第26話 基礎終了
教会に僕とノエルが通い出して2週間が過ぎた。最初の1週間、つまり教会に行って3回目にして、シスターから基礎終了のお達しを受けた。それはそうだよな。
文字は読める、書ける、計算は四則演算は暗算でも出来る。近場の地理は本を読んでいるので把握しているし、魔法は基礎は完璧、むしろ普通の大人よりも出来るのだ。
ぶっちゃけ僕とノエルに関しては教えることが何もないだろう。ノエルに関しては貴族なので予想していただろうが、僕に関しては予想外だったみたいだ。
ノエルに現在どこまで出来るのか、シスターが把握するため軽いテストをするとき、ノエルが僕も一緒にと言い出したため、一緒に受けさせてもらったのだが、ノエルと同じくらい出来るので、僕も一緒に基礎終了が言い渡された。
教会には友達作りに来ていると正直に話した。それなら同年代かちょっと上の子で勉強などでその子が教えて欲しそうだったら、よかったら教えてくれないかとシスターに頼まれた。
ここの教育は年上の子が年下の子を見る感じなのだが、その年上の子だって、成人してから生活するための勉強だったり、技術だったりを学ぶ時間が必要なので、年上の子は週1くらいのペースで空いた時間に来るのだ。なので教えてくれる人が多いに越したことはないとのこと。
シスターの提案には、僕達が教える本人が了承した場合のみ教えるという条件をつけてだが承諾した。自分より年下に教わることを嫌がる人がいるかもしれないからね。
そして現在、アランとオリガはシスターから基礎魔法を教わっていて、1つ上から5歳年上の子も一緒にシスターに教わっている。魔法はそんなすぐには成長しないし、練習方法も反復練習が多い。なので年齢で魔力の差が生まれるわけではない。隣で僕達2人も魔力強化の練習をしているわけだが、0歳から魔法を毎日訓練している僕達と5歳から魔法を教わり始める子供達には圧倒的な差がある。しかも潜在能力まで高いのだから差はもっとひらく。
僕達の基準が母さんやデリアさん達、冒険者でも優秀な人達だったため、そこまで気にしなかったが、今シスターから教わっている人達を見ると、改めて自分の魔力の強さを再認識することになった。
そしてそのことが広まると、年上の子達に囲まれて質問攻めに合うことになった。
ノエルには男子が、僕には女子が群がるのだが、ノエルは気さくで人見知りしないので、話しやすいのだが、それは自分から話す場合で、こういう場合はむしろ素っ気ない。
「いつごろから魔法の練習ってしてたの?」
「なんとなく」
「俺、最近剣の稽古で警備隊の人に褒められたんだぜ」
「そう」
「ノエルちゃん、ここ人多いから向こうで一緒に魔法の練習しない?」
「いや」
聞いているこっちがハラハラする。そして僕はといえば……
「ノエルちゃんもすごいけど、フィルくんもすごいね~」
「ありがとうございます」
「うんうん、フィルくんも小さい頃から魔法を練習してたの?」
「うん、魔法好きだから」
「ノエルちゃんは領主の娘さんだからわかるけど、フィルくんはどうして?」
「母さんが魔法が得意でそれで……」
出来るだけ答えようとするが、同時に質問するのはやめてほしい。聖徳太子でもないのだから、そんな一気に答えれないよ。そしてなぜか僕の頭を撫でるのはなんでなの?
教会には友達を作りに来ているし、女子ということもあってそんな邪険に出来るわけでもなく、アイテムゲートの魔法作成で培った方法での魔法練習をしながら、出来るだけ受け答える。
みんな魔法の練習しなくていいの?
さすがにこの状況だとダメだと思ったのかシスターが止めに入ってくれた。
「ほらみなさん、今は魔法の授業ですよ」
みんな子供の頃からシスターにはお世話になっているので、素直に従い各自の練習に戻る。ようやく一息つける。
ため息をついて魔法の練習に意識を戻そうとすると、隣から視線を感じる。もちろん隣にいるのはノエルなので、この視線はノエルだ。
「どうしたの?」
なんかジト目で見てくるので、質問してみる。
「楽しそうだったわね」
あれを見て楽しそうだと思える要素がどこにあったのか逆に教えて欲しい。
「一斉に話しかけてくるから、対応が大変だよ」
「全部対応しようとするからダメなのよ」
「でも……」
「毅然とした態度でいなさい。だから頭を撫でられるのよ」
「そんなの無理だよ……それに頭を撫でられるのって僕関係なくない?」
「隙が多いのがいけないわ」
なんだろ、釈然としないが言葉では勝てないとわかってるので、とりあえずわかったと返事をしておく。
そしてノエルが僕の頭を撫でる。あなたはいいのね。
「俺はやっぱり魔法って苦手だな。じっとしてるのが落ち着かないぜ」
授業も終わりあとは帰るだけになった。同い年のアランは、今日の授業である魔法の感想をいいながら、愚痴をもらす。
アランくんは動く方が好きみたいなので、じっとしてるのが苦手のようだ。魔法を使いながら動き回るって、たくさん練習しないと無理だからね。
「ノエルちゃんもフィルくんも魔法上手。今度教えて」
オリガは僕達の練習を見ていたのか、教えを頼んでくる。オリガは魔法に苦手意識はあまりないみたいだね。
「いいけど、魔法って結局反復練習が1番だからね。詠唱だと特にそうだし」
「コツとかないの?」
「魔素の動きをどれだけ感じれるかね。それが疎かだと魔道具を使ってるのと変わらないわ」
魔道具は魔素を流すだけだからね。決められた魔法だけ発動するから、詠唱魔法と原理は同じかもしれない。
「魔道具って高いからな~欲しくても変えないぜ」
「何か欲しい魔道具があるの?」
「うちは狩人だから、肉が保存できる魔道具があると便利だけど、高いって母ちゃんが言ってたぜ」
冷蔵庫の魔道具は気軽に持てるような金額ではない。貴族や商店などなら持っているだろうが、魔石も比較的大きいのが必要で、値段も高いからな。
「オリガの家にはあるのよね?」
「うん、仕込みを保存しておくのに必要だから」
食堂を経営しているオリガの家だと必要な魔道具だね。仕事で使うものだから。
「魔石に魔力を充填するのがいつも大変って言ってたけど、教会で魔法を教えてもらうようになったから、早く手伝えるようになりたくて」
それでオリガはコツとか聞いてきたのか。
「それまではしてなかったの?」
「魔素が感じられるようになったのもつい最近だし、ママに手伝うって言ってやってみたけど、すぐ疲れちゃって、そのあとお店手伝えないし、ママ達は店終わったあと充填するから、私必要なかった」
そういえば魔素流しで訓練でもしない限り、魔素を感じられるようになるのは、耐性が出来上がる5歳くらいだったな。
「俺は教会で魔道具使って、初めて魔素を感じたから、それまで魔素なんて感じなかったぜ?」
「そう考えるとオリガは優秀なのかもしれないわね。もしくはアランが鈍感なだけかもしれないけれど」
「それはひどいぜ」
ノエルの指摘にオリガが喜び、アランがうなだれる。
「まぁ魔道具を使っても魔力を鍛えることはできるから、オリガが店の冷蔵庫の充填をさせてもらえるように、お母さんにまた頼んでみるのもいいんじゃないかな」
「うん、帰ったら頼んでみる」
教会から出て、少し歩くとオリガの家である食堂でオリガと別れる。もう少しすると夕食の時間なので、オリガも食堂の手伝いにそのまま入るだろう。帰り際に手伝い頑張ってと労っておく。
食堂を通ったときいい匂いがしたので、アランのお腹が鳴った。
「今日の夕飯は何かな~肉が食いたいぜ」
さっきまでうなだれていたのが嘘のように、帰る足取りが早くなった。アランとも別れ、ノエルと一緒に帰り道を歩く。気づくと既にノエルはアイテムボックスから取り出したクッキーを食べていた。
「今から食べると夕飯食べられなくなるよ」
「ありえないから心配無用よ」
ありえないと言い切るノエルの顔は何故か誇らしげであった。
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