第38話 接近戦
盾を前に構えながら突っ込んでくる。右手のショートソードから短剣に持ち替えながら、魔力領域をさらに広げる。
「っ!」
魔力領域に近づくと相手の領域に押されるので、その瞬間に短剣を投擲する。投げた後またショートソードを装備し直している間にも、短剣を『フォース』の魔法で加速させ威力を上げる。投げた後の方が加速するので、これをやられるとわかっても大抵意識をそちらに持っていかれる。
案の定、受け流せず盾で弾くに留めた相手は、一時的に停止する。その間に魔力領域をさらに高め、相手を包み込むようにしながら、相手に追撃する。相手の魔力領域に触れると減衰するが、僕は魔素量が多いし、魔力が高いため、気にせず魔素を消費して魔力領域を維持。
体の小ささと盾の死角をついて、相手の左側に移動しながら左脇腹を右手のショートソードで袈裟斬り。これを再度盾で防御する。短剣の投擲、死角を突いての追撃、この辺りを冷静に対処してくるのは、さすが熟練の冒険者である。
しかし僕の追撃はこれで終わりではない。ここで魔力領域を広げているメリットを生かし、弾かれて落ちている短剣を『フォース』で再び下から胴目掛けて投擲。魔法特性を生かし魔素感知されないように隠密性を高める。
「くっ!」
魔素感知ではなく、気配で短剣が飛んできたことを感知した相手は、盾で僕の剣を受けているので、装備しているロングソードで無理矢理に短剣を払う。
両手が塞がれている状態で、今度は左手に持ったショートソードでさらに追撃をする。さすがに防ぐことができないので、バックステップで距離を取ろうとするが、またそこに嫌らしく短剣が『フォース』の魔法で追撃し、その後を追うように僕自身も追撃を行う。
3つ武器を使う場合の僕の攻撃スタイルは、基本こんな感じだ。ぶっちゃけ僕自身も相手にしたくないぐらい嫌らしい。
この攻撃スタイルでの対策の1つは、短剣を魔力領域外へ吹き飛ばす、または短剣を掴むことで、自分の魔力領域へ引き込み、こちらでの魔法操作を無効にすることだ。
相手は距離を取り、魔法で短剣を吹き飛ばしたいところだろうけど、近接戦闘をしながら魔法は結構難しいし、僕は相手に追撃して魔法発動を邪魔しないようにしながら、魔力領域内に敵を入れることで、発動されたとしても魔力減衰が起こり、なおかつ短剣を自分の魔力領域内で移動させるため、発動させる魔法の威力が弱くなり、しかも当てづらいようにしている。
数度の交戦の間に魔法を発動するも、短剣を無効化できないまま、最終的にそのまま僕の剣が首筋に止まり、オロフさんから終了の合図がかかる。
お互いに礼をし、握手を交わす。
「わかってはいたけど、相変わらず魔法発動が読めないよ」
苦笑しながら戦った感想を漏らす。
「それがわかると短剣の動きだしとかに魔法を合わせられて、すぐ無効化されちゃいますしね」
「そうなんだけどね。まぁ感知できないからこその戦法なんだろうけど、実際やってみても対応は難しいよ」
「ありがとうございます。そう言っていただけると自信になります」
5歳児に負けてもちゃんとこういう言葉をもらえる辺り、できる人って感じだ。高ランク帯の冒険者はこうした人が多いので、ここの自警団は父さんが団長というのもあるが、とても過ごしやすい。冒険者ギルドがないので、実際に冒険者をしていた、しかも高ランクの人から話を聞けるのはとても貴重だと思う。
対戦相手と別れてノエルのとこへ向かう。あちらは今の戦闘についての意見交換をオロフさんと若手たちと一緒にするみたいだ。
「おつかれさま」
労いの言葉とともに、コップを渡してくれたので、それを受け取り魔法で冷たい水を出して飲む。激しく動いた後の冷たい水は美味しいね。
「決着するまで結構時間がかかったわね」
「そうだね、結局のところ模擬戦で使える魔法って限られてくるし、魔法も身体強化とフォースしか使ってないからね。1人で2人相手できる人で実力差があるなら、普通にこっちが負けるよ」
フォースで短剣を飛ばしてるだけだからね。
「フィル相手に実力者って、それこそうちのパパママやフィルの両親クラスになるでしょうに」
「そうだね」
父さんにはまだ1度も模擬戦で勝ったことないしなぁ。
「しかもそれ試合形式の場合だけでしょ?」
「試合じゃない、たとえば魔物とかの戦闘ならそもそも近づかないし、気づかれないようにするさ」
威力の低い魔法の方が逆に難しいよ。相手に怪我させないようにしなきゃいけないし。
「ちゃんと魔物相手の魔法も考えてる?」
「……まぁ一応ね」
「それならいいのよ」
この世界は前世と違って、魔物が普通にいる世界だからね。その準備は怠らないように鍛錬してるし、何をやるにしても力があって困ることは無い。
ノエルと話している間に、オロフさんの方も終わったようだ。違う団員に引き継いでこちらに来る。
「お疲れさん。結局今日も負けなかったか。若手達が自信喪失して大変だったぞ」
そう言いながら苦笑して引き続き鍛錬している若手達を見やる。
「そう言われても、痛いのは嫌ですし」
「負けるのは嫌いだわ」
それぞれの言い分にお手上げのポーズを取りながら、帰り支度をして訓練場を後にする僕達についてくる。
「まぁでも若手達にはいい刺激になっただろう。また暇なときにはいつでも来てくれよ」
訓練場から出るとオロフさんは立ち止まり、僕達に別れの挨拶と一緒に訓練に誘ってくる。
「そうね、実践訓練が必要なときはフィルと一緒に来るわ」
あ、僕も一緒なの確定事項なのね。一人で行ってもいいんだよ?
僕は何も言わずオロフさんから目をそらす。僕達を見ながら苦笑するオロフさんが、僕の頭を撫でる。
「相変わらずだな、坊主は。お嬢よろしく頼むよ」
「ええ、まかせなさい」
自主練で間に合ってると思うんだけどなぁ。これは何だかんだいいつつ、ノエルに連れ出される予感がするよ。ノエルはここで模擬戦するの好きだからなぁ。僕とも模擬戦はしているけど、いつも同じ相手だとね。
オロフさんに別れの挨拶をした僕達は、そのまま家路に帰る。当初の目的は父さんにお弁当を持ってくるだけだったんだから。それに丁度帰ればお昼ご飯の時間だろう。
「今日のお昼ご飯は何かなぁ」
「アリシアさん料理上手だし、楽しみね」
「とりあえず先に汚れ落としたいな」
「そうね、先にお風呂入りましょう。フィルならすぐ魔法で入れれるでしょ」
「ノエルもできるじゃないか」
「お風呂入れるのに2人も必要ないじゃない」
ん?
ノエルの方を見ると特に気にした風もなく、隣を歩いている。気のせいかな?
「ノエルの家はいつも誰がお風呂入れてるの?」
「普段は魔道具だけど、すぐに入りたいときは私かママが多いかな」
「へぇ~今日は用意して無いだろうから、魔道具じゃなくノエルが入れることになりそうだね」
「フィルがいるんだから、フィルが入れるに決まってるじゃない」
あれ?おかしいな。話が噛み合ってない気がする……
「僕がノエルの家のお風呂入れに行くの?」
「何言ってるの?フィルの家に決まってるじゃない」
「ノエルがうちで入っていくの?着替えとか用意してないでしょ?」
「フィルの家に着替えがあるに決まってるじゃない。むしろなんで無いと思ってるの」
呆れたように僕を見るノエル。あれ、僕が変なの?
疑問符を浮かべながら家に着くと、アリシア母さんが料理をしながら出迎えてくれた。妹のシンシアもリビングルームにいたようで、僕に抱き着こうとしてくるが、訓練で汚れているからと抱き着くのを止めて、先にお風呂に入ることを伝える。
「そうね、先にお風呂に入っちゃいなさい。着替えは後で持っていくから、フィルお風呂のお湯お願いね」
母さんにお願いされ、いつも通りお風呂にお湯を入れに行く。ノエルとシンシアが着いて来るが気にせずお風呂に着くと、魔法でパパっとお湯を出して、完了っと。
「どうする、先にノエル入る?」
「すぐご飯食べたいんだから、一緒に決まってるでしょ?さ、入るわよ」
え!?
「シンシアも入る~」
そう言いながら2人が服を脱ぎ出す。いや、一緒に入るなんて聞いてないんだけど!
戸惑っていると、着替えを持って来た母さんが脱衣室に来る。あ、本当にノエルの着替えも持ってきてる。しかも何故かシンシアのまで……
「着替え持って来たわ。お風呂あがったらすぐにご飯にしましょうね」
この状況に疑問も持たず、着替えを置いてそのまま料理をしに戻って行ってしまう。
「ほら、フィルも脱ぎなさい」
混乱し茫然としている僕をよそにノエルが僕を脱がしていく。
え、あ、ちょっと、まっ、あーーーーーーーーー!
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