第5話 ノエル=アウルム

「アリシア、いらっしゃい。待ってたわよ」

「デリア、こちらこそお世話になるね」


 ブルーのワンピースを着て、サラサラな銀髪のセミロングヘアに瞳の大きいのが長所の母さんアリシアとそれに抱かれた僕と、白いワンピースにカーディガンを羽織った金色の腰まである癖のない長い髪、赤ちゃんと同じ狐耳の切れ長の目をした秀麗の男爵夫人であるデリアさんに抱かれた狐耳の赤ちゃん。


 一通りの挨拶で、赤ちゃんの名前がノエルだということがわかった。今はデリアに案内された、ソファーなどがあるリビングルームでメイドの淹れた紅茶を飲みながら寛いでいる。


 爵位が1番下でもさすが貴族。メイドさんがいるのだ。紺色のワンピースに白のフリルのがついていて、白いエプロンを肩からストラップを回し、ウエストで締めている。年齢は20歳前だろうか結構若い見た目で茶色のふわっとしたショートヘアの髪の上にカチューシャがついている。


「カエラ、あとは私がやるわ。アリシア達の部屋の用意はできてると思うけど、子供が2人になるから、いろいろお願いね」

「わかりました奥様。アリシア様なにかご用がありましたら遠慮なく仰ってください」

「ありがとう、カエラさん。よろしくね」


 一礼して部屋を出て行くメイドのカエラさん。綺麗な動作だったのでメイド歴は長いのかもしれない。


「この紅茶美味しいね。この辺りじゃ売ってなかったよね?」

「ええ、この前来た行商人に取り寄せるように頼んでおいたの。王都でも飲んでたけど、取り寄せた分割高になったわ」

「そっか、それじゃ私も取り寄せようかな。その商隊は今度いつ来るの?」

「3ヶ月に1回のペースで来てるわ。次は約2ヶ月後ね。多めに取り寄せてるから今回はアリシアにうちのを分けるわ。カエラに言っておくから、帰るとき一緒に持って行って」

「ありがとう、それじゃそうするね。費用はうちの旦那の給与から引いといて」

「いいけど、ちゃんとエドウィンに言っておくのよ?」

「わかってるって」


 紅茶の話から始まって、最近中々会えていなかったのか、僕が生まれてから最近の話まで話題が尽きない。一緒に冒険者でPTを組んでいたらしいし、仲がいいのだろう。話し方からするとデリアさんが姉でアリシア母さんの方が妹って感じだ。


 話始めて10分は過ぎたが終わる気配がない。デリアに抱かれたノエルがあからさまにぐずりだしてるぞ……


「ママ、ママ」

「デリア、ノエルちゃんが」

「あら、ノエルどうしたの?お腹が空いたのかしら?」

「抱っこに疲れたんじゃない?ベッドかどこかに寝かせたら?」

「そうね、ノエルの部屋があるから、そこに寝かせましょう。フィルくんも一緒にしましょ。カエラも手が空いたときみてくれるわ」

「そうしましょうか。フィル、ノエルちゃんと仲良くするのよ~」


 僕の顔を見ていう母さんに頷いて返事をすると、ぎゅっと抱きしめたあと、デリアさんに連れられリビングルームから出てエントランスとは反対方向にある折り返し階段をあがり、正面の部屋へ入った。


 部屋を見てみるとノエルがいつも寝ているであろう装飾が施されたベッドと統一感がある机に椅子、棚など子供が成長したらそのまま使えそうに整っている。そして転んでも痛くないようにか、部屋にはフワフワの絨毯みたいなものが敷いてある。


 めっちゃいい部屋じゃん……ほら僕男の子だし、まだ赤ちゃんだから僕の部屋はあんな感じなんだ。そうに違いない。まだここまで必要ないんだ……うん。


 自分に言い訳をしながら部屋を眺めていたら、ノエルと一緒にベッドに降ろされた。


「それじゃあとでカエラに見に来てもらうから、フィルくんと仲良くね」

「フィルもカエラちゃんと仲良くするのよ~」


 2人で素直に頷いて、返事を確認した母親達は頭を撫でたあと部屋を出て行った。


 足音が聞こえなくなると、ノエルがこちらを向き笑みを浮かべながら抱き着いてきた。


「えにし、やっと2人になれたねっ」


 日本語でいいながら、ぎゅっと抱きしめる。この感じ懐かしいな。


「やっぱり青葉だったか。狐耳だけど顔が違うから確証がなかったよ」

「前世の知識があるって言ってももう違う人に生まれ変わってるからね。名前もちゃんと普段からフィルって呼ばないと」

「そうだね。そういえばノエルも前世の知識があるんだね」

「うん、条件は2人同じで前世の知識と潜在能力の向上、あと私はフィルのサポートのために、女神様からこっちの知識も授けてもらってるから、安心してまかせなさい!」

「それだよ、僕こっちの知識ないから運動するぐらいしかできなかったんだけど……ファンタジー定番のこう内に秘めた何かに気づくとかも無いし」

「それはほら、最初は双子もありかと思ったのよ?そうすれば1番近くで一緒にいられるし。だけどほら、前世では家族みたいな感じだったし、幼馴染ポジションの方が何かとね?」

「なにかって?」

「……(鈍感体質は生まれ変わっても治らないのね……)フィルが気にすることじゃないわ。それよりもまずは情報共有よ!」

「……まぁいいけど。情報共有って僕から話すことってないと思うけど」

「そんなことないわよ!私はこっちの知識を話す、フィルは生まれてから最近までのことを包み隠さず話す。情報共有よ」


 なんだろ、情報共有の度合いが違う気がするけど……


「わかった。まずはこっちの知識を「フィルの生い立ちからね」おし・・・え?」


 この感じ……懐かしいと思うのは、前世の知識せいだよね。ということは何を言っても聞かないんだろうな……


「もちろん、話してもいいけど、せっかく転生したんだし、僕もほら魔法を使ってみたいからさ、先にこっ「生い立ちからね」ちのち……はい」


 やっぱりダメだった。はぁ~、早く魔法使いたいのになぁ……


「わかったわかった。えっとそれで生い立ちってまずは何から話せばいいの?」

「そうね、まずは」


 それからカエラさんが様子を見に来るまで、ずっと僕の生い立ちを話すことになった。いや、生まれてから最近の5ヶ月でそんな変わったことなんてないはずなのに、そんな事細かに聞いてどうするんだというぐらい話をさせられた。


 生まれてからこれまでどう過ごしてきたか、父さんや母さんはどういう人か、普段何をしているのか、家の間取り、起床時間と睡眠時間まで。そんなの聞いてどうするよとツッコミをいれたくなるけど、断っても「いいから」とか言って話すまで許してくれない。だからとりあえずは話すけど、授乳の感想とか聞かれても本当にそれ聞いてどうするよと言いたくなる。赤ちゃんなんだから感想なんかないよ!だからジト目でこっちを見ない!飲まない選択肢は無いだろうに……


 それからあーだこーだと情報共有というなの尋問に僕だけ答えつつ、話しているとノックの音が聞こえ、カエラさんが入ってきた。


「ノエルお嬢様、フィルくん、仲良くしてましたか?何かずっと言ってる声が聞こえたので心配しましたよ」


 そういえば、ずっと日本語で話していた。言葉にならない声で言い合ってたら、それは仲良くしてるとは思われないな。


「カエラ、わたしたちは仲良しよ」

「だいじょうぶだよ、カエラさん」


 心配させまいとこちらの言語で声をかけると、カエラさんは驚いた顔をして僕を見ている。


「……ノエルお嬢様にも驚きましたが、フィルくんもちゃんと話せるんですね」


 そういえば普通にノエルも話せてたから話しちゃったけど、5ヶ月だとまだ早いのか。でもノエルも話してるみたいだし、問題ないよね。


「そうよ、私のフィルだもの!」


 いいえ、あなたのものではありませんし、言葉を教えてくれたのは母さんです。


「仲が良いようでよかったです。お昼にしますので2人とも食堂へ行きますね」


 そういうと、カエラさんは僕を抱っこして行こうとする。あれノエルは?


 そう思いノエルを見ると自分でベッドから降りて、立ち上がってカエラさんの手を掴み一緒に歩いていく。


 ……ノエル、まず君の生い立ちの情報をくれるのが先じゃなかったのかな。

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