第37話 歴戦の冒険者
対戦相手が決まり、最初はノエルが模擬戦をすることになった。相手は元Bランク冒険者で自警団結成当初から所属する人である。
ノエルの模擬剣はバスターソードタイプで片手でも両手でも使える武器を持っている。相手は片手剣と小盾のスタイルだ。
お互いに適切な距離を取った後、オロフさんの開始の合図で一気に加速して距離を詰めたのは、いつも通りノエル。相手は冷静に盾を前に構え、身体強化しながら受け身の構え。
「はっ!」
カッカッ!
短い時間に2回音が鳴る。両手で袈裟斬りを行い、盾で受け流した後、そのままノエルが強化魔法で片手のまま斬り返す2連撃。むしろ斬り返しの速度の方が早いので、これでやられる人が多いのだが、さすが歴戦の冒険者というところか。まぁこの自警団で訓練も結構しているから、若手以外では見慣れた技でもあるが。
2連撃を受けたとき受け流しが甘かったみたいで、カウンターはせずノエルが距離を取るのと一緒に距離を離す。
一呼吸置いた後、再びノエルが加速し距離を詰める。今度は身体強化込みで加速なので、先ほどよりも早い。この辺りの緩急の付け方はやはりノエルは上手い。感覚的にやっているから自覚はあまりないらしいけど。
「やあっ!」
今度は片手のまま袈裟斬り、斬り返しの2連撃。
「ふっ!」
受け流されたのでカウンターが来る。バックステップで避けると今度は一呼吸置かず、すぐに詰め、胴体へ突きを放つ。
右半身を後ろに、左手の盾で受け流すように逸らす。突き出された剣を両手持ちにして水平斬りの右薙。
「ぐっ!」
それを盾できっちりガード、盾でバスターソードを押し返そうとするが、押し返した力を利用し反時計回りに高速回転して片手水平斬りの左薙。
「ぐはっ!!」
体勢を崩しながらも、盾で受け止めるが、そのまま盾を弾き返され、体勢をさらに崩されたところを斬り上げ胴をされフィニッシュ。
身体強化して模擬剣とはいえ痛そうだ……
「それまでっ!」
オロフさんの合図で互いに礼をし握手する。
「大丈夫ですか?」
「いててっ、これくらい大丈夫だよ。しかしノエルちゃん強くなったねぇ」
「自警団のみなさんが訓練に付き合ってくれているおかげですから」
「そう言ってもらえると嬉しいね」
会話しながらこちらに戻ってきたノエルに、水の入ったコップを渡す。オロフさんの方では若手や新人に模擬戦の流れを説明している。見慣れてない人は特に最初の2連撃なんてわからなかったりするからね。
魔法ありの戦闘では、目で相手を追うことも大事だが、相手の魔法を感じることも大事だ。熟練者になれば、筋肉の動きで相手の動作をある程度予測できるように、身体魔法でも強化する箇所のどこが高まっているかで、強弱の攻撃が予測できるし、先ほどフィニッシュの胴へ攻撃されるときに、そこへ身体強化を上げることで、ダメージの軽減もできる。あの辺りの咄嗟の判断はやはり歴戦の経験が生きてくるのだろう。
ノエルは相手にしたらどこを身体強化魔法してるかは感じやすい。なので一見相手しやすいように見えるのだが、その強化魔法速度が異様に早い。強化魔法は全体を均一に強化しているのが一般的だが、それだと魔素の燃費が悪いため、熟練してくると要所要所で強化度合いを変える。
ノエルはその強化度合いを高速点滅しているがの如く変えてくる。しかも複数個所を感覚的に行っている。なので初手の2連撃で速度差があり、あれでやられる人が多いのもノエルの特徴と言えるだろう。
あちらの説明が終わったようで、次は僕の模擬戦だ。
「今日はどんな感じで行くの?」
「相手によるけど……」
僕の対戦相手を見ると、片手剣の盾を持っているが、あの人は知っている。
「魔法師タイプだね」
「そうだね、それじゃ3つかな」
「了解、これと、これと、これでいい?」
「うん、ありがとう」
ノエルからショートソード2つと短剣を1つ受け取り、短剣は取り出しやすいように腰につけ、両手に2つ持ち開始位置に移動する。
若手や新人達は僕の姿を見て首をかしげる。まぁ初めて見る人はそうだよね。
「今日は3つか、相変わらず多彩だね」
「僕と同じタイプの人はなかなかいませんから、この訓練できるだけでもありがたいです」
「そう言ってもらえると嬉しいね。自分もフィルくんから色々教わっているから、この歳でまた強くなったみたいだし、ありがたいよ」
「よかったです。よろしくお願いします」
同じ魔術師タイプなので、魔法について聞かれたこともあったんだよな。高ランク冒険者は貴族対応にも秀でているので、特に魔術師タイプはこう脳筋っぽい外見をしていないせいか、物腰も柔らかく話しやすい。
開始位置に着いたところで、オロフさんに目線で開始了承の合図をする。
「それじゃ、はじめっ!」
開始とともにいつも通り初手は観察から入るが、魔法ありの場合は僕の通常時よりさらに魔力領域を意図的に広げる。
人型に保っている魔力領域が効率のいい形である自分を中心とした円で広がってゆく。魔力領域を広げるメリットは、領域内であればどの場所からでも魔法発動の起点になること。領域内に侵入した相手の魔法威力が減衰すること。魔素吸収力が範囲内では高まること。領域内の感知が上がることなどがある。
そしてデメリットは、領域範囲は魔力に依存すること。広げる意識を持たないとすぐに人型の表層のみになるため、こちらに意識を割きたくない場合は邪魔になること。感知は領域内で無くても魔素を感知できるなら、必要ないことなどである。
このことから、基本は仲間に守ってもらっている時なら使えるが、自分が戦闘中だと難しく、デメリットの方が目立つため、このような1対1では使わないことが多い。
実際先ほどのノエルなども広げることはしていない。しかし、僕の場合はアイテムボックス作成の練習で意識を割かなくても領域維持が可能なこと、そして僕の魔法特性と相性がいいため、領域を広げることがデフォルトになっている。
「ストーンボール!」
相手の詠唱で拳大の塊が飛んでくる。避ける動作を最低限にしながらも、僕の領域に侵入した魔法は威力減衰が行われ、魔素的威力と物理的威力が減衰していき、ただの石の塊と化したところで、無属性魔法である『フォース』で横にずらす。
『フォース』は物を動かすときによく使うので、これもあまり意識を割かずに出来るし、魔素消費としても最小限、そして何より重宝しているのが、僕の特性と合わせると、魔法を発動しているのかさえも、感知できないくらい隠密性が高いことだ。
感知能力が低いと、魔法をギリギリ避けているように見えるため、次は当たるかもしれないと思わせることができる。しかし実際は魔法で防御しているため、当たることは無い。これにわからず魔法を続けると、魔素消費では僕に分があり、当たらないことに気づいたころには精神的にも、追い込まれることになるという寸法だ。
その後同じように数発魔法が打たれるが、当たることは無い。
「やはり当たりませんか。相変わらずですね」
「誉め言葉として受け取っておきます」
まぁここにいる古参の人達は知っているので、それほど驚かないだろう。若手や新人達は感知が出来ないだろうから、僕がただ魔法を避けているように見えるだろうし、むしろ相手の魔法が下手なのではと思うかもしれない。そこは申し訳ない気分だな。
「やはり遠距離ではこちらに分が悪いですね。接近戦は得意ではないのですが……行きますよ!」
相手が盾を構えながら突っ込んでくる。得意ではないと言いながらも、若手や中堅よりも早い速度で接近してくるのだから、高ランクというのは伊達ではないのだ。
いよいよ接近戦が始まる。
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