第23話 アランとオリガ
「オリガは食堂の子だったのね、よく食べに行くわ」
「ノエルちゃん、来たの見たことある」
「そう、気が付かなかったわ」
人見知りっぽい感じだったオリガちゃんは、ノエルとよく話せているようだ。
「あのスープは絶品ね、いつも行くと頼むもの」
「そうなの、お父さんも喜ぶ」
「肉の焼き加減もなかなかの腕をしているわ。いい料理人ね」
「お父さん、料理上手」
うん、ノエルさんや。食堂で出るメニューの話しかしてないね。オリガちゃんのことも聞こうよ。
しかし食堂の子で人見知りは珍しいな。食堂で手伝っているのをみたことはあるけど、人見知りしている感じには見えなかったけどな。
「私を見たことがあるなら、フィルも知っているわよね。よく一緒に行くから」
「うん、知ってる」
やっぱり僕のことも知っているみたいだ。
「それじゃ改めてよろしく。食堂にいたときとは雰囲気が違うから、びっくりしたよ」
「お客さんは平気、仕事だから」
意外とドライな考え方だな。仕事とプライベートをちゃんと分けている感じか。それとも手伝っているうちにそうなったのか、まぁ大変そうだからね。
アランもオリガと話しているが、アランの父親が獲物を卸す先にオリガの店があるため、こちらは面識があるようだ。
「今日はあと見学って感じで終わりかな」
「そうね、まぁあまり新たに習うこともないでしょうけど」
ノエルは特にそうかもね。僕もノエルの家の本は結構読んでたし。
「習うことが無いってなんでだ?」
「ノエルちゃんは領主の娘」
「そうだったのか!でも普通はドレスとか着るんじゃないのか?」
アランの問いにオリガが答える。まぁ服装は令嬢っぽくないからね、今日も動きやすさ重視だし。
「四六時中ドレスなんて着るわけないじゃない。動きやすい服でいいわ」
「そりゃそうか」
ノエルの言葉にアランも納得する。ドレスはわかるけど、動きやすい服のくだりはあまり納得するとこじゃないと思うんだけどな。
「ノエルちゃんはどうして教会へ?」
オリガがアランの最初の疑問を再度聞く。アランもそういえばと今気づいたような顔をする。大丈夫かアラン。
「フィルが行くからよ」
それでノエルの説明が終わる。違うよ、友達作りのためだよ。
ノエル以外の2人の視線がこちらを向く。僕が説明するしかないのね。
「こういう教会とかに来た方がいろんな人と出会えるでしょ?アランとオリガも知っているけど、あまり話したことはなかったし」
2人に補足すると、納得してくれたようだ。
「とりあえず今日は見学で終わりだから、他の子達が何をやっているのか見てみようか」
周りを見てシスターが教えている子を見に行く。今教えているのは7歳前後くらいの子3人に、10歳くらいの子2人ついて、シスターと一緒に教えている。
内容は見た感じ計算のようだ。四則演算の足し算と引き算を教えているみたい。それが出来れば基本生きていく上で困ることはないので、基礎の部分になるのだろう。
違う机でも同じように3~4人に年上の子が2人くらいついて教えている。文字を教えている子の内容も見るが、文字の読みが多い。書きは読んでるうちに少しづつ覚えて、自分の名前や数字、自分の村の名前などだ。本格的には応用になるのかな。
この大陸について教えてもらっている子を見ると、内容はこの大陸の名前や自分の国の名前、隣り合っている国の名前や位置などを教えてもらっているみたい。歴史というより地理に近いかな。
魔法は室内では危ないので、屋外にある小さめの庭で教えているみたいだ。見に行ってみると、火種の魔法を教えているようだ。
教え方は魔道具を実際に使ってみて、その火を見たイメージをもとに「ファイア」と詠唱をしていた。
僕やノエルは詠唱を基本していない。詠唱をしなくても魔法は使えるからだが、詠唱をしない方が必ずしもいいということはない。何事にもメリットとデメリットがあるのだ。
無詠唱のメリットはもちろん、言葉を使う必要が無く魔法が使えること。タイムラグが無く、言葉にしないため相手に気づかれにくいというのがある。デメリットは魔法はイメージで発動させるので、イメージがより明確であることと、最初から連続でイメージしない場合、その度にイメージする必要があることだ。
詠唱のメリットは規格が決まっていることで、イメージ補完がしやすいため、無詠唱よりイメージを明確にしなくてもよく、言葉そのものにイメージが乗るので、熟練すれば違うことを考えていても魔法が発動できる。デメリットは規格が決まっていることと、隠密性が低いこと。
その他にもどちらにも一長一短があるが、詠唱魔法は発動が簡単になるということが1番のメリットだろう。言葉はイメージそのものになるので、一度発動してしまえば自分でイメージを変えない限り、詠唱魔法はいつも同じ規模で発動する。
なので詠唱を習い魔法を発動するのが、世間では一般になる。発動が簡単なるのだからなおさらだ。詠唱を覚えるのが大変なら、自分の覚えやすいイメージで詠唱すればいい。「ファイア」でも「火よ」でもイメージが同じなら、規模も同じだ。
詠唱が長ければ長いほどイメージが明確で規模が大きくなるのも、この世界では一般的な常識となっている。
教会では一般の教え方である詠唱をさせて、魔法を教えているのだ。魔素に関してはこの歳になると自然に魔素耐性ができ、魔素を感じ取れるようになっているだろうし、詠唱をして魔法を発動してしまえば、自分の中の魔素を消費するので、その感覚がよりわかるだろう。
あとはどの程度魔法練習に時間を費やすかで、魔力や質が上がるため、練習あるのみになる。
「見た感じ基礎となると習うことはあまりなさそうだね」
「そうね、わかっていたことだけど。要は今まで通りね」
僕とノエルは再度教会で習うことは無いと認識する。魔法はこれまで同様、教会ではなく個別で練習することになるだろう。
「フィルくんも魔法得意?」
そばにいたオリガが僕達の会話を聞いたのか質問をしてくる。ノエルは領主の娘だからもう基礎は習っているというのはわかるのだろうが、僕は違うからね。
「母さんが魔法が得意だからね。小さい頃から教わっていたんだ」
「なるほど」
「へ~俺の父ちゃんが弓得意だから、教わってたのと同じか」
「そうだね。魔法が楽しいっていうのもあったけど」
オリガとアランも納得という感じだ。この世界では親の仕事を継ぐことが一般的だから、それ以外の仕事に興味がある場合、こういう教会などの教えてくれるとこがあるというのは、とてもいいことだと思う。
「これから大変そうだなぁ、俺勉強苦手だし」
「私は運動の方が苦手だから、まだいいかな」
中庭から室内へ戻りながら今まで見てきた感じで、それぞれ思うことがあるようだ。シスターに一通り見学したことを話すと、僕達の授業は次からになるらしいので、今日はもう帰っていいそうだ。シスターに挨拶をしたあと、4人で教会を出て帰る。
一番近い家は広場に面している食堂があるオリガの家なので、みんなで一緒に行く。オリガの家である食堂に着くと、さすがにまだ夕食まで時間があるので、客はまばらで机などを拭いていたオリガの母親が気がついて声をかける。
「おかえり、オリガ。もう終わったのかい?」
「ただいま、ママ。今日は見学だけだった」
「そうかい。ノエルちゃんにフィルくん、アランくんも今日からだったね」
「「こんにちは」」
ここの食堂はみんな利用するからさすがにみんなの名前を知っているみたいだ。挨拶したあとアランくんとは反対方向なので、その場で別れノエルと一緒に帰路につく。
帰り道今日の夕飯を聞くような軽い感じで、ノエルがそうそうと前置きしたあと発言した。
「アイテムボックス出来るようになったわよ」
と。
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