第24話 新魔法「アイテムゲート」

「アイテムボックス出来るようになったわよ」


 それを聞いた僕は足を止めたが、ノエルはそのまま行こうとする。


「ちょ、ちょっと待って。え?出来たの?」


 先を行こうとするノエルを止めて話を聞こうとする。振り返るノエルは何でもないような表情で、何を驚いているのかわからないって感じだ。


「そうよ、一緒に練習してたんだから当たり前でしょ?」


 何が当たり前なのか僕にはわからないよ。


「僕まだ出来てないんだけど…」

「それはフィルが作ろうと思わなかったからでしょ。アイテムボックスの魔法を作ろうとしてからもう1年が経つのよ?出来ないほうがおかしいわ」


 なんだろ、また僕が悪いみたいな感じになってる。そりゃ最近は魔素操作ばっかりで魔法を作ろうと思わなかったけどさ…


「それじゃ僕ももう使えるようになってるのかな?」

「見た感じ魔素キューブも自然な感じだし、出来るんじゃない?あとはイメージの問題だと思うけど」

「ノエルはどんなイメージでやったの?」

「私の場合は何でも入って何でも取り出せるイメージね。整頓とかめんどくさいし」


 そう言って「アイテムボックス」と詠唱すると、ノエルの前に蜃気楼みたいに歪んだ空間ができる。そこに手を突っ込むとクッキーを取り出した。


「ほらね」

「本当に出来てる…」


 クッキーを取り出し終わると、歪んだ空間が消え、何もなかったようになる。本当に便利よね、なんて言いながら、呑気にクッキーを頬張っている。普通はこう初めて出来たときに報告するとかさ、いろいろ教え方があると思うんだけど、気にしすぎなのかなぁ。


 でもこれは良いことを聞けた。ついに僕もアイテムボックスを使うようになれるかもしれないのだ。ファンタジーでは定番も定番、これがなきゃ始まらないっていう魔法だからね。


 ノエルのせいで感動よりも驚きと戸惑いが先だったけど、じわじわとワクワク感の方が強くなってくるのが自分でもわかる。


 早速試してみたい衝動にかられたので、まだ時間もあるし家ではなくいつもの草原に行こう。


 2枚目のクッキーを取り出しているノエルに草原に行くことを言うと、何も言わずについて来たので、そのまま移動する。






 いつもの草原に着くと、そのまま地面に座り、意識を魔素に集中する。最近は意識を最小限にして魔素キューブを作ったまま生活しているので、意識を集中すればするほど魔素キューブに注ぎ込まれる魔素濃度が濃くなっていく。


 そのまま僕のアイテムボックスのイメージを明確に意識する。イメージは亜空間倉庫、整理整頓ができて大きめのゲートと簡単に取り出せる非常口の2つを持つ利便性を追求する。


 僕の作る亜空間はいつでも広げることが出来るようにイメージし、ゲート入り口が大きいものにしたいので、隠密性は難しいだろうが、認識疎外のようなものにしながら、通常は鏡のような魔法という特性を持たせる。非常口であるバックドアはさらに隠密性を強化し、魔素や魔力の動きで認識されないようにしながら、入り口の大きさを財布の小口のようなものから、バッグの入り口程度まで自由に変えられるような特性を持たせる。


 目を閉じこのイメージをずっと描きながら、魔力を魔素キューブに促す。イメージを明確に…


 どのくらい時間が経っただろう、目を閉じて集中しているので時間の感覚がわからないが、魔素キューブから感じる魔素が突然変わった。カチリと何かがハマったなんとも言えない独特の感覚を感じたので、目を開けると既に夕暮れになっており、赤い太陽が沈みそうになっている。


「出来たみたいね」


 横からノエルの声が聞こえる。魔素をだいぶ使ったせいか結構だるい。


「うん、出来た気がする」

「確認は明日にしましょ、魔法を使うときにも魔素を消費するわ」


 そう言って立ち上がり服についた汚れを払う。お姫様抱っことおんぶどっちがいいと聞いてきたので、自分で歩けると返すが、また同じことを聞いてきたので、これは聞いてもらえないと思い、おんぶをしてもらう。さすがにお姫様抱っこは勘弁してほしい。


 身体強化魔法が得意なだけあって、僕を軽々と背負うノエルに感謝の言葉を述べながら僕の家に送ってくれた。


 家に着いて出迎えてくれたアリシア母さんと妹のシンシアに最初は驚かれたが、魔素の使い過ぎでだるいだけだと説明すると、帰ってくる時間が遅いと怒られた。


 僕はそのままベッドに横になり仮眠を取る。ノエルは母さんが家まで送ってくれるようだ。シンシアはなぜか僕のベッドに潜り込んできたが、追い返す気力もわかないので、そのままにして眠りについた。






 のどの渇きを感じ、目が覚める。辺りは暗く何も見えないので、灯の魔道具をつけて足元を確保すると部屋を出る。もちろん一緒に寝ていたシンシアを起こさないようにだ。


 リビングとキッチンからは人の気配がしないので、両親もまだ起きてないのだろう。キッチンの魔道具の水よりも、冷たい水が飲みたかったので、家を出て井戸の水を汲みに行く。


 外に出ると朝日がちょうど昇るところで、まだ寝ぼけていた意識が覚醒するとともに、朝の新鮮な空気を吸って気分も爽快になる。井戸の冷えた水を汲んで飲み、ひと息ついたとこで一緒に顔を洗い、水気を風魔法で飛ばす。横着だがタオルを持ってき忘れたので仕方がない。


 家に入るとキッチンに人の気配、向かってみると母さんが料理支度をしていた。


「おはよう」

「おはようフィル。お腹空いたでしょ?今作るから待っていなさい」

「ありがとう」


 そういえば昨日はそのまま夕飯も食べずに寝ちゃったな。思った以上に魔素が消費したから、作った魔法は思った以上に規模が大きかったのかもしれない。


 食卓の椅子に腰かけながら、朝食が出来るのを待つ。そのうち漂いだすいい匂いが空腹を刺激する。


 用意してくれたのはベーコンエッグにトースト、新鮮なサラダとホットミルクという朝食はシンプルながらとても美味しかった。空腹は最高のスパイスだよね。


 食べながら一緒に腰かけた母さんが昨日はどうしたのか聞いてくる。前に母さんにはアイテムボックスのことを話したので、その魔法がたぶん完成したことを話す。


「たぶんって?」

「出来た感覚はあるけど、まだ使ってないんだ」

「今使えるの?」

「たぶん…やってみるね」


 最初はノエルに見せようと思ったけど、ノエルも僕に気軽に見せて来たし、まぁいいか。とりあえず最初なので意識を集中して魔法を発動する。イメージを乗せやすくするため普段しない詠唱をしながら発動する。


「アイテムボックス!」


 発動後自分の目の前に黒い空間が浮かぶ。ちゃんと出来ていることに感動し、ちょっとウルっときてしまった。


「どうしたのフィル、失敗した?」


 感動していた僕に母さんが魔法発動を感知出来なかったことに驚いた。そうだ、そういえばこっちのバックドアの方は隠密性を高めて作ったんだった。でも発動したのすらわからないのは、かなりやばめな魔法なのではないだろうか。


 内心冷や汗をかきながら、母さんにちょっと待ってもらって、一旦アイテムボックスを閉じ、見えるようにイメージしながら再度アイテムボックスを発動する。


「へ~これがアイテムボックスね。この黒い空間に物を入れるの?」


 今度はちゃんと見えたみたいだ。試しに何か入れてみようということになり、朝食で使用していたコップを黒い空間に入れる。


 コップはすっと入っていき、黒い空間に消えた。


「消えたわね。取り出せる?」


 母さんに取り出すよう言われたので、手を入れてコップを取り出す。これは本当に便利だ。


「すごいわね!本当に魔法の袋みたい」


 母さんもこれには感動したらしく、とても喜んでくれた。朝にしては騒がしかったのか、起きてきた父さんとシンシアにも何事かと聞かれたが、アイテムボックスを見せることで、母さんと同じように驚いていた。


 1人早く朝食を終え、部屋に戻るともう1つのバックドアではない方を使ってみる。こちらは門を意識したので詠唱も変える。


「アイテムゲート!」


 詠唱し魔法を発動すると、キラキラと1枚の板が形作られ、それは鏡のように僕を写していた。どうやらこちらも成功のようだ。こうしてこの世界に来て初となる新魔法『アイテムゲート』が完成したのであった。

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