる様になるまで、普通は5歳くらいになるからね。教会ではまずは最低限の生活で役立つ魔法しか教えないはずだ。それに魔法を覚えるのにも、魔道具を使っているから、危険な魔法も教えていない。まだ子供だからね、子供に危険な火遊びなどを教える大人はいないだろう。


「フィルはデリア様から魔法を教わって、自分でずっと練習してるのか?」

「最初はね。その後は母さんに教えてもらったりもしたし、やり方を覚えたら一人でって感じかな」

「へぇ~。それじゃアリシアさんも魔法得意なんだ」


 僕とアランの話を聞いていた母さんが、微笑みながら同意する。そして僕と同じように光の玉を出した。もちろん5色だ。


「おぉ!すげぇ!」


 アリシア母さんが出した5色の光の玉に、アランとオリガの視線が集まり喜んでいるところに、別のところで魔法が発動する。


 それはピンポン玉くらいの大きさで、動きはぎこちないが2色の光の玉がフラフラと円を描きながら小さな手の上を飛んでいる。


 魔法を使ったのはもちろん、僕の妹であるシンシア。かなり集中しているようだが、3歳過ぎてこれは大したものである。


 それを見たアランとオリガが、アリシア母さんの光の玉を見て喜んでいたのとは反対に、ちょっぴり落ち込んでいたのは仕方ないのかもしれない。



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