まったり異世界生活~潜在能力過多なのでスローライフは異世界でお願いします~

遣都

第1話 プロローグ

 他人には見えないものが見える。そんなとき、どう対処するかで人生は結構変わってくると思う。


 僕こと天野縁あまのえにしの場合は生まれたときから、既に見えていたみたいだと両親に聞かされた。いわく普通の赤ちゃんとは違って、そんなに泣かなかったそうだ。お腹が空いた時やオムツの交換の時以外は誰もいないのにキャッキャッ笑っていたみたい。

 そんな様子だが3人目の子供であったため、手がかからない子で良かったというだけで、すくすく育っていたが通常だと1~2歳頃に言葉を発する時期にさしかかるが、1歳の誕生日も迎えていないのにもかかわらず、いきなりしゃべりだし、しかも「ママ」や「パパ」などではなく「アオ」「アオ」と家族の名前でもなく、教えた様子もない言葉をしゃべりだしたものだから、ちょっとした騒ぎになった。


 そのため母親の祖父に相談したところ、土地神様が関係していることが判明。母親の実家は鎌倉から室町にかけて統治していた豪族が創建したと伝えられている歴史の古い神社で、今も近隣にある通称双子山と呼ばれる赤穗山あかほ青雲山あおぐもがあり、ここを霊地として祀られている。

 祖父の見立てによると、自分も人ならざる者の気配は若干感じ取れるようだが、縁の場合はしっかり見えているのではないかと判断したみたいだ。

 そして”アオ”という言葉から青雲山に祀られている神様ではないかとなり、祖父は自分の跡取りができたと大層喜んだそうだ。


 そんなこともあり、縁は人ならざる者が見えるにもかかわらず、親の愛情を一身に受けて(祖父の支援が大きい。孫だからね……)すくすく育ったが、幼少期は結構大変だった。

 まだ知識もなく、普通の人と人ならざる者の区別がつかないときは危険な目にもあった。呼ばれてついていこうとして車にひかれそうになることや、憑りつこうとして近づいてくるものもそれなりにいた。

 だけど僕には生まれた時から一緒にいる”アオ”が付いていてくれていたので、なんとか自分の身を守れるようになるまでは、僕の身を守ってくれていた。


 それに人ならざる者が全て悪いものではないのだ。”アオ”も人間から見れば人ならざる者であるし、憑りついているといっても、ご先祖様がついている人もいれば、亡くなったペットが飼い主を見守っていたりして、そういう”いい”人ならざる者は”アオ”みたいに、その人を守ってくれていたりするのだ。


 そんな人ならざる者がはっきりと見える僕は、日常的な生活をおくれるかというとそんなことはなく、人ならざる者を助けたりしているうちに、それにかかわる人をも助けたりと忙しい日々を過ごすことになった。無視して普通に暮らすという選択肢もあったのだろうが、生まれたときから一緒にいる”アオ”こと青葉あおばのお願いに弱い僕は、助けてほしいとお願いされるとその解決に動かざる負えない。もう家族みたいなものだしね。


 そんな生活をしているうちに祖父の勧めもあり、祖父がいる神社を継ぐため神職資格取得課程を有する大学を受験し、専門の学科を卒業。祖父と一緒に神職をこなしながら、人ならざる者への対処を仕事として請け負う日々を送ることになった。


 仕事を受けるにあたって依頼してくる人は3パターンくらいある。1つは一般の人で病院に行っても体調がよくならないとか、住んでいる場所で奇妙なことが起こるなど、噂の域を出ない、しかし科学では解明できないことがあると神頼みしかなく、SNSなどで噂を聞きつけて僕の神社に依頼にくるパターンだ。


 もう1つは人ならざる者からの直接の依頼。視える、聞こえるという能力を持つ僕のことは人ならざる者の間では結構有名らしく、さらにこの土地、通称双子山と呼ばれる赤穗山あかほ青雲山あおぐもが霊地なこと、そこに暮らす青葉とその家族が有名なのだ。赤穂山は霊鳥でイメージ的にはフェニックスだろう。鷹くらいの大きさで頭には長いトサカがあり、顎の回りには金色の冠毛、深紅色の体に空色の尻尾、全身が淡く発光している感じだ。青雲山は妖狐でイメージは九尾の狐だけど、尾の数は力に比例するらしく、青葉は3本、親は母親が1番強く12本、父親が11本で、そう考えると青葉も妖狐の中では力はそう強いわけじゃないみたいだけど、そもそも妖狐自体が強いらしく、空は霊鳥、地上は妖狐、海や川は河童が統括していて、それを見守っているのが神である。人ならざる者の世界も結構大変そうだ。


 最後のパターンは国からの依頼だ。むしろ副収入でいうとこっちが本命である。よくある依頼はその土地が安全かどうかの確認。公共施設を建てた場合、それが上手くいくかどうかは人間の手だが、人ならざる者から足を引っ張られても困るため、浄化という名目で依頼が来る。まぁ対応はこちらに任せているため、僕の場合は主に話し合いになるのだが、僕以外の同じ仕事を請け負っている人達だと話ができないため、強制退場をされるため、人ならざる者から評判は悪い。なので、僕との話し合いを望むものは多く、問題の解決率はほぼ100%なので、国からの評価もよく収入がいいのだ。


 二足の草鞋を履く生活を続け、国からの依頼を受けた際に知り合った僕と同業の女性と(あっちは最初ケンカ腰であったが……)あれやこれやあって結婚し、子供も生まれ、祖父もだいぶ前に他界、両親に孫の顔も見せることができたし、充実した人生だったんじゃないかと思う。そんな過去を振り返っているのは、今まさに自分の人生が終わろうとしていると感じているからだ。


 年も80歳を超え、国からの依頼も控えていたころ、どうしても自分にやって欲しいという依頼が国から来たため、最初は断ったがほかに依頼したが解決できないと説得され受けた依頼。


 内容はある島の開発で事故が多発するが原因がわからないというものだった。こういう依頼は高い確率で危険な依頼であり、現世への干渉度合いが高い危険な人ならざる者ほど強い傾向がある。僕の解決方法は主に話し合いで衝突する場合は自分も手伝うが青葉の力が大きい。地上を統括する者の系譜であるし、僕と一緒に過ごすことで今では尾の数が9本に増え、経験も豊富だ。


 そして対応にあたったわけだが、依頼は国から見れば成功したといえるが、僕個人としては失敗に終わった。元々この島は江戸時代に追放刑にあった人達が住む島で、その追放者も悪人ではなく、その当時開発に必要だった土地があり、退去を命じたが村人はここには土地神がいるため無理だと退去命令を拒否したため、住んでいた村人に罪をでっちあげ追放刑された人たちであり、その土地神と一緒に移り住んだ信仰された島なのだ。土地神はその土地に縛られるが独自信仰されていたのと、村人の中に高い霊能力者がいたため、その村人と一緒に島に奇跡的に移り住むことができたみたいだ。


 年月が経ち、この島に住む人が年々いなくなり、無人島になっても土地神は存在していた。信仰心はなくなり、神とは呼べなくなってはいるが、元は神。それなりの力を持っていたらしく、しかも過去の強制退去経験から悪霊へと変貌したみたいだ。結局話し合いは決裂し、僕と青葉、それに妻と対応にあたったが、浄化後の残滓が不意をつき、僕に乗り移ったらしく、これを機に体調が悪化。青葉や青葉の母とも解決を模索したが、その残滓は悪い残滓ではなく、その神の後悔の念だったようで、取り除いたとしてもこの歳のため、体調は万全にはならないだろうという結論になった。


 体調を万全にする方法もなくはなかったが、その方法が青葉の力を分け与えるというもので、青葉は了承したが僕はそれを拒否。妻と青葉には申し訳ないが、過去を振り返りもう十分生きた後悔のない人生だったと説得し、僕の人生は幕を閉じた。

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