第3話 青葉

 異世界転生のことはわかったが、メリットはないのか?


「異世界転生をした場合、あなたの善行を計算すると記憶を持って転生したとしても、それでもかなりの潜在能力を得ますが、前世とは違い異世界は能力が具現化する概念がありますから、持っていても不思議ではありませんし、むしろ生きていくにはだいぶ楽になるでしょう。しかしそれで前世と同様の生活を送れるかは別ですが」


 ふむ、善行ポイントみたいなのは記憶を持って行っても消費されるのか。それでも余ると。ならその僕の善行ポイント?みたいなのはほかの人に譲渡したりできないのか?


「……できなくはありません。しかし普通はしませんし、なにより譲渡する方の同意が必要ですが、その譲渡する方も通常の輪廻転生ではない方になります」


 どういうことだ?こちらの指定じゃだめなのか?


「こういってはなんですが、神はそこまで人を見ていません。輪廻転生とはその世界を円滑に運営するシステムだと思ってください。通常は自動で善行や悪行にあったポイントが振り分けられ転生していきます。あなたのように1つの魂に話しかけ説明するなどはありませんし、輪廻転生を行っているかもわからないでしょう。ただ、悪行を重ね汚れ切った魂は潜在能力のマイナス値が日常生活をおくれないと判断されたときに摩耗と判断され処分、浄化されます。その浄化でさえシステム上のなのです。なのでこうやって会話している自体の方が特例であり、数百年単位でないことなのです」


 思った以上に貴重な体験?だった。体はないけど。しかしそれなら青葉とかはどういった存在なのだろう?


「人ならざる者と呼んでいるものは、世界の調整役になります。神は基本世界へ干渉することはありません。なので世界崩壊が起こらないように調整しているのが彼らになります。それも調整役が独自判断を行えるように自我がありますし、世界崩壊という大本さえ調整してくれれば普通に生きていることになります。そういう概念のある世界なのだと理解してください」


 調整役なのだとしたら輪廻転生システムに組み込まれていないということになって、妻はダメでも青葉になら譲渡できるのではないか?


「可能ですが譲渡したとしてもそんなに変わるとは思えませんが……確認してみましょう。ここに一時的に意識を持ってきます」


 女神様が手を振りかざすと光が集まり青葉が形作られていく。生前見たときと変わらない、いつもそばにいた青葉の姿だ。艶やかな着物を好んで着ていた青葉を見ておぼろげな今の自分の状態でも感動して涙が出そうになる。自分の感覚的には死んだあとすぐここだったので、それほど時間がたった感覚はないはずなのだが。青葉の閉じていた目が開き、僕を確認すると目に涙をためながら抱き着いてきた。


!またあえた!あえたよ!」


 青葉がぎゅっと僕を抱きしめ名前を連呼する。生まれた時から一緒に過ごし、力を得て姿かたちが大人のそれになろうとも、青葉は若干子供のような無邪気さが抜けなかったからなぁ。


「僕も会えて嬉しいよ青葉。心配かけてごめんね」

「ううん、母上に別れの日が来ることはあの出来事がある前から言われてたの。生きている時間が違うからって。でもそれでもは私の特別だから」

「ありがとう」


 僕の顔を覗き込みながら特別だという感謝の言葉を聞いた青葉の笑顔は、幼少期の青葉とイメージがかぶってみえた。


 僕が亡くなったあとのことを青葉からひと通り聞き、皆元気にやっていることに安堵を覚えながら、本題に入る。女神様と話した事情を青葉にはなし、善行ポイントの譲渡をお願いしたのだが、青葉が少しうつむき考えたあと、女神様にとんでもないことを言い出した。


「私もと一緒に異世界に行きたい!」


 しかも満面の笑みで。あぁこの顔見覚えあるわぁ。もう私すごいこと思いついたみたいなこの顔、無理だと否定したときはひとかけらも私は間違っていないと駄々をこねまくる顔だ。


「青葉、あなたはまだ地球で生まれたばかりの存在なのです。それをすぐに別のところにというのは簡単な話ではありません」


 まぁそうだよなぁ。女神の言うことも最もだ。


「嫌、えにしと行く!」


 おぅ……the感情論。


「嫌ではありません。縁さんの子供もある程度が備わっていたはずです。それを見守るのもあなたの役目だと清香から言い含められているはずです」


 清香様は青葉の母親の名前だ。生前何度かお会いしたが、あまりに妖艶すぎて意図的に避けてた記憶がある。優しい方ではあるのだが、さすが地上を治める長だけあって風格も半端なかった。


「でも、が生まれたときにすごい強い力を持ってたのを危惧して私をずっとそばにいるように言ったのも母上よ」


 そうそう。初めて清香様にお会いした時にその話も聞いた。僕的には守ってくれていたのでホントに助かったと感謝を述べたのだ。


「それはこれまでのことでしょう。縁さんは違う世界に行くのです。今までとは違います」

「嫌、一緒に行く。今回の善行ポイントの件だって異世界に行ったあとを危惧してのことでしょう?それなら同じよ。私が見守るの。はい、決定!」

「決定ではありません。どうしてこんな子に育ったのでしょう……だいたいあなたは……」


 言い争いが止まらない。僕のことなのに置いてけぼり感がすごいな。どっちにもツッコミどころが満載な言い合いが続く中、僕は異世界に行ったら何しようとか、記憶はどうしようとか自分の新たな人生設計に思いをはせていたのだった。



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「わかりました、こうしましょう」


時間にして1時間以上かかった話し合い?は妥協案がでたようだ。


「青葉は縁さんと一緒に異世界に行きたい。縁さんもそれには同意しているのでそれは認めましょう」


いや、同意したわけではなく青葉の性格上あきらめないのを知ってるから、こっちが折れただけなのだが……


「よしっ!」


こら青葉、ガッツポーズなんてしない。


「しかし、縁さんが行く異世界は地球とは概念が違います。まず人ならざる者という存在はいるにはいますが、それは地球とは在り方自体が違います。なので、青葉の存在は異世界側に影響がない姿になります」

「え~この姿気に入ってるのに~」


青葉……仮にも女神様なのに言いたい放題だな……


「姿とは見た目のことではありません。それも若干変わるかもしれませんが、あちらでは地球にない魔法という概念があるので、それに合わせた存在になります。これは異世界に行く上では絶対です。次に縁さんの転生先ですが、青葉の存在があるのでいても大丈夫な生まれ、もしくは存在自体を感知できるような人がいない場所へ転生することになります。なので縁さんの方でこういうところに生まれたいという指定はできません。それは了承してください」


わかりました。生まれてすぐ死ぬような場所じゃなければなんとかなるだろう。青葉もいるんだし。


「えにし、大丈夫よ私にまかせなさい!絶対守ってあげるからね!」


鼻息荒いなぁ……逆に不安になるよ……


「なんでよっ!」

「……次の話をしますよ。次に記憶の持ち込みですが、縁さんの場合は持って行っても潜在能力が目に見えて減るというわけでもありませんし、問題ないかと思います。倫理観の違いで苦労するかもしれませんが、どうしますか?」


記憶かぁ。持って行っても知識は役立つだろうけど、親しい人にもう会えないとなるとちょっとなぁ。それに定番では命が軽い世界ってこともあるわけで、グロ耐性は人ならざる者を見てきた分、普通に生きた人よりはありそうだけど。


「なに悩んでるのよ。私がいるんだから潜在能力が多くなるように考えるべきよ。人の知識なんて曖昧なんだから、私が知識面でもハイスペックになればいいのよ。力はもとから強いし、は潜在能力を上げて、記憶は知識としてとどめる程度でいいのよ(私のことを覚えてないのは嫌だから、消すのは無しだけど)」


なるほど、それはありなんですかね?


「ええ、問題ありませんよ。地球という物語を体験した感じとでもいいましょうか。本人と別人の中間ぐらいの感じになるかと。善行ポイントが高いのでそこまでする必要はないと思いますが」


ふむ。それじゃこのままでもいいんじゃないのか?潜在能力も高いって言うんだし。


「ダメダメ!ホントこういうのには疎いんだから、は。お姉さんから借りて読んだ異世界転生ものの知識は私の方が多いんだから、あとは私にまかせなさい。はちょっと休んでなさい」


うちの姉ちゃんがライトノベル好きなの初めて知ったんだけど……まぁいいか。あとは青葉が何とかしてくれるっていうし、のんびりするか。


前世は結構忙しい日々を送ってたから、今度はもっとゆったりした人生が送れるといいなぁ。


そんなことを考えながら、その辺で横になり目をつぶり異世界に思いをはせるのであった。


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