第31話 立ち位置
雨の上がった翌日は、ノエルも我が家へいつも通り来た。僕からは稽古をしていないなど絶対言わないが、妹のシンシアがノエルに昨日遊んだ内容を詳細に語ってしまったため、案の定ばれた。その日の稽古は今まで以上にきつかったのは言うまでもない。
午後の教会については僕とノエルが同年であるアランとオリガに勉強を教えているのが日常化し、ノエルが年上にも物怖じしないので、まず年上の困っていそうな女の子から教えていき、徐々に広まるようになると、教えて欲しいと来るようになるが、ノエルは一貫して本当に困ってる人以外は取り合わなかった。
どうやってより分けているのか、僕やアランもオリガもよくわからなかったが、ノエルの中には明確にわける一線があるみたい。それは男子も女子も変わらず、内容も区別はないが、教えて欲しいと来てノエルが教えてあげるのは極少数だ。
僕のところにも教えて欲しいと来る人がいるが、僕のそばには常にノエルがいるので、ノエルのお眼鏡にかなわなかった人は即座にはじかれる。
「フィルくん、魔法が得意って聞いたんだけど、実は…」
「フィル、計算もできるんだってな。それでさ…」
こんな風に話しかけて来るけど、ノエルがちらっと見てダメだった場合
「それはシスターに聞くか、他の人に聞いてちょうだい」
こうなる。そしてそこに食いつくと……
「いや、フィルに聞いて……」
「シスターに聞くか、他の人に聞いて」
「でも」
「シスターに聞くか、他の人に聞いて」
「はい……」
絶対にノエルは譲らない。それがみんなの前でやるので自然と周知されていく。ノエルに何で断るのか、教えてもいいんじゃないかと問うが。
「本当に困ってるなら教えるし、断らないわ」
それだけで何で断るのかは教えてはくれなかった。だが、このようなことをしていると当然反感を持つ人がいるのだが、しかしノエルに口で負かせる人はいないし、手を出そうにも領主の娘ということもあるが、しかしそれに怖気づかない人もいるにはいる。まだ子供だからね。でも、ノエルが負けるわけがないのだ。
僕の父さんである自警団の隊長に、お墨付きをもらっている剣技と一流冒険者である母親デリアさんの教育による魔法。それも身体強化が得意ときているのだから、並みの大人でもそう簡単に負けることはない。
それなのにノエルに反感を抱いているのは、まだ教会に通っている子供だ。勝てるわけがない。
それにどれだけノエルに反感を抱いていても、その人が本当に困っているのなら教えてあげるのだ。自分から教えてもらえるよう行って何度断られても、本当に困っていたら教えてあげる。その姿勢はノエルとはどういう人なのか、こういう人なんだという人物像が出来上がり、教会に浸透されていく。そして一旦確立してしまえば、自分の立ち位置が揺るがない。
3ヶ月も経つ頃には教会でのノエルの立場が、ほぼ最上位の位置に君臨していた。そうなると普通は頼られる立場なのだが、ノエルは一貫して自分からしか動かない。他人の意見より自分の都合で動くというスタイルなので、何でも相談が来るというのもない。
そんな3ヶ月を僕とアラン、オリガはただただ流されるように近くで見ていただけだった。3人ともノエルすごいという感想しか出てこない。
そんなこともあり、教会は平穏が保たれている。最初の頃の質問攻勢もなくなり、自分のやりたいことを出来ているのだから、ノエルに感謝感謝である。
最近はアランとオリガに僕は勉強を教えながら、ノエルと魔法の訓練をしているのが教会での立ち位置だ。
魔力を強化することで、僕とノエルのアイテムボックスの容量を増やすことが目的で、魔力が強くなれば少ない魔素で魔法が行使できるので、これは毎日やる必要がある。身体でいう筋肉や体力を鍛えているのと同じ感じだ。
ノエルは身体強化が得意なので、こういう座って魔力強化を行う訓練は結構派手だ。なので僕がノエルの出している光の玉などを魔法で抑え込んで、なおかつ自分の光の玉を出している。実際魔法では抑え込む方が力量がいるので、僕の方が魔法的には消費しているのだが、僕は魔法の隠匿が得意なので、傍から見るとノエルの方が魔法が強いように見える。
最初これにはノエルが納得しなかった。ノエルは僕が褒められると自分がドヤ顔するからね。他の人からどう見られているのか、教会の立ち位置を作り上げた感じから分かるように、本能的に察している。しかし僕はあまり目立つことが好きじゃないし、ノエルが褒められれば僕も嬉しいと説得する。
「そうよね、確かにそうだわ」
何が確かなのかわからないが、深く頷き今では教会でこのような訓練になっている。今更ノエルが目立っても気にする必要が無いからね。領主の娘ってだけで十分目立ってるし、容姿も普通に目立つのだから。
それに抑え込んでいると言っても、僕達はまだ5歳だ。普通だと魔法を習ったばかりの歳なのに、魔法を使っているのだから、十分目立っている気がする。
僕がノエルを説得する際に、あまり目立つことが好きじゃないと言ったとこで、アランとオリガが僕に驚きの顔を向けたのをわかっているのだ。
「魔法だけ目立ってると思ってるフィルもどうかと思うけど……」
「絶対わかってないのよ。自分の容姿に。ノエルがいつも隣にいるからなおさら…」
アランとオリガが2人で何か言っているが、よく聞こえなかった。大方魔法で目立っているのに気づいてなかったのかとでも思っているのだろう。
魔法に関してはあまり妥協したくはない。いま1番好きなことなのだ。
魔法が使えるだけでより良い生活が送れるのだから、毎日の魔法訓練も苦ではない。そう魔法なら苦ではないのだ……
「そういえば、来週に講師が来てくれるってシスターが言ってたぜ」
この教会は11歳までの子供が学ぶために通っている。成人は15歳だが、その前には自分のなりたい職業を決めないといけない。そこで不定期だが実際にその職に就いている人が、どのようなことをしているか講義に来てくれるのだ。
「アラン、それ誰が来てくれるかも聞いた?」
「えっとな……お風呂みたいな名前だったぜ!」
「それじゃわからないよ。職業だけでもわからないの?」
お風呂みたいって何なんだ、お風呂はお風呂だろ。
「冒険者だったはずだぜ」
「冒険者か」
冒険者とは冒険者ギルドに登録している人達のことだ。僕の両親やノエルの両親もそうだが、冒険者でも何をやってるかは人それぞれ。採取を専門にしている人や、魔物討伐を専門にしている人、冒険者ギルドから依頼された仕事をこなすのが冒険者という括りになるので、どんな人物が来るのかは職業が冒険者だけだとわからない。
「どんな人が来るんだろうね。優しい人だといいけど」
食堂の娘であるオリガは、手伝いで食堂に来た冒険者を見たことがあるだろう。冒険者といっても、僕やノエルの両親のような人もいれば、荒くれもののような人もいるだろうからな。まぁ流石にシスターが講師をしても大丈夫な人だという人しか、講師が出来ないのだから、大丈夫だろう。
「シスターに聞いてきたわよ。講師に来るのはオロフですって」
オロフって確か僕とノエルの両親と一緒にパーティを組んでいた人だよな。冒険者での立ち位置はスカウトのはず。会うのも久しぶりだな。
しかし、アランよ、お風呂はないだろう。まぁ似てなくはないけどさ。
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