第25話 検証

 ついにこの世界に転生してきて、初めての新魔法「アイテムゲート」が完成した。目の前には僕のイメージにそって作られた鏡のような板があり、大きいものはこのゲートを通して物を収納する。


 小さいものは非常口として作った、魔法の袋のような入り口に物を入れられるようにしたので、さっきアリシア母さんの前で試したコップのような小物はこっちを使うと便利だ。


 自分の部屋を見まわし、アイテムゲートに入りそうなものを探す。自分で作った魔法だけど、何事も検証は大事だ。


 とりあえず大きいものとして視界にベッドがあったので、これで試してみる。


 身体強化をしながらベッドを持ち上げようとするが、片方が浮くだけでさすがに全部持ち上がらない。


 とりあえず持ち上げれるようなものにしようと、ベッドはやめて椅子にする。


 椅子を持って鏡のようなゲートを潜らせようとするが、壁に阻まれたかのように椅子と鏡がぶつかって、コンというドアのノックのような音がなった。


「あれ?入らないな」


 疑問を口にしながら、入らないのでとりあえず椅子をもとに戻し、鏡に触れる。温度は常温と変わらず、何かの板を触っている感覚だ。


 ペタペタを他のとこも触るが、どこも同じで物が入るような感覚がない。


 これはどういうことだ?疑問が浮かぶが自分の作った魔法。自分がわからないんじゃ誰もわからないので、誰かに聞くこともできない。


 とりあえず一度アイテムゲートを閉じ、再度イメージしながら詠唱してアイテムゲートを開く。そして触ってみるが、何か入る感覚はなく、先ほどと同じようにどこを触っても板を触っているような感覚だ。


 鏡には困って首を捻っている僕が写っているだけ。


「魔法自体は発動しているのに、物が入らない。これじゃただの鏡だ」


 まぁ家に大きな鏡が無いので、便利は便利だ。などと意味のないことを考えながら、なぜ物が入らないのか色々検証してみる。


 またゲートを閉じ、今度はアイテムボックスを開く。机の上にある本を取り、入り口に近づけると、コップのように入っていき、ちゃんと中に入る。


 こっちのバックドアはちゃんとイメージ通りにアイテムボックスとして機能していることはわかる。


 あと入れれそうな物は…こうしてみると僕の部屋ってあまり物がないな。魔法にばかり時間を使ってたから、遊ぶ物というのもないし、本ばかりだ。


 仕方ないので、違う本をまた入れてみる。さっきと同じように2冊目も入っていく。あとは書くときのペンとインクも入るし、服も入る。


 とりあえず片っ端から入るか入らないか検証するために入れていくけど、今のところ全部入る。う~ん、何がダメなんだろう。


 そう思いながら、ある程度入れていったとき、入れようとした本が入らなくなった。


「あれ?」


 それでやっと気づいた。容量だ、中に入る大きさが限界なのだと今更ながらに気づいた。今入れていった物を全部出してもゲートの大きさの4分の1も入らない。


 そりゃゲートが使えないわけだよ。中に入る容量がゲートより小さいって使えるわけがない。魔法だから入ってもよさそうだが、僕のイメージで大きいものがゲートで小さいものがバックドアと分けちゃったからなぁ。


 イメージ的にはドアを開けたら壁の一部に小窓がついている感覚か、もしくは容量をゲートの大きさにしたら、手を入れても手首までも入らない薄さしか入らない感じなのだろうか。最初から入らないから入れようとしてもダメって感じなのかな。


 自分で作った魔法ながら臨機応変にかけるというか、慎重な性格がそのまま出ているというか…ノエルが同じのを作ったらゲートに投げて吸い込まれそうなイメージだからね。


 アイテムゲートが使えない理由がわかったので良しとしよう。あとは空間拡張のイメージをおこなっていき、亜空間を拡張していけば、時間はかかるだろうが、そのうちゲートも使えるようになるだろう。


 検証結果に満足しながら、散らかした部屋を片付けるのであった。






 午後になり、今日は教会に行く必要はないので、いつも通り平原へと出かける。


 昨日が遅くなったので、出かけるときに母さんに今日は早く戻ってくるようにと、注意されたので素直に頷く。今日は早めに戻ろう。


 平原に着き、寝転びながら自分の作った亜空間に空間拡張のイメージを魔力とともに流し込む。


 春先なのでまだちょっと風は冷たいが、新鮮な空気は気持ちがいいし、太陽も出ているので、それほど気温は気にならない、うららかな陽気だ。


 こういうのんびりした時間って大切だよね。


「フィル~~~~!」


 平原についてから10分もしないうちに、ノエルがこちらに向かって走ってくる。本当に勘づくのが早い。別にいつの時間にここにいるとは言ってはいないのだけどな。


 寝ている状態から起き上がり、座ったままノエルが来るのを待つ。そういえばノエルもアイテムボックスが使えるのだから、容量のことを聞いてみよう。


 そばに来て隣に座るノエルに挨拶しながら、今朝自分なりにアイテムゲートについて検証したことを話す。アイテムゲートが使えなかったこと、バックドアは使えたから入れてみたら上限があったことなど。


「容量についてはそんなにすぐには大きくならないよ。魔力領域と同じく魔力で大きさが増えるから、まずは自分の魔力が強くならないと」


 魔力に比例するなら拡張だけに時間を割く必要はないってことだな。広くしたいときに時々やるくらいでちょうどいいかもしれない。


 それに魔力で容量が増えるということは、魔道具でも同じ理由ということになる。大容量の魔法袋がレリック扱いなのもそれが理由かもしれないな。


 4歳から始め約1年、ようやく最初の目標でもあったアイテムボックスの魔法が完成した。こちらでの生活を豊かにするため、そしてまったりしたスローライフを目指すために、また必要になったら新しい魔法を作っていこうと思う。そのためには魔法の練習は欠かさないようにしないと。


 しかし、ノエルは僕の知らないことを結構知っているな。男爵が集めた本の中に書かれていたのだろうか?僕も借りて結構読んでいるはずだし、ノエルって勉強はあまり好きじゃなかったはずなんだけど、もしや僕に気づかれずに努力しているのかもしれない。


「ノエルのそういう知識は本当に役立つよ。貴族のマナーの勉強も大変なのに、色々調べてくれて。僕もまだ知らない知識だったから、よかったら今度その本貸して欲しいとイシスさんに頼んでおいてくれないか?」


 いつの間に取り出したのか、クッキーを頬張っているノエルに感謝とともに、僕のまだ見てないであろう本を借りられるよう頼んでみる。


 口をモグモグ動かしながらこちらを見るノエル。そして首を捻って疑問符の表情。


 お願いの意味がわからなかったのだろうか?


「さっき話した魔力の強さで空間拡張の領域が決まるって話だよ。僕の読んだ本にそういう知識はなかったからね。まだ読んでない本なのかも」


 さっきのお願いをかみ砕いて説明すると、納得といった感じで手のひらでこぶしを打つ。表現方法が古いな。


「本なんて無いよ。それに私が本あまり読まないの知ってるでしょ?」


 何言ってるんだ見たいな表情はやめてくれ。それはこっちが聞きたい。


「え、でもノエルは僕の知らないこと色々知ってるから」

「それはそうよ。最初に会ったとき言ったじゃない。サポートしてあげるって」

「うん、サポートしてくれるのはありがたいと思ってるけど」


 なんだろ、話が噛み合ってない気がする。


「じゃどこで僕の知らないこと色々調べてるの?」

「調べる?知ってること調べてどうするの?」


 ん?


「なんで知ってるの?」

「フィルのサポート兼任でこの世界に一緒に転生したんだから、知ってて当然でしょ?」

「知ってて当然?」

「そうよ、こっちに転生するときに女神様にフィルのサポートとしてこっちの知識も不自由しない程度は教えてもらったもの。特に魔法なんて地球にはなかったんだから」

「僕、教えてもらってないけど…」

「私がいるじゃない」


 そういって手を腰にあてて胸を張るノエル。転生条件は他人に任せるものじゃないなと心底思った瞬間だった。

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