第15話 独自魔法
季節は廻り、村近くの森でも新葉をつけ、朝晩はまだ寒いものの、日の光はぽかぽかと暖かい春の季節。僕ことフィルは4歳になりました。
行動範囲も広がり、近くの平原の他にも川にも遊びに行けるようになった。川向うの森は魔物が出るので、川は渡らないようにと約束させられた。
魔法訓練も毎日欠かすことなく行っているため、魔素量も魔力もどんどん増え続けているのをのを実感している。
父さんが1度フィルは才能があるから、王都の学校に通うかと言ってきたが、母さんが私が教えるから大丈夫だよね、と僕にウルウルした目で訴えてきたので、僕としても特にわざわざ王都の学校へ行く必要性も感じなかったし、今世はのんびり過ごすことを決めている僕としては、母さんの言葉に同意した。
母さんは目に見えて喜んでいたし、父さんも苦笑いしていたが、それで話は終わった。その代わりと言っては何だが、5歳になると父さんが剣の稽古をすると宣言。これには母さんは反対しなかった。
僕としてはそれを反対して欲しかったが、まぁ体力づくりと割り切って渋々了承した。ノエルに話したら父親で男爵であるイシスさんにフィルと一緒に剣の稽古をすると、お願いというなの決定報告みたいなことをして、僕と同じく5歳から父さんに教わるみたいだ。イシスさん的には貴族令嬢らしくさせたかったみたいだけど、ノエルに甘々なイシスさんのことだ、嫌われたくなくて反対できなかったのだろう。
デリアさんは特に反対することもなく、ノエルのしたいようにさせている。もともと貴族だったわけじゃないからね。それになんとなくだが、ノエルの性格って前世も引きずっているのだろうが、デリアさんも本当はそんな感じではないのだろうかと最近思ってはいるが、そんなことを本人の前で考えるだけで、何か言いたいことがあるの的な視線と言葉を投げかけてくるので、僕は黙秘を貫くことにしている。
母さんもそうだが、上手く生きていくコツは女性にはあまり逆らわないことである。
4歳になっても日常は特に変わらない。今日も魔法練習のため平原に来ているのだが、基礎的な魔法も母さんに教えてもらい使えるようにもなったことで、ここは節目としてそろそろ試したいことがあった。それは前世の知識を利用した独自魔法の習得だ。
この世界独自のエネルギーともいうべき魔素、この本質はまだまだ分からないことが多いのがこの世界の現状らしく、わからなくても日常生活を便利にできることは本能的にわかっているので使ってはいる。専門分野の研究者でもない限り、今使っている魔法は歴史の中で作られた既存魔法を本の知識や伝聞で広まっているに過ぎない。
魔法はイメージを基に現象を起こす。それはむしろイメージやその知識がなければ使えないということだ。
今後どのようなことがあるかわからないこの世界で、スローライフを求めるのならば、前世の知識を使い、独自魔法を開発した方がいいのではないかと思ったのだ。
まずやってみようと思ったのが定番の鑑定魔法だ。だが、これは最初からつまずいた。鑑定とは自分の知らない情報を知る魔法であるので、この世界の魔法とはむしろ相性が悪い。イメージや知識があって初めて現象を起こすのに、それを知りたい魔法など作れるわけがない。
判別魔法はある。魔道具などでも使われているが、それは情報があってそれを精査しているに過ぎない。よく使われるのが魔力紋の違いだ。指紋認証に近いが精度はこちらの方が上だ。
次に考えたのがアイテムボックス。これも異世界転生では定番の魔法であるし、使えるようになればとても便利な魔法だ。しかしこれも難易度はべらぼうに高い気がする。前にも話したが、3次元にある物体を4次元へ収納する魔法と仮定した場合なので、使えるようになればいくらでも収納でき、時間さえ止まる。レリックとしてはあるらしいので、魔法でも使えそうな気がするのだが、魔法を使うためには空間へ干渉するイメージとそれを可能にする魔素、そして魔力が必要になる。
うん、さっぱりわからない。本当に使えるようになるとか疑わしいぐらいだ。
平原で1人あーでもないこーでもないと唸っていると、後ろから脇をかかえいきなり抱き上げられた。
驚いて情けない声を出しながら後ろを向くと、ノエルがいた。身体強化魔法を使い僕を抱え上げて驚かそうとしたみたいだ。顔はしたやったりと語っている。
「もう、びっくりするじゃないか」
「遠くから声をかけたのに気づかないフィルが悪いのよ」
どうやら考え込んでいて気が付かなかったらしい。拗ねたように僕のせいと口にするノエル。
「ごめんごめん、ちょっと考え事しててさ。そうだ、ノエル相談に乗ってよ」
「めずらしいわね、いいわ。私に話してみなさい」
頼られたのが嬉しいのか、鼻息荒く身を乗り出すノエル。話すのはいいんだけど、そろそろ降ろしてくれないかな?
とりあえず降ろしてもらい、向かい合って座る。今日はカエラさんはいないのか聞くと、さっき昼ご飯食べて部屋にいたら窓からフィルがいるのが見えたから来たとのこと。カエラさんは別にノエルの食事のためだけにいるわけじゃないからね。
「魔法もそろそろ慣れてきたし、前世の知識を使って独自の魔法を作ったりできないかと思ったんだ。それでアイテムボックスみたいな魔法が作れないかと思って、色々考えてただけど」
先ほど考えていたアイテムボックスの理論をノエルに説明する。最初は普通に聞いていたが、段々眉間にしわが寄っていき、最後の方になると呆れたような目で僕を見る。そして一言。
「バカね」
ひどい。
「あのね、そもそも前提が間違っているの。この世界は地球とは概念が違うって女神様も言っていたでしょ?フィルの考え方は知識があるからイメージが出来て、魔法が出来るってなっているけど、知識はイメージするための補完でしかないの。イメージさえ出来ていれば知識は必要ないわ」
頭を鈍器で殴られたような衝撃を受ける。僕は口を開けたままノエルの話を聞く。
「だいたい、風はなんで吹いているなんて普通の人がわかるわけないじゃない。だけど生活していれば感じるし、何かで扇げば風が出ることはわかっている。風が吹くというイメージさえあれば、風が起こる現象なんて知らなくても魔法は使えるのよ」
そういいながら、実際に魔法で僕の顔にそよ風を送るノエル。銀色の前髪が揺れるが、そんなことよりも内容が衝撃過ぎてまだ頭で処理しきれていなかった。
僕が茫然としたまま座っているのをいいことに、ノエルは説明し終えても動かない僕に飽きたのか、僕の膝に頭を乗せて寝る体勢に入る。
ノエルの言ったことを考えながら、僕はノエルに質問をする。
「そうするとイメージだけでアイテムボックスは作れるってこと?」
横を向いて欠伸をしながら寝ているノエルは、ちょっと考えた仕草をしたが、すぐにこちらに向き直る。
「フィルの考えているアイテムボックスがどういうのかわからないけれど、出来るはずよ。とりあえずやってみましょうか」
そう言って起きて座り直すとまずイメージから話始める。
「アイテムボックス、インベントリ、何でもいいけど物を入れる空間がまず必要だわ。何もないところから出し入れするための空間を繋ぐ入り口も必要ね。時間経過しないのは結構難しいから今は無しにしましょ。まずは物を入れる空間を作るのよ」
「わかった」
「最初は本当に小さい空間をイメージするの。サイコロぐらいでいいわ。それがどこにいてもそこにあるようにイメージして。この平原にいても、フィルの家にいても、歩いているときでも常に自分のそばに一定の空間があるイメージ」
目を閉じ、手のひらを上にしながら、そこに浮かぶ透明の立方体を思い浮かべる。ほんの小さなサイコロぐらいの立方体だ。手をどけてもそこにあるようにイメージし、さらにそれをイメージしたまま今いる平原をイメージする。
3歳の頃から魔法の練習でいつも来ているから、周りの景色はよく知っている。そちらばかりに思考していると透明な立方体のイメージがおろそかになるので難しい。
「とりあえずそのイメージを訓練しなさい。どこにいても何をしてもそのイメージが明確になるようにするの。まずはそこからよ。それがイメージ出来るようになったら、その立方体に魔素を詰め込むイメージをするの。そこまでが第1段階ね。成功の目安は魔素で出来たの立方体が思い通りに動かせるようになることよ」
目に見えない魔素を感覚で立方体をイメージし、それを思い通りに動かす。なかなか道は険しいようだ。
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