第32話 オロフ

「自分もこの村に住んでいるので、直接話はしなくても見たことはあるかもしれないが、改めて自己紹介すると冒険者で今は村の警備の職についているオロフだ。よろしくな」


 今日は不定期に講義が行われる、実際にその職についている人から話を聞ける授業だ。今回は冒険者で現在は村の警備を担当している、オロフさんが講義に来ている。

 オロフは濃い灰色の短髪で、体は比較的小柄だ。だが鋭い印象のある目と雰囲気が普通の村人とはちょっと違う。


 冒険者という肩書は男心をくすぐるのもあるが、オロフの雰囲気にのまれているのか、いつも授業でふざけて遊んでいることがある連中も大人しく聞いている。


「まずは警備の仕事について話すか。まず警備の職に就きたければ、この村では自警団があるので、そこで仕事をすることになる。さて、その自警団はどんな仕事をしているか答えられるやつはいるか?」


 周りを見回し、手を上げている男の子を指名して答えさせる。


「魔物が襲ってきたときに戦う!」

「まぁそれも間違ってはいない、他は?」


 次は違う子に当てる。


「村に入って来る人に何をしに来たのか聞く」

「そうだな、村の入り口に人がいるのも、警備の人だ」


 次々手を上げている子に答えさせるが、大体同じ感じの答えが多い。


「これで大体聞いたな。みんなが思っている内容は要約すると、村に危険が無いか、危険があった場合、それを対処する仕事という認識だな。概ね間違ってはいないが、むしろそれよりも細かいところの方が重要で、主な仕事になる」


 そう言いながら、黒板にみんなから聞いた仕事内容を書き、その上で実際の仕事内容を書いていく。


「自警団で請け負っている仕事は思ったよりも多い。先ほど言っていた村の入り口で怪しい人物が村に出入りしていないかを監視する仕事。出入口だけでなく、村を実際見回って警備を行う仕事。この辺りは交代制だが毎日行っている。後は公共の施設の点検、例えば小麦を挽く水車は領主の持ち物になるが、あれは村のみんなで使っている。その水車などに不備が無いかの点検なども仕事に入る」

「水車とかの点検は大工さんとか作った人が点検しないの?」

「そう思うだろうが、それはむしろ壊れていた、もしくはうまく動かないときに修理する人だから、点検は自警団で行っている。そもそも自警団を雇っているのは領主になるからな」


 なるほどとみんなが頷く。まぁ作る職人の方が詳しいだろうが、そうすると職人の仕事が多すぎるからね。


「後は村人同士で諍いがあった時の仲介もうちらの仕事だ。後は道路の点検や領主が仕事で遠出が必要なときの護衛任務も仕事になる。そしてそれ以外の時は主に訓練だな。剣や魔法の訓練をしておかないと魔物や護衛任務の仕事でいざという時動けないからな。大体こんな感じだが、簡単にいえば村が円滑に機能するための縁の下の力持ちが自警団の主な仕事だ」


 説明しながら黒板に仕事内容として監視、点検、護衛、訓練と書きつづる。


「こんな感じで派手さは無いかもしれないが、この村が好きで守りたいとか、勉強が苦手なやつでも仕事をしながら覚えられるからオススメだぞ。あと給与は領主が出してくれるからな、自分で稼がない分、安定な仕事でもある」


 そう締めくくるオロフ。まぁ体を動かすことが好きな人はいいかもね。日常的に訓練があるだろうし、給与は領主が出してくれるので安定はするだろう。


 年齢的に成人に近い子達は、真剣に話を聞いている。勉強が苦手でも大丈夫ってところや稼ぎが安定って話は惹かれるだろうな。


 まぁ僕は魔法はいいけど、剣の訓練は遠慮したいので、お断りしたいところですが。






「さて、自警団の仕事はこのくらいでいいな。次に冒険者について話すとしようか」


 冒険者という単語が出ると、数人の男の子達から元気のいい返事が出る。やっぱり冒険者というのは憧れの職業でもある。実際に冒険者の冒険譚などは庶民の娯楽でもあるし、本や歌劇でも登場される人気のジャンルでもある。娯楽の少ないこの世界では特に注目されることだろう。


「それじゃさっきと同じように冒険者がどういう仕事なのか、みんなの考えを答えてくれ」


 先ほどと同様に冒険者がどのような職業だと思っているのかを聞き、黒板に書いていく。魔物討伐がやはり主だった答えだ。その他に採取なんかもある。


「こんな感じかな。やはり魔物討伐の意見が多く、その他に採取という感じか。それじゃ冒険者のことについて話していこう」


 魔物討伐と採取を黒板に書いた後、みんなに向き直って話す。


「まず意見が多かった魔物討伐だが、なぜ冒険者が魔物を討伐するのか、それが重要になる。冒険者がなぜ魔物を討伐するかわかる人は?」

「危険だから」

「そうだな、それもある。他には?」

「魔石が必要だから?」

「確かに魔石は需要があるからな、他は?」


 思い思いに答えるが、大体はこの2つくらいの意見しか出ない。


「フィル、お前はわかるか?」


 ずっと手を上げていなかった僕にオロフが指名してきた。ニヤリと笑わないでほしい。


「討伐対象の魔物を依頼している人がいるから」


 僕の答えが気に入ったのか、頷き黒板に書きながら説明を始める。


「そうだ、魔物はただ討伐すればいいというものでもない。冒険者というのは冒険者ギルドに登録することで、冒険者ギルドに依頼された仕事を受けることができる。そこに特定の魔物を討伐して欲しい依頼があって、それを討伐することで初めて金を稼ぐことができる。もちろん依頼されていない魔物を討伐し、魔石やその魔物の素材を売れさえすれば金は手に入るが、魔物討伐とは危険な仕事だ。依頼されたものを討伐した方が金になるし、依頼を達成したらギルドランクが上がることも重要だ」


 黒板に討伐依頼とギルドランクの詳細を書く。これは主に登録時に説明される内容だそうだ。


「このギルドランクというのは依頼内容がランク分けされていて、F、E、D、C、B、A、Sの7つランクがある。Fランクの冒険者はFランクしか受けれない。依頼をこなしギルドランクが上がることで、初めて上のランクの依頼を受けることができる。ギルドランクが上がる目安はギルドが決めるので、冒険者本人にはわからない。だが基準は依頼達成数と達成内容とされている」


 明確な基準は冒険者には知らせていないのか。達成数のみだと問題があったのかもしれないな。不正とはどこにでもあるものだ。


「討伐依頼もそうだが、他には先ほども出た採取依頼、町を移動する商人などの護衛依頼、街中で臨時の手伝いが欲しい場合の依頼なんかもある。大農園を抱えている豪商だと畑仕事なんかもあるぞ」


 そう言ってオロフは笑う。畑がある村人の仕事と変わらないと。


「ランクが上がれば冒険譚で聞くような依頼もある。うちの領主様がそうだな」


 そう言ってノエルの方を見る。周りの子供達もノエルを見るが、ノエルは特に気にした風もなくリアクションもない。


「このように冒険者はギルドに仕事の依頼があれば、自分のやれる範囲の仕事をする職業と言える。もちろんランクが上がれば上がるほど達成時の金額が跳ね上がるが、その分危険度も跳ね上がる。ぶっちゃけて言えば職業の中で1番なりやすく、そして金の稼ぎが自分の実力に比例するシビアな職業といえる。そして犯罪奴隷がよくおこなう鉱山採掘の仕事があるが、あれは事故死亡率が高いため犯罪者に行わせていることが多い。その死亡率の次に多い職業であることも覚えておいて欲しい」


 最後は脅しながら冒険者についての説明を終えた。それだけイメージとは違う過酷な職業なのだろう。実力主義、その言葉が1番ピッタリくる職業だと言える。


 憧れだけで職業を決めるなと暗に語っているのだが、子供達は気づいただろうか。それがオロフの優しさでもあるのだ。

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