第2話 神
「……えますか?……」
まどろみの中でかすかに聞こえる。とても聞き心地のいい声でずっと聞いていたくなる声だ。
「……聞こえますか?縁よ……」
僕の名前を呼んでいるのか?だが返事をしようにも声はでない。本能的に目を開け体を動かそうとしても、そう思うだけで何かができているという反応が返ってこない。
「肉体がないので声は出せませんし目も見えません。それでは不自由でしょう。仮の形を創造します。話す場合は相手に思いを伝える感じで話てください」
その瞬間目の前が眩しく感じ目を細めながら声の正体を確認する。全体は薄いベールに包まれているが女の人だとわかる。女神って言葉がぴったり当てはまる神々しさだ。しかし思いを相手に伝える?こんな感じでいいのか?疑問はあるがそれも長く考えられず霧散していくような感覚がある。
「ここは輪廻転生をおこなう神域、場所という概念はありませんが、そう思ってください。魂の状態であるために肉体的動作や思考動作がおぼろげになりますが、そういうところだと解釈してください」
なるほど。声が出せないし、思考しても霧散していく感覚はそのためか。
「魂に呼び掛けているので、今からいう問いにも本能的に回答されるかと思いますが、そのための場所なので問題はありません。通常こういう風に話しかけることもあまりないのですが、今回は事情がありこのような形をとっています」
そうなのか。それで聞きたいこととは?
「あなたは現世で死亡されました。死因は老衰になっていますが、輪廻転生の折、原因に神の干渉が確認されましたので、こちらで調査が入りました。結果あなたに残っていた神の残滓からあなたへの神昇格への移行が認められました」
ん?どういうことだ?意味がわからない。神の残滓はあの島での出来事だろうが、なぜそれが神昇格になる?
「あなたの浄化したものはもとは最低位ですが神。最低位の神は基本、神がいちから作り出すのではなく、現世で生きる人の信仰心対象にこちらで選別したあなたのような前世で功績を成したり、神からの推薦で生まれます。あなたの場合は功績もあり、なおかつ神からの推薦もありました。なので、神昇格への移行が認められたのです」
ということは、あの残滓はよかったもの?だが体調が悪化したのは本当だ。
「元が神なだけで、あの時は悪霊としていました。その影響で悪霊しての残滓と神としての残滓が混在してあなたに乗り移りました。本来なら神の残滓だけなら悪い影響はなく、むしろ力が増したりなどいいことが多いのですが、悪霊の残滓と混在していたため、その力が悪霊の影響を強めていたので、体調が悪化し科学的原因はなく、老衰という形で亡くなりました」
なるほど。状況はだいたいわかりました。それで僕は?
「通常ですと神へ昇格し現世へ行っていただくのと、再び輪廻転生へもどり、現世の行いから算出された潜在能力を付与後、新たに転生することになるのですが、あなたの場合は少々事情が異なります」
なぜ?こういっては何だが特に悪いことをしたことはないし、全うに生きていたと思うのだが。
「あの人生をまっとうだと言い切れる時点ですでに、まっとうではないのですが。普通に生きてる人は神の浄化などはしないことはわかっていますか?」
ひどい言われようだ。しかし生まれたときから視えて話ができる者たちがいる状況でこうなるのは必然だと思うのだが。
「まぁそうなのですが、あなたの場合それが問題なのです」
Why?なぜ?
「いいですか、輪廻転生へ戻るときに現世の行いから算出された潜在能力を付与後、新たに転生します。これは絶対です。善人だとプラスへ悪人だとマイナスへとなりますが、潜在能力ですので、マイナスの潜在能力だったとしても努力次第でちゃんとした人生がおくれます。プラスの場合は同じ努力の場合、その期間が短くなり、容易になるのです。そこであなたなのですが、善行のしすぎなのです。プラス値が通常の人とかけ離れてしまっているのです」
いや、そんなこと言われても。いいことをしすぎて怒られても困る。
「怒っているわけではありません。呆れているのです」
ひどい言われようだ。ついさっきも同じ感想になったぞ。
「通常では成しえない善行の量。これは人ならざる者への干渉ができたことが原因ですが、その解決方法が対話であったため、人への善行と人ならざる者への善行の2重取りをしているのです。あなたの妻のように浄化能力があったとしても、人への善行でも人ならざる者への善行にはなりません」
なるほど、理解はできました。納得はしませんけど。それで僕の今後はどうなるのでしょうか?
「もっとも無難なのが神になることなのですが、それだとこれまでの善行とつりあいません。なので神になるとしたら神位が必然的に上がり、現世へは戻れないでしょう。輪廻へ戻るを選択すると潜在能力は飛躍的にあがり、日常生活を送るだけでほかの人との差が開いていきます。わかりやすく言えば、瞬間記憶、アスリート以上の身体能力向上、思考加速と並列処理能力など軒並み上がるので、努力せずして常人を上回ります。全力を出せないというのは本人が思っている以上に苦痛になるでしょう」
別に神になりたいわけじゃないし、普通に生きてもいけない。碌な選択肢がないな。もっと他にないのか?
「ここ最近になってある方法が確立されました。まぁ人気のジャンルといってもいいくらいではないでしょうか、日本人ってすごいですね。そちらならだいぶ状況は緩和されますが、あまりおすすめはしていません」
あるじゃないですか、おすすめしないと言ってもまだ2つよりましならいいかもしれないじゃないですか。詳しく聞いても?
「それは異世界転生です」
……うん、急にファンタジー感が増したな。人気ジャンル、いいじゃないか。なぜおすすめしないと?
「まず1つめは地球の日本に住んでいるというのは考えている以上に快適な生活をしています。したがって衣食住どれをとっても異世界に行くと質が落ちます。それは考えている以上に苦痛なのです。2つめは概念や倫理観の違いです。地球でよかったことでも異世界ではダメだったり、逆にOKだったりと色々違いがあります。ですが、異世界転生を望む方は大抵前世の記憶を持っていきたいと願うため、その2つにことのほか苦しむ傾向があります。基本異世界転生をする方はあなたのような善行をしている人なのでその傾向は顕著なのです」
なるほど。なかなかに厳しい世界のようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます