第6話 赤ちゃんの成長

 食堂に着くと母さんとデリアさんが先に席についていた。テーブルには既に僕たちの食事が用意されていて、母さんとデリアさんはもう食べ終わったあとみたいだ。


 母さんがカエラさんから僕を受け取ると、いつものように抱っこしながら、離乳食のパン粥みたいなのを食べさせてくれる。


 ノエルは赤ちゃん椅子みたいなのに座って、スプーン片手に食べていて、それをカエラさんが補助していた。


 ……ノエルさんや、自重という言葉はどこに置いてきたんだ。


 僕のジト目には一切気づかず、食べるノエル。母さんは僕に食べさせながら、それを見て感心していた。


「ノエルちゃんすごいね~。もう1人で食べれるなんて。狐人族は成長が早いですね」

「そうね、狐人族にかかわらず、獣人種は成長が早いっていうけれど、ノエルほどじゃないわ」

「そうなの?」

「ええ、普通はまだ立って歩いたりしないし、ここまで器用には食べないわよ。おかげで手は掛からないけどね」


 デリアさんは言葉では苦笑しながらも、ノエルの食べてる姿を見て微笑んでいる。2人の話を聞いていたカエラさんも頷いて同意している。


「ノエルお嬢様もそうですが、フィルくんも成長が早いと思いますよ。先ほど呼びに行きましたら、私の話しかけた言葉をちゃんと理解しているようですし、受け答えもちゃんとしていましたから」


 カエラさんの言葉に3人の目が僕に集中する。ノエルは食事に夢中だ。むずがゆい視線を感じながら、母さんに促されてパン粥を食べる。


「2人とも優秀なのはいいことよ。ちゃんと言うことを理解しているのなら、それなら早いうちから魔法を教えてもいいんじゃないかしら」

「まだ5ヶ月よ?早いんじゃない?」


 魔法!デリアさんナイスだよ。母さん全然早くないよ。むしろ遅いくらいだよ、心情的に!


 魔法という言葉が出たので激しく反応した僕を見たデリアさんは、微笑みながらも母さんの説得に移る。


「ほら、フィルくんも興味津々みたいだわ。魔法という言葉も理解しているのね」

「もう言葉はだいたい理解しているみたい。本を読んであげるとちゃんと反応するもの」

「それは優秀ね。魔力量は早いうちから鍛える方が増えるのだから、早いうちから教えることはこの子達の将来のためになるわ」

「それはそうなんだけど……普通の子だと早くても1歳過ぎないと理解できないし、2~3歳過ぎてようやく会話が成立ってこともあるのよ。それなのに5ヶ月だと獣人族でも早い方じゃないの?」


 普通の人はやっぱりそのくらいか、それでも地球よりは発達が早そう。会話が成立って4歳頃じゃなかったかな?


「そうね、早いと思うわ。それなら本人に聞いてみましょ」


 大人3人の目がまずはノエルに集中する。ノエルは依然食事に夢中だ。パン粥そんなに美味しいのか、それともただお腹が空いているのか。まぁ前世では食事は必要ない体だったから、こっちに転生して目覚めたのかもしれない。


 ただ、話は聞いててほしかったけど。


「ノエル、ママの方を向いてちょうだい」

「なあに?ママ」

「今ねアリシアとお話して、魔法を教えようかってことになったのだけど、ノエルは魔法覚えたい?」

「フィルも一緒?」

「あら、もうそんなに仲良くなったのね。そうよ、フィルくんも一緒」

「なら覚える」

「あらあら、フィルくんも隅におけないわね」


 そういいながら、僕の方を見て笑うデリアさん。何もしていないのにあらぬ疑いをかけられたみたいだ。断固として無罪を主張したい。


「フィルくんはどう?魔法に興味はあるかしら?」


 デリアさんが今度は僕に聞いてくる。もちろん僕の答えは決まっている。


「興味あります。魔法」

「フィル、魔法はとても危険なものなの。いたずらに使うと回りを不幸にするのよ。ちゃんと母さんの言うことを聞ける?」


 僕を抱いている母さんが心配そうに顔を覗き込みながら、話してくる。しかし、僕の決意は固いのだ。せっかく転生して魔法が使える世界にいるのだから、是非とも魔法を使いたい。


「だいじょうぶだよ、母さん。ちゃんと言うこと聞くよ」


 心配そうに見つめる母さんに目をそらさずに言う。数秒見つめるとため息をついて、僕の頭を撫でた。


「ということみたい、デリア。フィルも一緒に教えましょう」

「よかったわ。それじゃ午後からでも早速だけど教えましょう」


 よかった。これで魔法を習うことができる!ノエルに教えてもらうつもりだったけど、思わぬところで魔法を教えてもらえることになった。親公認ってことでもあるし、これで魔法の練習してても怪しまれることもないし、いいこと尽くめだ。






 食事が終わったあと、すぐ魔法を教えてもらえるかと思ったが、そうはならなかった。誰のせいでもない、この赤ちゃんの体のせいだ。


 お腹いっぱいに食べたあとなので、お昼寝タイムに突入したのだ。


 ウトウトする僕とノエルを一緒のベッドへ寝かせ、そのまま熟睡。起きたのは午後3時過ぎたころ。


 寝苦しくて起きてみると、ノエルが僕を抱き枕にしていた。


 まさかこれが1週間も続くのかと思うと、ちょっと憂鬱になるが、魔法を教えてもらうためには仕方がなと割り切る。


 ノエルの拘束と解こうともがいている間に、気配に気づいたのかカエラさんが部屋へ入ってきた。


「フィルくん、起きましたか。奥様にお伝えしてきますので、お嬢様を起こしてもらっていいですか?」


 僕は頷きカエラさんが部屋を出て行ったのを見送ったあと、ノエルを揺すって起こす。


「……う~ん、まだ食べる……」


 食後に寝たのに、夢でまだ食べてるのか……食い意地が張りすぎだ。もうちょっと成長したらノエルも運動に誘わないと。


 将来の計画に1行項目を足したところで、ノエルを起こし、その間に帰ってきたカエラさんがお湯の入った桶を持ってきてくれたので、顔を洗い、寝ぼけ眼のノエルも濡らしたタオルでカエラさんが拭いてくれる。


「お嬢様、起きましたか?奥様がお待ちですよ」

「ん~起きた。行く」


 ノエルは自分でベッドから降り、僕はカエラさんが抱き上げてくれて、母さんの待つリビングルームへと移動する。僕も1人で歩けるようになりたいな……






 リビングルームへ着くとデリアさんと母さんが紅茶を飲んで待っていた。


「起きたみたいね。寝る子は育つっていうし、いいことだわ」

「そうね、フィルも寝つきはいいし、夜泣きはあまりしないしで助かってるから」

「ノエルもそうね」


 前世の知識がある分、精神的に成長してるんだと思う。体は正直だから、仕方ないときは夜中も母さんを呼ぶために声は出すけど。


 カエラさんから僕を受け取った母さんは、僕の頭を撫でながらリデアさんに答える。ノエルはリデアさんの隣に座ると思いきや、僕の母さんの隣に座ってきた。


「ノエルは本当にフィルくんが気に入ったみたいね。1週間一緒だからよかったわ」

「ええ。ノエルちゃんフィルのことお願いね」

「まかせて」


 自信満々に胸を張りながら頷くノエル。僕はとても不安だよ……


「それじゃ魔法について教えましょうか。ちょっと難しいけど、今は理解できなくても、わからなかったらまた教えるわ」


 デリアさんは紅茶を一口含んだあと、そう前置きして魔法について話してくれた。


 いよいよ、この世界に来て初めての魔法に触れることになる。デリアさんもそうだけど、母さんも魔法については得意なはずだし、環境的にはとても恵まれている。潜在能力についても女神様のお墨付きだし、あとは努力次第。頑張るぞ!

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